第20話 町人Aはゴブリン迷宮を攻略する
「俺はアレン。ゴブリン退治の依頼を受けてきた」
「おお、来てくれたか。儂がここの村長じゃ。随分と若い少年じゃな。ま、よろしく頼むぞ。ここ半年ほど誰も来てくれなくて困っていたところなのじゃ」
俺は村長の爺さんに挨拶をすると、寝泊りするための小屋を借りた。依頼の契約上、宿泊場所の提供はこの村がすることになっているので家賃は無料だが、水や食事は自分で買う必要がある。
そしてゴブリンの討伐報酬は一匹 1,500 セント。討伐の証明として差し出す魔石の値段込みで、だ。
ゴブリンは肉も食べられない、たまに武器を持っているがボロボロで使い物にならない、ゴブリンの魔石も大きいレアもの以外は大した値段がつかない、そのくせ集団で襲って来るので命の危険がある、と冒険者からしてみればあまり戦いたくない相手だ。
王都の遺跡の時のように巣を作って集まっているなら集めたお宝があったりもするが、そうでないときは本当に大した稼ぎにならないのだ。
と、まあそんな事情もあり、ある程度の便宜を図らないと冒険者は来てくれない。
だからこの村も宿泊場所を無償で提供してくれてはいるのだが、この村の場合は水と食事がタダじゃないので滞在するだけでも一日 2,000 ~ 3,000 セントぐらいはかかる。
そりゃあ、半年ほど誰も来ないのも当たり前だろう。俺もレベル上げの用事が済んだらもう受けることはないだろうしな。
****
明くる朝、俺はゴブリン迷宮の方へと向かった。
手には【錬金】スキルで生み出した AK-47 風の自動小銃、カラシを抱えている。名前の由来はもちろん、カラシニコフだ。
ただ、これは火薬による爆発で弾を飛ばすのではなく風魔法による圧縮空気のバーストで弾を飛ばすのだ。
リロードとマガジンの仕組みが上手くいかずに随分と苦労した。ブイトールの開発と並行して開発を進めていたのだが、今回ようやく実戦投入と相成ったわけだ。
え? 何故そんなに銃の仕組みに詳しいのかって? そりゃ前世の俺が銃オタだったからに決まってるじゃないか。
前世では飛行機と銃が大好きで、子供の頃の夢は戦闘機のパイロットだった。それに大学生のころは旧ソ連圏や東南アジアで試射や整備解体体験ツアーに参加したことだってある。
そんな俺が前世で最終的に行きついた先は航空エンジニアだったわけだが、今この状況になったのなら自重なんてするわけがない。
さて、遠くにゴブリンが見える。迷宮から出てきて徘徊しているゴブリンなのだろう。
俺はカラシを構えると狙いを定め、引き金を引く。
ダーン、ダーン、ダーン
三発打ったうちの一発だけがゴブリンの右胸に命中した。やはり簡単には命中してくれない。これは剣の修行ばかりやっていないで射撃訓練も増やすべきかもしれない。
ダーン
俺は
やはり残念ながら今の俺には遠距離から急所を撃ち抜く腕はない。であれば、やることは一つだ。
俺は【隠密】のスキルで姿を隠してゴブリンを探す。そしてそのまましばらく歩いていると 3 匹のゴブリンがまとまって歩いているのを見かけた。
俺はそのまま近づいて後ろに回り込み、 5 メートルほどの至近距離から乱射する。
ダンダンダンダンダンダン……
流石にこの距離ならそれなりの位置に弾が命中し、ゴブリンたちは倒れる。そして俺は近づくとまだ息のあるゴブリンの頭を打ち抜き絶命させる。
「は、はは。なんだ。楽勝じゃないか」
8 才の時恐怖でしかなかったゴブリンが複数でも簡単に倒せている事実に少し興奮するが、やるべきことはきっちりとやっておく。
遺体を燃やして処分しなければ他の魔物を誘引してしまうのだ。
俺は倒したゴブリンの魔石を取り出すと急いで焼却処分する。
そしてその後、森の中にいた 15 匹のゴブリンを退治して今日の狩りを終えて村へと撤退した。
「今日の納品は 12 匹のゴブリンの魔石 12 個だ。村長、確認してくれ」
俺は 12 個の採れたての魔石を村長に渡す。
「うむ。確かに。ではギルドカードを」
俺はギルドカードを差し出す。村長は俺のものとは色の違うギルドカードを出して俺のギルドカードにタッチする。
『依頼番号:RR1STL154、常設依頼、内容:ゴブリンの討伐。討伐数 12。依頼主より承認されました』
これで依頼の達成が承認されたことになる。この世界は一部においてやたらと都合がいいが、もともとは設定ゆるゆるの乙女ゲームの世界だ。この辺りは気にしたら負けだろう。
****
そして翌日、俺は再びゴブリン退治に繰り出した。
ちなみに、昨日討伐数として報告しなかった 7 匹分の魔石のうち 1 つは撃ち抜いたときに壊れてしまっていて、残りの 6 つは【錬金】で弾を作るのに使用した。
隠密スキルを使ってゴブリンの背後から近づく。
そして蜂の巣にして生き残りにとどめを刺して魔石を取り出す。
残った死体は燃やして処分。もはや害虫駆除作業だ。
これを俺は一週間ほど続けたところで、村の周囲の森ではゴブリンを見かけなくなった。
そろそろ頃合いだろう。
そう考えた俺はゴブリン迷宮の中に入ることを決意した。
****
腰にはこの日のためにギルドで買った 30 万セントもするマジックランタンをぶら下げている。
これは魔法の力で点灯できるマジックアイテムだ。松明も念のために持ってきてはいるが、使い勝手が良くないので奮発してこれを買ったのだ。
【錬金】で頑張れば作れるのかもしれないが、俺は炎魔法を使えないので作れない。いや、かなり頑張って研究すればできるかもしれないが大変そうだ。
この程度の事はお金で何とかなるなら何とかしてしまいたい。
俺はゆっくりとゴブリン迷宮の中をランタンの灯りを頼りに進む。
それほどうじゃうじゃいるというわけでは無いようだが、少なくとも五分に一回くらいの頻度では襲ってくる。一匹の時もあれば五匹くらいまとめてやってくることもある。
ちなみに、【隠密】スキルは結局使いっぱなしだが、奇襲は上手くできなかった。どうも、俺の姿には気付いていないようだがランタンの光には気付いているらしく、不思議そうな顔をして近づいてくるのだ。
まあ、無防備に近づいてきたところをカラシでズドンとやるわけなのである意味奇襲ではあるが。
なんというか、まるでチョウチンアンコウにでもなった気分だ。
そんなわけで、俺はこれといって危ない目に遭うことなく進んでいく。
ゲームで嫌というほど攻略したのでどこに何があるかを覚えているし、ここには碌な宝がないということも覚えている。
ゴブリン迷宮は全部で五層あり、最下層のボスはゴブリンロード、そしてホブゴブリンとゴブリンメイジが 2 匹ずつという構成だ。
俺はあっという間に最下層のボス部屋の前に辿りついた。ここまでに手に入れた魔石の数は 100 をゆうに超えている。
俺は一呼吸を置くと気合を入れ、ボス部屋の大きな扉をぐっと押した。
ぎぎぎ、とボス部屋の扉を開いて中に入ると、想定した通りの五匹がボスとして現れる。
俺はカラシを構えるとまずはゴブリンメイジ達に向けて乱射する。先手必勝だ。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン……
弾切れになるまで打ち尽くすと、ゴブリンメイジ達が血まみれになって倒れる。
俺は風魔法を使って風を起こし、錬成で作った砂をボスたちのほうへ飛ばす。
あの変態にもらった【無詠唱】スキル様様だ。
誰に貰おうとスキルはスキルだ。スキルに罪はない。
俺は視界を奪った隙に弾がなくなったマガジンを交換する。
そして【隠密】スキルを発動して俺を探しているホブゴブリン達に近づき、後ろから頭を目掛けてカラシを乱射する。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン……
5 メートルの距離から頭を中心にありったけの弾をぶち込むと再び煙幕を使って隠れる。
そしてマガジンを交換するとゴブリンロードの後ろに【隠密】スキルで近づく。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン……
また 5 メートルの距離から頭を中心に弾を打ち込む。
「ガァァァァァ」
血まみれになりながらもゴブリンロードは雄たけびを上げて俺のほうへと殴りかかってきた。
流石はロード種、ゲームでも硬くて火力が通らずに苦労したものだ。だがこの事態は想定内だ。
俺はこれまでに回収したゴブリンの魔石を手に取り錬成を行い、水風船を作り出すと顔面に向かって投げつける。
そしてそれはゴブリンロードの顔面に着弾し、透明な液体が顔に付着する。
「ギャァァァァァァァァァァ」
ゴブリンロードが目を抑えて蹲る。中身は簡単、トウガラシ成分の溶け込んだ目潰し液、つまり目に入ると痛い成分を濃縮した液体だ。
目を抑えて蹲るゴブリンロードに俺は容赦なく弾を打ち込んでいく。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン……カチッ
撃ち尽くした。ゴブリンロードは地面に突っ伏しているが、ピクピクとまだ動いている。あれだけ蜂の巣にしてやったのにまだ生きているとは呆れた生命力だ。
俺は首に狙いをつけ、【風魔法】スキルでウィンドカッターを発動する。
首の皮膚にほんのわずかな傷が入ったのを確認すると、俺は同じ位置にウィンドカッターをあて続ける。【無詠唱】と【多重詠唱】が手に入ったおかげで次々と風の刃がゴブリンロードの首の傷を深くしていき、そして遂にはその頭と胴体は別れを告げることになった。
しかし、ゴブリンロードは想像していたよりも硬かった。ゲームでトウガラシの粉を投げつけると苦しんでしばらく行動不能になる、という演出があったので保険として用意しておいたのだが、正解だった。
何もなかったら一発もらってこっちがやられていた可能性もあっただろう。
一度装備を見直す必要がありそうだ。
俺は急いで解体して魔石を取り出す。特にゴブリンロードの魔石はギルドに持っていけば迷宮踏破者の認定をしてもらえる。これは冒険者としての実績になるのでギルドへと提出するつもりだ。
そしてこのゴブリン迷宮だが、残念なことにクリア後のお宝はない。昔、既に踏破された迷宮なので当時の一番乗りがお宝を持ち去ってしまっている。
この迷宮がここまで不人気なのはゴブリンという魔物が金にならないだけでなく、お宝が期待できないことも影響しているかもしれない。
俺はボス部屋の奥へと進むと、黒光りする丸い球が宙に浮かんでいる。
これが迷宮核だ。
俺はその迷宮核に右手を伸ばして触る。すると俺は光に包まれ、そして次の瞬間迷宮の入り口に立っていた。
俺は迷宮攻略の達成感を覚えつつ、ゆったりとした足取りでシュトレーゼンの村へと戻ったのだった。
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※銃の発砲音について
一般の方が想像するような「ダン」や「ドン」という銃の発砲音は火薬による爆発ではなく、弾が音速を超えたときに発生する衝撃波が主要因です。従いまして、空気銃でも弾速が音速を超えればそのような音が発生します。
supersonic airrifle などの用語で検索していただきますと、そのような音がする空気銃を実際に撃っている動画を見つけることができますので、気になる方は調べてみてください。
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