28 朝陽という男①
「え……?」
一段低くなった鏡花の声に不穏なものを感じた時、夜風の背後の扉がガチャリと開いた。
「鏡花ちゃーん、いる? って、どしたの」
肩が跳ね身を強張らせながら振り返った夜風を、二人組の男がきょとんと見つめていた。
ふたりはどちらもセキュリティ部門実動課の制服を着ている。その内の片割れ、仲間に肩を貸す男の首筋をさらりとなでた赤髪を見て夜風は声にならない絶叫を上げた。
間違いない。昨夜の泥酔男だ。
「きみもしかして新人? よくこんなに早く見つけられたなあ」
「その子は臨時の子よん、朝陽くん。ローレライ治癒団の夜風ちゃん」
「そっか。ローレライの人なら頼もしいな。俺、朝陽。よろしくな、夜風ちゃん」
ウインクつきで差し出された手を夜風は呆然と見つめていた。
この人が朝陽? じゃあ泥酔してたのも野犬に襲われていたのもこの人? 待って。それじゃあ子どもの時助けた男の子も……!
「あれ? おーい。だいじょうぶか? 熱でもある?」
額に伸ばされる手が目に飛び込んできて、夜風は弾かれるように顔を上げた。浅瀬の海を思わせる目と間近でぶつかる。しかしその水面はひどく澄みきっていた。
夜風の体から緊張がほどけていく。ひっそりとため息をついて考え直した。
「だいじょうぶです。ご心配ありがとうございます」
「そうか? あんまり気を張り過ぎるなよ」
「朝陽、ナンパはそれくらいにしてとりあえず座らせてくれ」
「ナンパじゃねえって!」
肩を支えられた仲間が抗議を上げたことで、朝陽からの視線が逸れた。夜風はようやく動けるようになり、丸イスを用意して鏡花の傍らに待機する。
朝陽は夜風のことを覚えていない。昨日の酒でなにもかもあやふやになっているのだろう。それなら夜風にあえてなにか言う言葉もなかった。
「左
訓練もほどほどにねえ、と言いながら鏡花は診断結果をカルテに書き込んでいく。
「こいつが馬鹿力なんだよ」
「悪かったって。今朝遅刻したし、気合い入れ直そうと思ったらつい」
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