第46話 町人Aは悪役令嬢とオークの大迷宮に挑む

年が明けて二週間ほどが経過したところで、アナが俺のところにやってきた。


「なあ、アレン。新しく発見されたアルトムントの迷宮に挑もうと思っているんだが、護衛をしてくれないか?」

「オークの大迷宮にですか? いいですけど、どこまで潜るつもりですか?」

「大迷宮? どういうことだ?」


おっとしまった。つい答えちゃったけど、まだ発見されたばかりなんだった。


とは言え、変に取り繕っても良いことないだろうし、素直に白状することにした。


「実は俺、昔アルトムントの森の奥地で未発見の迷宮を見つけて攻略しちゃったんです」

「は? なんだと? アレン、お前ゴブリン迷宮だけじゃなかったのか?」

「だって、未発見の迷宮って言っても、最下層にいたボスはオークキングだったんですよ? これといった罠もなかったし、そんなに大した話じゃないから別に言わなくてもいいかなって思いまして」


俺のその台詞を聞いたアナは額に手を当てて呆れた表情を浮かべている。


「全く、天才と何とかは紙一重というが、お前もその部類か」


失礼な。俺は天才なんかじゃないから何とかと紙一重なわけがない。前世の大学の時なんかはもっとヤバいやつがいっぱいいたぞ?


「一応、高速周回してたんで最低限自分の身を自分で守って貰えればアナ様と一緒でも多分踏破できますけど、どうします?」

「待て、アレン。高速周回とは何だ?」

「え? レベルを上げるためにひたすら迷宮を踏破して入り口に転移してを繰り返す事ですけど」

「……」


アナがまた額に手を当てている。やっぱり王太子の婚約者やらされてた時は相当無理してたんだろうな。


でも今みたいに表情がくるくる変わるほうが魅力的だと思う。そう思って見ているとアナが俺の目をじっと見つめてきた。


いや、俺はそんなに女性に免疫無いから、そんな綺麗な顔で見つめられると照れるんだが。


「いや、まあいいか。お前はお前だ。それで、引き受けてくれるか?」

「はい。喜んで」


こうして、俺はアナとオークの大迷宮に遊びに行くことになったのだった。


****


そして久しぶりに馬車に乗ってアルトムントへと移動した。ブイトールを使えば数時間の距離も馬車だと何日もかかるのは面倒だが、馬車の旅はレトロな感じがしてこれはこれで味があって良いものだ。


そして長い旅の末、俺たちはマーガレットの実家に到着した。


「やあ、アレン君。久しぶりだね」

「マーガレット様、お久しぶりです」


俺は跪いて礼を取る。


「いいよ、アレン君。君はクラスメイトだからね。それに、アナ様を救ってくれたナイト君だもの」

「俺なんてそんな……」

「はあ、まったく。学年最強の 5 人を一切寄せ付けなかったアレン君が何をいっているんだか。アナ様のナイト君じゃなければウチでスカウトしてたところよ」

「おい、マーガレット」

「分かってますって。アナ様の大事なナイト君を横取りしたりはしませんよ。あの売女とは違いますから」

「……ああ、そうだな。それに、アレンはそんな男ではないからな」


うん? なんだ? このやり取りは。もしかして期待して……いや、ダメか。公爵様に友人って念を押されてるし、手を出したら首が飛ぶだろう。


比喩ではなく物理的に。


さて、そんなやり取りをしつつ、俺はマーガレットのお屋敷で一室を与えられてお世話になった。しかも何とメイドさんまでついてきたのだ!


もちろんありがたい話なのだが、お貴族様のお屋敷というのは無駄に広くて豪華で、俺みたいな小市民にはなんとなく落ち着かない場所だった。


あ、もちろんメイドさんとめくるめく夢の一夜を過ごした、なんてことは無いからな?


****


そして翌日、俺はアナとマーガレット、そして護衛の騎士様 5 名を連れてオークの大迷宮へと向かった。手続きをして迷宮に入るが、未発見の時とは違い随分と多くの冒険者たちが挑んでいるようだ。


「じゃあ、サクサク進みます。ただ、皆さんの実力を把握したいのでオークが出たらそれぞれ一人で戦ってみてください。危なそうならすぐに助けますから」


騎士様 5 名は俺の事を胡散臭いと思っているようではあるが、主であるマーガレットの命令にはきちんと従っている。


「じゃあ、最初に俺がやりますね」


そう言って俺はニコフを構え、そして奥から出てきたオークに一発撃ち込む。大きな音と共に発射された弾はその眉間を一発で正確に撃ち抜き、オークはそのまま倒れて動かなくなった。


「は?」

「え? 今のは?」


アナとマーガレットがそう言って絶句している。騎士たちも目が点になって固まっている。


「風魔法の応用で、鉄の弾を飛ばして撃ち込みました。これはそれを補助するための魔法の道具で、俺が作りました」

「な、なるほど。やはりさすがはアレンだな。頼りにしているぞ」


俺がそう言うとアナがフリーズ状態から復帰してそう言った。


「ありがとうございます」


それからは話が早かった。騎士様達も俺の指示に従って動いてくれるので楽々進むことができる。


こうしてサクサクと勝手知ったるオークの大迷宮を進み、最下層のボスを楽々撃破したのだった。


「はい。というわけで、これでオークの大迷宮は踏破です。おめでとうございます」

「あ、ああ」

「途中からはアレン君頼みだったけど、うん。ありがと」


こうして俺たちはオークの大迷宮をサクッと踏破し、遅ればせながら俺のギルドカードにオークの大迷宮踏破者の実績が追加されたのだった。

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