第8話 町人Aは飛び級で卒業する

【錬金】スキルを手に入れた翌日、俺は学校の卒業試験を受けるために学校にやってきた。


本来は 12 才まで小学校、15 才まで中学校というくくりなのだが、日本とは違って簡単に飛び級することができる。前世の記憶のある俺は小学校を 9 才の時に飛び級で卒業した。


そして今日は中学校の卒業試験だ。この中学校は通わない子供も多く、事実上高等学園への入学準備的な意味合いが強い。この国の古典や高度な算数・・、王族や貴族の名前に紋章、各領地の特産品や国際情勢、更に礼儀作法など、これから政治に携わるために必要な内容を教えるのが中学校だ。


ただ、基本的に丸暗記なうえに大した量はない。この程度ならきちんと勉強しておけば満点は余裕で取れるだろう。


それにみんなが嫌いと思われる理系の内容は所詮算数レベルで全く難しくない。高度な計算と称して分数が出てくるくらいなのだから日本の教育を受けていれば余裕だ。


さらに、俺には【鑑定】スキルというカンニングまで存在しているのだから、落ちようがない。


別にカンニングなんてしないけどな。


俺は小部屋に入り着席する。すると先生がやってきて問題を渡される。


「アレン君、がんばってね」


この年齢で飛び級で卒業するのは始まって以来らしく、天才少年として期待されているらしい。


正直、日本の小学生なら大抵はこのレベルのことをできる気がするがな。


「それでは、試験は今から 3 時間です。はじめ」


先生の合図で俺は問題を開く。どれからやっても同じなので一枚目の一番上から答えを埋めていく。


問:現国王陛下のお名前をフルネームで答えよ

答:バルティーユ・マンフレート・フォン・セントラーレン


問:現王太子殿下のお名前をフルネームで答えよ

答:カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン


問:三大公爵家を全て挙げよ

答:インノブルク家、ラムズレット家、シュレースタイン家


単なる丸暗記だ。簡単だ。


問:22.3 × 11.8 を計算せよ

答:263.14


問:3/4 を小数で表せ

答: 0.75


まあ、日本人なら普通は誰でもできるだろう。


地理とかはちょっと覚えるまでに時間がかかったが、きっちり勉強してきたぞ。


問:昨年度の小麦の生産量がもっとも大きかった領地を答えよ

答:ラムズレット公爵領


問:昨年度の鉄鉱石の生産量が最も多かった領地を答えよ

答:ウィムレット侯爵領


と、まあこんな感じだが、一度覚えてしまえば大したことはない。多分、日本の小学生の社会科のほうが習うことが多いんじゃないかと思う。


そうこうしている間に一時間半ほどで全ての答案を埋め終えた。


「先生、終わりました」

「さすがですね、アレン君。お疲れ様でした。結果は一週間後にお知らせします」


そう言って先生は出ていった。卒業するだけであれば各教科 60 点なので問題ない。


だが、俺は全教科 90 点以上を狙っている。これを達成すると高等学園へ推薦されるうえに学科試験が免除されるのだ。


こんなシステムがあるのに飛び級しても高等学園に通えるのは 15 才からという謎システムなのだが。


これは俺の推測だが、おそらく飛び級という仕組みは一般の平民がさっさと働けるようにするための仕組みで、優秀な人材を早く世の中に送り出すことを目的としているのだろう。


それに対して高等学園は貴族と大金持ちのためのものだから、飛び級をして入ってくる生徒がいることを想定していないのだと思う。


だが俺としては都合がいい。入学まで 3 年間もあるのだ。その間は冒険者として動き回って必要なアイテムの回収、それに剣と魔法の試験に合格するための準備、そして入学金や授業料などを稼ぐ時間があるのだから。


****


そして、一週間後、俺は先生に会って結果を聞くために登校した。


「アレン君、おめでとう! 全教科、満点です! 11 才での飛び級卒業すらすごいのに、アレン君は我が国の学校制度が始まって以来の初の偉業を達成しました」


大げさに褒められたが悪い気はしない。もちろん【鑑定】スキルを使ったカンニングもしていないので、あんな内容でも達成感はかなりある。


だが、ここで感謝を忘れてはいけない。


「ありがとうございました。先生がたが教えてくださったおかげです」


俺はきっちりと先生にお礼を言うと、先生の顔に少し笑顔が浮かんだ。


「さて、アレン君の成績は文句なしに高等学園への入学を推薦できるものです。どうしますか?」

「推薦をお願いします。15 才になるまでしっかり準備をしてきます」

「そう言うと思っていました。それでは推薦書を上に提出しておきます。連絡はどうしますか?」

「冒険者ギルドへお願いします。母は仕事で家を空けていることが多いので、行き違いになる可能性が高いです」

「わかりました。それでは、結果は冒険者ギルドを通じてお伝えします。アレン君、卒業おめでとう!」


先生がお祝いしてくれる。気が付くと、他の先生たちもお祝いしてくれる。


「先生、ありがとうございました! 高等学園に入学して、そして活躍できるように頑張ります」


こうして俺は中学までの内容を飛び級で卒業した。


その後しばらくして、冒険者ギルドに俺の高等学園の入試への参加を認めること、そして筆記試験を免除することが通知された。


ゲームの舞台に立つまであと 3 年とちょっと。待ってろ、運命シナリオ。俺がぶち壊してやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る