142 一歩を踏み出して 終

 あまり上等ではない固めの生地がぴょこりと上向いて、子どもの下手な字が風に揺れる。


「うん。かっこいいよ」


 懐かしむように目を細めた銀河の腕を引いて、夜風はそっと胸に誓いを立てる。

 ひとりで抱え込んでしまいがちな彼がどんな怪我をしても治せるように、治癒師として歩みつづけることを。人々を思いやり助けることが、玉響の思いに応えることにもなるはずだから。


「ねえ銀河。湖で言いかけたこと、いつかちゃんと教えてね」

「……なんのことだっけ」

「ずるい! ほんとは覚えてるでしょ!」


 今はまだ手を繋ぐには少し遠い距離で歩き出したふたりを、瑠璃の宝玉は夜風の胸元で揺れるペンダントの中からおだやかに見守っていた。





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朝陽の表と裏 紺野 真夜中 @mayonaka_k

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