76 終わらないで①
目で紙袋を示しながら問いかけてきた朝陽にうなずき返す。すると彼は「ふうん」とあごに手をやり、なにやら神妙な面持ちだ。夜風は前にしゃがみ込んだ。
「どうかしたんですか?」
「いや、珍しいなと思って。ここら一帯は実動隊の訓練場になってるから人の出入りは限られるんだ。まあ、風で飛んできたのかもな」
「実動隊の訓練場!?」
ゴミの出所よりも遥かに驚くべき単語が飛び出し、夜風は思わず叫ぶ。しかし朝陽はへらへらと笑って首をかしげた。
「あれ、気づかなかった? 通ってきた河口のところとかそのへんにも看板出てるけど。あんなおっかないヌシがいる湖で遊んで、子どもがうっかり食べられたら危ないだろー?」
「私とビク丸ちゃんもうっかり食べられそうになったんですけど!? 津波に呑まれてめちゃくちゃ危ない目に遭ったんですけどお!?」
肩に掴みかかった夜風にがくがくと揺さぶられながら朝陽は、訓練の時はうまくいったんだけどなあとこぼした。
まさか実動隊の訓練相手があの巨大カエルなのか。街の安全を守る保安官には対処しきれないより厳しい案件に駆り出される実動隊が、危険対象として選んだカエルとはじめてデートする一般女性を会わせて、訓練よろしく鬼ごっこして楽しめると思ったのか。
朝陽さんって時々天然って言われません?
「バッカじゃないの?」
「ひでー! 夜風ちゃんってば厳しい!」
しまった。本音と建前が逆になってしまった。
「とにかくもう行きましょう! 勝手に入ったの知られたら怒られます!」
夜風は両手で朝陽の腕をがっちり抱え引っ張った。朝陽は立ち上がったものの、ふらついてぶつかってくる。
押し倒されそうになって注意しようとした夜風は、そこで朝陽が笑みを噛み締めていることに気づいた。夜風の怪訝な視線を感じたか、朝陽はひくひくと震える腹を押さえて言う。
「いや、ごめん。こういう特別なところ連れてってあげたら女の子って普通喜ぶものだからさ。でも夜風ちゃん、怒るんだもん」
かわいくなくて悪かったですね。夜風はムッとして朝陽の腕を離そうとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます