第21話 町人Aは親孝行をする(前編)
「アレン坊、お前すげぇじゃねぇか」
「ありがとうございます!」
師匠にゴブリンロードの魔石を提出して買い取ってもらった。これで俺のギルドカードにゴブリン迷宮の踏破という実績が付与される。
俺は今、馬車でシュトレーゼンからルールデンへと戻ってきてギルドに顔を出しているのだ。
「それにゴブリンを合計で 138 匹討伐か。これなら当面はシュトレーゼンのゴブリンは大丈夫そうだ。よくやったぞ、アレン坊!」
師匠は俺の頭をそう言ってワシワシと乱暴に撫でてくる。
こうしてシュトレーゼンのゴブリン退治の常設依頼は取り下げられることになったのだった。
さて、今の俺のギルドカードはこうなっている。
────
名前:アレン
ランク:E
年齢: 12
加護:【風神】
スキル:【隠密】【鑑定】【錬金】【風魔法】【多重詠唱】【無詠唱】
居住地:ルールデン
所持金: 5,519,416
レベル: 6
体力:E
魔力:D
実績:ゴブリン迷宮踏破
────
レベルも 6 になり、討伐報酬の 20 万も入り、ゴブリン迷宮の踏破報酬、というかゴブリンロードの魔石の売却益 50 万も手に入った。
次の作戦は、ゴブリン迷宮での高速周回によるレベル上げだ。そうしてレベルを上げて次の迷宮に挑めるようにしたいのだが、高速周回するとなるとゴブリンロードを一発で倒せる武器が欲しい。そうでなければ次に計画しているオークの大迷宮を突破することは難しいだろう。
なので、しばらくは新しい銃の研究開発をすることになるだろうから、一度引っ越しをしたい。いつまでもワンルームの狭い家で母さんと同じ部屋で寝るというのもどうかと思うし、それに物資をため込む倉庫も欲しい。
2 LDK か 3 DK くらいの部屋に引っ越して、母さんにももう少しいい暮らしをさせてあげたいと思うのだ。
というわけで、俺はギルドでの手続きを終えて帰ってきた。
「母さん、ただいま」
「ああ、アレン。おかえり。怪我はなかった?」
「大丈夫だよ。ゴブリン迷宮を踏破してきたよ。母さんこそ、元気だった?」
「もちろん、母さんはいつでも元気よ。それにね、隣のマルチナさんたらね……」
何でもないけれど大切な親子の会話で、それが何よりも俺を暖かい気持ちにさせてくれる。やはり
「ところでさ、母さん。俺もお金を大分稼げるようになってきたし、一緒に広い部屋に引っ越さない?」
俺は本題を切り出す。
「アレン、まだこのお家で暮らせるでしょ? それに、あなたが稼いだお金は自分で使いなさい。子供の世話になることなんか、期待していませんよ?」
まあ、そう言うと思ったけどさ。
「そうじゃないんだよ。ちょっと冒険者やっているとさ、荷物が増えて困るんだ。でもほら、ここじゃあまりものを置けないじゃん。だからって家族が別れて住んでも家賃が無駄にかかってもったいないと思うんだ。だから、さ。俺が引っ越したいんだ。そこに母さんも一緒に来てくれると嬉しいなって」
母さんが俺を見てじっくり考えている。
「そ、それにほら。俺よく家を空けるからさ。母さんに住んで家事してもらった方が嬉しいっていうか……」
俺が言いよどんだところで柔らかい感触が俺を包む。
母さんにぎゅっと、それでいて優しく抱きしめてもらっているのだ。
「馬鹿ね。そんなに言わなくても、母さんはアレンが幸せにしてくれるのが一番なんだよ?」
いつぶりだろうか。こうしてもらったのは。暖かいものが心を満たしていく。
「さ、明日はお休みだし、一緒に新しい家を探そうか?」
「うん!」
俺は母さんの言葉に素直に頷くのだった。
****
「はあ、それで母ちゃんを連れてギルドまで来たってわけか」
師匠が呆れ顔で俺を見てそう言った。
「いつも息子がお世話になってます。あの、息子はしっかりやれていますか? 皆さんにご迷惑をお掛けしていませんか?」
「お、おう。アレン坊は頑張ってるよ。えーと……」
「アレンの母でカテリナといいます。よろしくお願いします」
「俺は受付でアレン坊に剣術を教えているルドルフだ。よろしく頼む。で、アレン坊はウチのギルドの期待の新人だ。実績も申し分ないし、なにより 4 年もの間ほぼ毎日欠かさずどぶさらいを続ける根性もある。気にしている連中も多いから、D ランクに上がりでもしたらパーティーに誘いたいってやつも多い」
「それはそれは。いつも本当にありがとうございます」
「お、おう」
しかし、そうか。パーティーなんて話も出るのか。E ランクをパーティーに入れると受けられる依頼に制限が掛かるから嫌がられるけど、D なら制限がなくなるもんな。
良くしてもらっているという自覚はあるけど、俺には運命破壊計画があるし、どうしようかな。
あ、でもまあ、上がってから考えればいいか。
今考えても仕方ないと思い直した俺は本題に戻る。
「それで師匠。丁度いい物件を紹介してほしいんです」
「だからな、アレン坊。ギルドは不動産屋じゃないぞ? それに多少は紹介できるが冒険者向けだからな。あまり治安の良くない場所にあるし一般人のカテリナさんが住むには向かないと思うぞ」
「じゃあ、不動産屋さんを紹介してください!」
「お、おう。今日のアレン坊はいつもより食い気味だな。そういうことなら……」
「あら? アレン君、お引越しするの?」
横からモニカさんが口を挟んできた。私服姿だからまだ勤務時間ではなさそうだが、今日はいきなり抱きついて来ないぞ。
「そうなんです、モニカさん。俺も少しは稼げるようになってきたので、母さんと少し広い部屋に引っ越そうかと思って」
「そう。偉いわ。それなら、うちに来ない?」
「は?」
「ちょっと、アレン君? 何想像したのかな?」
そう言うとモニカさんはペロリと妖艶に唇を舐める。普通の人だとその仕草でドキッとするだろうが、俺は蛇が舌を出しているかのような錯覚を覚えた。
「え、あ、いや」
俺が返事に窮しているとモニカさんが話を切り替えてくれた。
「うちのお父さんがアパート経営しているの。だから、アレン君が家族で住むのに丁度いい家を紹介できるよ? あ、アレン君のお母さん、あたしはここでウェイトレスをしているモニカっていいます。よろしくお願いします」
「カテリナです。息子のアレンがいつもお世話になっております」
遅ればせながら二人が挨拶を交わす。
「なるほど。モニカんとこなら安全だな。だが、ちょっと高いんじゃないか?」
「アレン君たちなら月 10 でいいよ? まあ、見てから決めなよ」
10 万はちょっと高いか? いやでもあのボロのワンルームでも多分 6 ~ 7 万くらいはかかってるだろうし、お買い得か?
「はい。じゃあ見に行きたいです」
「じゃあ、決まりね!」
こうしてモニカさんのお父さんのアパートを見に行くことになったのだった。
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