140 一歩を踏み出して②
「たしかに! よくわかってんね夜風ちゃん!」
白い歯をにっと見せ顔をくしゃりと歪め朝陽は豪快に笑った。そしてさっそくきれいに編んだ髪をほどきにかかる。
いつ見ても鮮やかな赤髪を軽く振って掻き上げる陽気なほうの双子を、夜風は頬杖をついてジト目でにらんだ。
「どういうつもりですか。まさか銀河は来れなくなったんですか?」
「いんや。ちょっとした遊び心。あいつはじきに来るよ。ほら」
朝陽が目を向けた先を視線で追うと、確かに通りを歩いてくる双子の片割れが見える。弟のほうは白の生地に黒ネクタイの絵がプリントされたシャツ姿だった。
夜風のそばに見慣れた赤髪がいることに気づいたのか、ポケットに突っ込んでいた手を出して慌てて駆けてくる。
「んじゃあね、夜風ちゃん。うちの銀河をよろしくな」
イスを引く音がして振り返った夜風の頭にぽんっと手を置き、朝陽はそのまま歩き去っていく。息を荒げた弟が夜風のテーブルに着いた時には、カフェの角を颯爽と曲がっていった。
「あんの女たらし! 油断も隙もねえ!」
「朝陽さんにそんなつもりはないと思うけど?」
憤慨する銀河を大げさだと思って見上げると、わかってないとため息をつかれた。じゃあ教えて? と返せば仏頂面を下げて「やだ」とごねる。
気難しい銀河に夜風はくすりと笑って、テーブルにアイスティー代を置き立ち上がった。
「さ、行こう」
彼の腕を引いて朝陽が消えた角とは別のほうへ歩き出す。兄への劣等感がまだ拭えない銀河がすねた時は、さっさと気を逸らすのが一番だ。
そこで夜風は今日呼び出された理由を尋ねた。
「いっしょに行って欲しい場所があるって言ってたよね。どこ?」
「あー。美容院。髪短くしようと思って」
夜風は思わず足を止めた。銀河もまた朝陽の影から一歩踏み出そうとしている思いがよくわかる。そういえば珍しく、今日の彼は髪を下でひとつに束ねているだけだった。
「夜風に、最初に見てもらいたい。少し変わった俺を」
「うん。私も見たい。いろんな銀河をこれからたくさん見せて欲しい」
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