131 交わることのない想い②
「あれは事故じゃない! お前らが結晶体を掘り起こし環境を破壊したせいだ! 縄張り意識の強いダークウルフが民家に入ってきたことなど一度もない! だがあの冬は特にエサが獲れなかった! お前らのせいで! お前らが村に野犬を招き入れたんだ! お前らが僕の妻と息子を殺した! この痛みと苦しみがわからないから簡単に事故などとほざける。だから思い知らせてやったんだよ。僕の苦しみとお前らの罪を!」
主の感情に呼応するように二匹の毒狼は爪を立て低く構え、よだれをまき散らしながら激しく吠えた。ギラギラと血走る金の目は、男と同じくどことも知れぬ彼方を向いている。
銀河はショック銃を握り込み、奥歯を噛んだ。
悔しいが男の主張をすべて跳ねつけることはできない。エクラ社が精霊の結晶体を採掘するようになってからの気象データには、過去最高の気温更新や降水量、果てには地震の頻度まで変化が表れている。
そのすべてを結晶体採掘と結びつけられないことが事実なら、まったく関連はないと言いきれる根拠もないことも事実だった。
「……もしも、お前の言う通りならそれは俺たちの課題だ。エクラ社はすでに結晶体採掘と気象変化の因果関係の検証に乗り出している。そこで問題があれば俺とて黙っているつもりはない。諜報課としてな。でもな、俺たちとお前には根本に違いがあるんだよ」
片方の目元だけがまるで別の部品であるかのようにひくひくと震わせている男へ、銀河は銃口を突きつけた。
「それは想いだ! エクラの魔装具は人々を守り助けたいと願う想いの結晶! お前の人を傷つけようとする利己主義とは違う!」
「詭弁だ! 僕の妻と息子は助けてくれなかった偽善者どもが、胸くそ悪いきれいごとを語るなあ!」
男が鋭く腕を振ると、二匹の毒狼は吠え立てながら左右に展開し走り出した。銀河は右へ体を捌きつつ、夕陽に牙をおどろおどろしく光らせ飛びかかってきた一匹に電流弾を撃ち込む。短い鼻先で弾けたそれは毒狼の目と胸に当たり、青い閃光をほとばしらせた。
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