141 一歩を踏み出して③

 素直な気持ちを伝えると銀河はちょっと照れくさそうに、だけど子どものように頬をほころばせて笑った。


「じゃあ私もついでに短くしようかなあ」


 すでに決心した銀河に焦りを覚えて夜風はついこぼした。

 アクセサリーを身につけるのもいいけれど、ジンクスから思いきって抜け出すには弱いかもと悩んでいたのも事実だ。朝陽の提案に心が揺らぐ。


「えっ。夜風はそのままがいいのに!」


 銀河の口から朝陽に言った通りの言葉が飛び出してきて、夜風は堪える間もなく笑みが噴き出た。なんで笑ってんの、と訝しがる彼がますますおかしい。

 説明しようかと思ったが、首をかしげる銀河と知らないところで繋がっている感覚が心地よく手放しがたかった。


「銀河の即答がなんかツボっちゃった。銀河は長い髪のほうが好きなんだね」

「いや、短くしてもいいんだけど、結べるくらい残してて欲しいっていうか」


 言葉を濁らせる銀河を夜風は視線で問う。


「片側おさげにドーナツみたいなのつけた夜風かわ……よかったから」

「ドーナツ!」


 この人は何度ツボをついてくる気だろう! 流行どころかアクセサリーにも疎いなんて!

 さすがにシュシュをドーナツと言った無知さは自覚しているらしく、銀河はその言葉の甘さとは裏腹に苦い顔でにらんでくる。夜風は必死に口を押さえ爆笑の波をやり過ごした。


「それで止めたつもりか? 目が完全に笑ってるからな?」


 しかし、銀河の目は欺けなかった。


「罰としてドーナツの刑だ。気合いを入れろ夜風隊員」

「もう、隊員いじりやめてよ。ドーナツ持ってないし」


 最近、実動隊員に扮していたことをつつくようになった銀河に唇を尖らせつつ、夜風はキュロットのポケットを探る。

 その時手に当たった感触にピンとひらめいた。


「はいっ、銀河隊長! 気合いを注入するであります!」


 夜風はポケットの中のものの端をつまんでサッと取り出す。少し黄ばんだなんの変哲もない白いハンカチが舞い上がった。

 夜風はそれをヘアゴムの上に巻きつけてぎゅっと結ぶ。


「どうかな? 銀河」

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