122 暗いトンネル③

 朝陽を助けに行こうなんて思わなければよかったのだろうか。

 そうしたら夜風はいつも通り往診に向かって、野犬が出た時には玉響の家にいたかもしれない。患者みんなに声をかけて、玉響の手を離さないで、ローレライ治癒団の診療所から港島へ無事に着いたと今頃笑い合っていた。

 私が、身の丈に合わない願いを持たなければ……。


「私の、せいだ。私がそばにいなっ、玉響さん……たまゆら、さ……」

「違うよ、夜風。お前のせいじゃない」


――全部、俺のミスだ。

 ふと気がつくと、夜風の頭の中ではぐるぐると銀河のその言葉がくり返し流れていた。

 そういえば背中が寒いと思って振り返ると銀河がいない。ビク丸は水路から通路へ項垂れて、気遣わしげに夜風の顔を覗き込んでいた。

 どれくらいの時間が経ったのか、トンネルに差し込む陽光は黄金こがね色を帯びている。

 銀河はどこに行ったのか。朝陽の避難誘導は進んでいるのか。野犬はどうなったか。ぽつぽつと思考が浮かんでは消えていく。海底から生まれる泡のように、音もなく弾ける。

 すべてがどうでもよかった。ただ玉響とこうしていっしょにいたかった。たとえ夕陽に輝くトンネルの縁から野犬が現れ、首に噛みつかれようともどうでもいい。


「玉響さん、ごめんなさい。わたし、なにもできな、かった……」

『いいんだよ、夜風。私は還る時を待っていたんだから』

「え……」


 突然、水路に響いた声は間違いなく玉響のものだった。夜風は目を見開き弾かれるように顔を上げる。

 すると目の前で玉響の遺体がみるみる青い砂となって朽ちていく。言葉を失う夜風の瞳にひと際深く青い光が映り込んだ。

 それは残った服を押し上げて、襟元から魚のようにふよりと浮かび上がる。瑠璃るり色の玉だ。直径二センチくらいだろうか。

 砂や貝がらとたわむれるやさしい波音とともに、その玉はぽんっとひとつ跳ねてあたりを青く照らした。


『夜風、やっぱり来てくれたのね』

「玉響さん……?」


 青い球体はうなずくように大きく上下に揺れる。

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