第68話 町人Aは帝都に潜入する
アナを攫った男は帝都に逃げ込んだ。そう知らせてくれたのはメリッサちゃんだった。
夜、寝静まっている要塞の俺の部屋の窓にぬっとメリッサちゃんの顔が映った時は一瞬心臓が止まりそうになったが、すぐにアナの事だと分かり心を落ち着けた。
俺はメリッサちゃんにお礼を言うとすぐさま外に出てブイトール改を取り出し、垂直離陸で空へと舞い上がる。
「ちょっと、どうする気?」
「何をしてでも取り返す!」
「はあ、全く。良いわ。あたしたちも手伝ってあげるわ」
ブイトール改のスピードにも遅れることなくついてくるメリッサちゃんは事もなげにそう言った。
「え? でもお礼はもう」
「いいのよ。今のアレンさんは何だか焦りすぎてて放っておけないのよね。大体、いつだってアレンさんは他の誰かの事ばかり。ジェリーのことだって放っておけばよかったんだし、ピンクの変なのが攻めてくるのだって、わざわざ言う必要なんて無かったでしょ?」
「あ、それは……」
「で、わざわざアレンさんがそう言ってたのにあんなに弱かったってことは、あのピンクはあなたに関係ある人で、あなたが手を回したおかげで弱かったのよね?」
確かに、関係ないとは言えない。俺があの決闘で勝ったせいで、色々と狂ったことは間違いないだろう。
「それは、結果的にそうだっただけで俺は別に」
「ああ、もう。いいから手伝わせなさい。そもそも、アレンさんの
「……ありがとう。でも、無理はするなよ?」
そう言うと、メリッサちゃんの表情が笑顔になった。
「ア、ア、ア、アレンさん!」
ジェローム君がものすごいスピードで俺の近くまで飛んできて、俺たちと並んできた。
「ききき、聞いたよ。任せて! テート? とかいうの、僕が滅ぼすから!」
「いや、だからそうじゃねぇって。無差別攻撃したらアナに当たるかもしれないからダメだ。まずは忍び込んで情報収集をする」
「じゃ、じゃあ、当てなければ、いい?」
「まあ、絶対に当たらないならな」
「わかった。任せてよ!」
飛びながら尻尾をブンブンと振っている。ジェローム君のこの癖は今でも変わっていない。あの時はヘタレだったジェローム君も今はとても頼もしく感じる。
「とりあえず、俺は忍び込んで探す。メリッサちゃんとジェローム君は脱出の時の陽動を頼む」
「任せなさい。それと、アレンさんの番は帝都の真ん中にある一番大きな建物にいるわ」
「どうしてそんなことが?」
「当たり前でしょ? スカイドラゴンであるあたしたちがあれだけきっちり匂いを嗅いで覚えたのよ? どこにいるかなんてすぐにわかるわ」
「おお、すごいな」
「ふふん。どう? あたしたちが仲間で良かったでしょ?」
「ああ。本当に。ありがとう!」
「どういたしまして!」
そうして俺は頼もしい二匹の仲間と一緒に、星明りを頼りにエスト帝国の帝都へと向かって飛び続けたのだった。
****
そうして俺たちは闇夜に紛れて帝都の上空に到着した。
そもそも、これだけ暗い中ではメリッサちゃんとジェローム君の案内が無ければここまで辿りつくことはできなかっただろう。
本当に、俺はいい友人に恵まれた。
さて、目を下に向けると夜でも大通りの街灯には明かりが灯されていて、町の中心にある宮殿や大きな建物の窓からは明かりが漏れている。
どうやら随分と栄えているようだ。
「一発、ぶちかましてやる」
俺はガソリン入りの瓶を錬成して宮殿の近くに無差別に投下する。そして今回は一発で火の手が上がってくれた。宮殿の近くで突如爆発、炎上したことで辺りは蜂の巣をつついたような騒ぎとなっている。
「もういけるんじゃないかしら?」
「そうだな」
俺は警備が薄い宮殿の裏庭に着陸する。そして俺はブイトール改を錬成で地面の下に埋めて分からないように隠した。
「それじゃあ、頑張るのよ! 番の娘の匂いはあの建物からよ。でも、これだけ近いのにものすごく弱いから、建物の奥深くかもしれないわね」
「わかった! ありがとう!」
俺はすぐに【隠密】を使って隠れるとメリッサちゃんの指さしたその建物へと駆け出す。
そんな俺を見届けたメリッサちゃんはそのまま上空へと飛び立っていったのだった。
そして俺は建物の中へと侵入する。俺は聞き耳を立てながらも地下への入り口を探すが、それらしい場所は見当たらない。
なぜ俺が地下への入り口を探しているかというと、それはメリッサちゃんの言っていた言葉から推測した結果だ。
まず、メリッサちゃんは「匂い」で感知していると言っていた。
だが、俺たちの考える匂いだけでどこにいるかすぐわかる、などということはありえないはずだ。
どれだけ敏感な鼻を持っていたとしても、風や他の匂いが混ざることを考慮すれば何十キロも離れた場所からすぐに分かるなんてことはあり得ないはずだ。
確か、鼻が一番良い動物として有名だったゾウだって風向きがいい時に数キロとか、そんなレベルだったはずだ。
ということは、だ。
俺たち人間が匂いと呼んでいるものではなく、別の何か、例えば魔力的なものとか、そういったものを「匂い」と呼んで追いかけていて、それをスカイドラゴンは鼻を使って感知しているのではないかと俺は推測したのだ。
そして、建物の奥にいるとその「匂い」が薄くなるということは、この宮殿のように分厚い石などで隔てられるということだと思う。
なぜなら、カルダチアでのことから分かる様に、石造りの部屋で寝ていた俺は一発で発見された。
つまり、窓ガラス一枚程度ではその「匂い」は減衰しないということだ。
そして、こう言った建物は普通、部屋には窓があるし、上空から見た限りこの建物には中庭が存在する。
となると、天井から床、そして四方の壁の全てを分厚い石や土などで囲まれ、かつ窓が無いという条件は地下室以外にあり得ないはずだ。
アナ、無事でいてくれ!
俺はそう祈りつつも、懸命に探索を続けるのだった。
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