64 追いかけっこ?②
夜風は改めて湖を覗き込んだ。なんの魚かはわからないけれど、どの個体も体が大きく立派なひれをなびかせている。夏風がふとやんだ静寂の中、水面がぴんと張った瞬間水底まで遮るものはなくなり、魚たちは深い青の空を泳いでいるかのようだった。
「気に入った?」
顔を覗き込むようにして朝陽が首をかしげる。
「はい。魚もビク丸ちゃんもまるで宙を飛んでるみたい! 水草が草原のようで、それを上から見てるなんて不思議な気分です。なんだかとてもわくわくします」
「ふふっ。これからもっとわくわくするかもよ?」
いたずらめいた微笑みを浮かべて朝陽は湖の真ん中へと夜風をうながす。珍しい花でもあるのかと胸を高鳴らせた夜風だったが、中央は水深が深く底まで見通せない。だったら魚かしらとあたりを見回す夜風の後ろで、朝陽は水面をバシャバシャと叩きはじめた。
「うーん。そろそろ来てもいい頃だけどなあ」
ビク丸の影も映らない暗い水中を見つめて朝陽はぼやく。やっぱり生き物らしいが、そんな水音を立てていたら逃げてしまうのでは? と夜風が疑問を抱いた時、暗闇の中でなにかがうごめいた。
「え」
「来た来た。夜風ちゃん手綱しっかり持って! 岸に向かってくれ!」
わけもわからず夜風は朝陽に急かされて手綱を引く。ビク丸が岸に向かって泳ぎはじめた時、視界の端で湖面が盛り上がった。
「えええ!?」
それはみるみる小山ほどにふくれ上がり、ザアッと滝のような荒々しい流水音とともに現れる。白いベールの向こうからぬっと顔を出したのは巨大なカエルだ。
巨体のわりに小さな目玉は角のように先が天を向いている。ゴツゴツと突起物の生えた肌は黄色い斑模様が広がり、その斑点を青色が縁取っている。見た目は色鮮やかで美しいと言えなくもない巨大カエルは、ビク丸ごと朝陽も夜風もけろりと丸呑みできる大口を開けて吠えた。
あまりの重低音に鼓膜どころか心臓までビリビリと震わせたその声は、夜風の悲鳴を掻き消した。
「なんですかあれ!? どういうことです!?」
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