34 2度目のキス①

 夜風は飾り気のないポニーテールにした自分の髪を触ってうなった。


「鏡花さん。私ってつまらないですか……?」


 きょとんと瞬いた鏡花は、夜風の気にするところを察すると弾けるように笑った。


「そんなことないわ! 夜風ちゃんはとってもかわいいわよ。あたしは好き。だってひと目見て『この子となら仲よくなれる!』って思ったもの!」


 親しみを感じてもらえるのはありがたいし、鏡花の笑みにもお世辞は感じなかった。けれどもどうにも「かわいい」の意味が「微笑ましい」に近い気がする。

 田舎を出て二年経っても都会に馴染みきれない野暮ったさが、礼を言う夜風の笑みに苦味をにじませた。




 本社医務室の勤務に就いて五日目。今日は土曜日だ。ついに鏡花のいないひとり勤務日を迎えてしまった。

 やたら緊張した夜風は朝早くに目が覚めてしまい、予定より三十分も早い水上バスに乗り込んだ。平日とはまた一段と静まり返る社内を体感しつつ、四十階・ガーデンフロア片隅にある医務室に出勤した。

 余裕のある時間を利用して、棚からファイルを取り出し先任の治癒師たちが残した報告書を読み込む。その内容はどれも寝不足による体調不良や、水分補給を怠った熱中症などの症状だった。

 これなら確かに治癒魔装具を使うこともないかもしれない。それに平均患者数は二、三人。多くても五人程度だ。

 平日の時も思ったが、受付開始時間からひっきりなしに外来患者が訪れるローレライ治癒団よりも、本社のほうが実に優雅だ。

 夜風はいつもなら鏡花が座っているイスに背を預け、首を反らして天井を仰ぎ見る。


「これで特別手当ても出るってラッキーだよね? 本社勤務でもいいかもー」


 ちょうどよく人手が足りていないようだし、今名乗り出ればきっと採用される。

 そこまで考えた夜風は、ハッと我に返り机にかじりついて浮かれた頭を振った。


「いやいや、なに言ってるの夜風。ここは危険な職場よ。赤犬が来たら私は息も吸わせてもらえないんだから。ガチ勢に目をつけられたら地獄だわ」

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