63 追いかけっこ?①

 それに負けじと大きな声で笑う朝陽に、夜風はどうしても我慢ならなくなり一発ひじ鉄を食らわせた。




「あ、夜風ちゃん。そこ右入って」


 入江の外に出た夜風は朝陽の案内に従って小島の岸沿いにビク丸を進めた。そして半周もしただろうかと思われた時、朝陽が指さした先を見て目をぱちくりする。

 そこは細い用水路のような入り口だった。


「入ってだいじょうぶですか?」

「だいじょうぶ。湖から流れる河口だから」


 湖があるのかと小さく驚きつつ、夜風はどうにかコツを掴んだ手綱捌きでビク丸の頭を河口へ向ける。

 小島の東端に近い場所だった。ファーム本館とは真逆の方角だ。さすがに家族とはここまで足を伸ばしたことがなく、夜風は小さな川をきょろきょろと見回す。

 両側は背の高いやぶに囲まれて、草影から虫の声が響いてくる。人々の喧騒は遥かに遠く、生き物たちの息遣いを感ずれど姿は見えない。

 やがてやぶが途切れて視界が開けた。


「わあ……!」


 夜風は身を乗り出さずにはいられなかった。青い青い水が湖をなみなみと満たしている。澄みきったその清水は太陽の光を水底まで通し、黒々とした岩の影や水草の緑をはっきりと浮かび上がらせていた。

 水流に揺蕩う草原には白い花が咲き、魚たちもその可憐さに誘われ身を寄せている。

 そこへ大きな影が覆いかぶさりあっという間に魚たちが逃げ出した。なにかと思えばビク丸の影だった。ビクの影も大きなカメのように青い水底を泳いでいる。

 よく見るとその横にもやが立ち込めていて夜風は首をひねった。


「朝陽さん。あそこなんだかもやもやしていませんか?」

「ああ。水が湧いてるんだ。あたりの砂利がそれで跳ね回ってんのよ」

「湧き水? どこから流れてるんでしょう。この小島に山はないですよね」

「旧市街島の南側の山だよ」

「え! だって海がありますよ?」

「地下で繋がってるんだ。それがここで噴き出して湖になってる」

「すごい。こんなにたくさんの水が地下に……」

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