第47話 町人Aは謝罪を見届ける
その後、俺はアナを連れてオークの大迷宮を高速周回した。最後のほうは俺が手助けしなくても一人で 100 層のオークキングを倒せるようになっていたので少なくともレベル 20 には到達したことだろう。
そうしてアナのレベルが上がらなくなったところでオークの大迷宮の高速周回をやめて王都に戻った。それからは割と平穏な日々で、たまにエルフの里に行って蜂蜜を分けて貰ったり風の山の迷宮に一人で行っては高速周回してブリザードフェニックスと遊んだり、更にはブイトールや銃火器の改良の研究をしたりと充実した冬休みを過ごした。
ちなみに、エルフの里ではあの変態が相変わらずな上にやりたい放題だったが、俺には実害がないしエルフたちも納得しているようなので放っておくことにした。
それにあの変態、どれだけ変態でも光の精霊なのだ。あの変態が力を貸していれば、よほどのことがない限り魔物が住み着いて問題になるというようなこともないのではないだろうか?
さて、当初の目的通りにアナの断罪と追放を阻止できたので、王都が滅亡へと向かう最初のきっかけを止めることはできた。だが、これで全てが解決するほど現実は甘くは無かった。
まず、あの時の公爵様の話からすると王太子もエイミーも謝罪さえすればお咎めなしという大甘な処分で終わったようだ。なので、エイミーが今後もアナを追い出すために何をしでかすかは分からないので注意が必要だ。
その一方で、王太子と攻略対象者たちは俺と 1 対 5 で敗れたという話は貴族たちの間にかなり広まっており、王太子も攻略対象者たちも跡取りに相応しくないという声が上がっているらしい。
特に王太子については、政略結婚相手のアナを自分から切り捨ててしまったせいでラムズレット公爵を中心にまとまっていた南部貴族の支持を一気に失った。
そういった影響もあり、元々は王太子が圧倒的に優勢だった王宮内にも変化が現れ、王太子派と第二王子派、そして今は見守ってより良い方を選ぶべきとする穏健派に分かれているそうだ。
一方の公爵様はというと一切口を開かずに静観を決め込んでいるそうだ。穏健派とも行動を共にしていないため、公爵様と南部貴族はラムズレット公爵派という扱いになっているらしい。
この意図は俺にはよく分からないが、派閥の貴族達にも
ちなみにこれらの情報は全てセバスチャンさんから教えてもらったことだが、これはゲームでアナが追放された後の状況に似ている。
いっそあの時説教なんかしないで王太子をさくっと始末しておけば良かったのかもしれないと思わないでもないが、そうしたらそうしたでいくらなんでも処刑されていただろうし、世の中そう簡単にはいかないものだ。
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そして二年生となって最初の登校日を迎えたが、俺に視線が突き刺さっているのを感じる。「殿下と決闘をした平民がよくもまぁ」などとひそひそと噂されているようだが予想通りだ。
俺は気にせずに講堂へと向かうとクラス分けを確認したのだが、ここで予想外のことが起きていた。
まずはこれを見て欲しい。
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1 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット
2 アレン
3 マーガレット・フォン・アルトムント
4 エイミー・フォン・ブレイエス
5 マルクス・フォン・バインツ
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10 オスカー・フォン・ウィムレット
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18 カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン
19 イザベラ・フォン・リュインベルグ
──── 以下、B クラス ────
20 レオナルド・フォン・ジュークス
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38 グレン・ワイトバーグ
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まず良かったところは、アナの取り巻き、もといお友達のイザベラが A クラスに昇格していることだ。一方で、王太子はあれだけ成績を落としたにもかかわらず A クラスのままだ。まあ、最優秀生徒として表彰した王太子をいきなり B クラスに落とすというのはできないのだろう。
そして期末テストで 2 回連続でぶっちぎりの最下位を記録したレオナルドがついに B クラスに転落した。
ざまぁ!
それともう一つ、最も大きな異変があるのだが気付いただろうか?
そう、隣国から留学にやってきていたクロード王子の名前がないのだ。事情はよく分からないが、要するにクロード王子は退学したということだろう。
俺だけではなく、この掲示を見ている他の生徒たちもクロード王子の名前が無いことに驚いている様子だ。
「アレン!」
俺を見つけたアナが弾んだ声で話しかけてきた。
「アナスタシア様、おはようございます」
「っ! あ、ああ。おはよう」
アナは一瞬ピクリとなり、そして周りをキョロキョロと見回してから俺に挨拶を返してきた。
「それよりクロード王子のことは聞いているか?」
「いえ。このクラス分けの掲示に名前がないので驚きました」
「そうか。何故かは知らんが、どうやらウェスタデール王国側から退学を申し出てきたらしい」
「そうですか。いろいろありましたからね」
「そうだな……それよりも行くぞ」
「はい」
そうしてアナに促されて俺たちは講堂へと入り、アナに連れられて前のほうの席へと着席する。今にして思えば一年前は後ろの隅の席に座っていたのだから、変わったものだ。
そして先生方の長話が終わったのち、アナ、そして王太子とエイミーが壇上に呼ばれた。
「アレン、お前も来い」
「いいんですか?」
「ああ。お前は私の代理人を務めたのだ。私の後ろでそれを見届ける権利がある」
「わかりました」
そう言われた俺はアナに続き、そしてそれを見たマルクス、オスカー、レオナルドがエイミーに続いた。
「さて、何のことかは分かっているとは思うが、決闘の結果を受け入れて貰おうか」
アナがそう宣言すると、エイミーと王太子たちは悔しそうに顔を歪め、そして俯いた。
そしてプルプルと小さく震えながらも頭を下げ、アナに謝罪した。
「ラムズレット公爵家に対する我々の言葉を撤回し、謝罪する。申し訳なかった」
「申し訳ありませんでした」
二人とも心がこもっているようには全く見えないが、こうして公衆の面前で謝罪したという事実が大事なのだろう。
「わかった。その謝罪を受け入れよう。今後は安易に我がラムズレット公爵家を侮ることのないように願おう」
アナがそうして謝罪を受け入れる。すると王太子とエイミー、それにレオナルドが俺たちをあからさまに睨み付けてから足早に席へと戻っていった。
一方のマルクスとオスカーは恥ずかしそうにそそくさと戻っていったのだった。
「これでは何のために謝罪したのかわかりませんね」
「構わんさ。それともう一つ、これは私からお前にだ。他に生徒たちへの宣言も兼ねているから受けてくれるとうれしいのだが、どうだ?」
「はい。もちろんです」
「そうか」
アナはそう言うと一息つき、そして大きな声で宣言した。
「アレン! 私の代理人として、我がラムズレット公爵家の名誉を良く守ってくれた! ラムズレット公爵家はその功績を称え、その忠義に報いるべくアレンとその家族を庇護下に置くことを決定した!」
そしてアナはポケットからハンカチを取り出すと俺に差し出した。
「これは我が公爵家の家紋を私が刺繍したものだ。受け取ってくれるか?」
「ありがたく頂戴します」
マナーはよく分からないが、俺は跪いて恭しく受け取った。すると一人、いや二人が拍手をしてくれた。マーガレットとイザベラだ。
そしてその二人に誘われるように皆が拍手をしてくれたのだった。
****
それから
「ところでアナ様。俺はこういった常識には疎いのですが、なぜあそこであんな宣言をしたんですか? もう国王様も認めてくれたんですよね?」
「ん? ああ。あれは他の生徒たちに対する牽制だな。このアレンはもうラムズレット公爵家の者だから勝手に手を出すな。手を出すならラムズレット公爵を敵に回すぞ、という脅しだ」
少し顔を赤らめながらアナはそう言ったのだった。こうして、ゲームではあり得なかった悪役令嬢が追放されない二年目の学園生活が始まったのだった。
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