第2話 町人Aはどぶさらいをして隠密となる
さて、
まず第一に、本当にゲーム通りなのかを検証する必要がある。これはゲームで出てきた状況がその通りになっていればまず間違いないと考えていいだろう。
そしてもう一つの目標は金を稼ぐことだ。悪役令嬢を救うためには断罪をひっくり返す、つまり決闘で代理人として勝つしかない。そのためには王立高等学園に入学する必要があるのだが、兎にも角にも金が必要だ。
ちなみに、婚約破棄されないというのが一番穏便な解決策だと思うが、たとえバッドエンドルートでも婚約破棄イベントは発生するのでこれについてはできたらいいな、程度に考えておくことにしようと思う。
さて、それらを成し遂げるための最初の一手として、まずは『隠密のスクロール』を手に入れたい。こいつはゲームだと学園から王都の地下下水道に抜ける秘密の通路の小部屋に落ちている。もう何十年も使われていない場所で、それが発見されるのは帝国軍によって王都が蹂躙される時だ。
エイミー達が学園からの脱出経路として下水道を通り、偶然発見するという設定になっていた。
これが本当にあればゲームの通りの状況になっていると言えるだろうし、こいつを頂いてしまえばかなり動きやすくなる。
つまり、こいつの有無がわかれば、ここが乙女ゲームの世界と同じかどうかを判断する有力な材料として使えるだろう。
これにプラスしていくつかがゲームの通りになっていれば乙女ゲームの世界と同じと断定して良いだろう。
と、いうわけで俺は母さんと一緒に冒険者ギルドにやってきた。
「すみません。どぶさらいをやらせてください!」
「お、おう、坊主。頑張れよ! そんじゃあお母さん、こいつに必要事項を記入してくれ」
受付のおっちゃんが母さんに申し込み用紙を手渡し、説明を受けながら母さんがそれを記入していく。
冒険者ギルドでは 8 才から登録を受け付けていて、どぶさらいなど子供が町中でできる公共の仕事を斡旋してくれている。俺も少し前に母さんに勧められていたのだが、臭いのが嫌だと断っていた。
だが、俺が昨日の晩にやっぱりどぶさらいをやる、と言ったら母さんはすごく喜んでくれて、こうして一緒に来たというわけだ。
ちなみに、冒険者のシステムはテンプレのパターンで、俺みたいな子供が G ランク冒険者、12 才になると F ランクからスタートして最高ランクは S だ。
「よし、じゃあこのギルドカードに血を一滴垂らしてくれ」
おっちゃんに言われて指を針でちくっと刺して血を垂らすと、カードが一瞬光った。
「よし、これで登録完了だ。このギルドカードはなくしたら金がかかるから無くさないように気をつけろ。あと、こいつはサイフのかわりにもなるからな」
ギルドカードは銀行口座のような機能もあり、ギルドカード同士をタッチさせることで送金もできるらしい。
日本よりも何気に便利なことに驚いた。
ともあれ、こうして晴れて G 級冒険者となった俺は毎日欠かさずにどぶさらいを続けた。
ちなみにどぶさらいの報酬は一日で 1,000 セント。セントラーレン王国の通貨だからセントだ。価値は 1 セントは大体 1 円と考えて大丈夫だ。
****
そうして、きついのと臭いのと汚いのを我慢し続けて 1 か月が経ったころ、受付のおっちゃんに声をかけられた。
「おい、アレン坊。今日から地下下水道の方を頼むぜ。外のどぶよりくせぇが、報酬は倍だぞ。どうだ?」
「やります!」
俺はもちろん二つ返事で了承する。何しろこのためにどぶさらいをやっているんだからな。
依頼を受けた俺はギルドの裏手の階段から地下下水道へと入る。借りたランタンに灯りを灯す。
ここからスクロールの場所までの道のりはわからないが、いくつかのヒントはある。迷子にならない様に目印をつけながら俺は地下下水道の下流を目指す。
そうしてしばらく歩いていくと、レンガで作られたアーチ状の屋根の大きな下水道に出てきた。
よし、ここがメインの下水道管だ。しかも赤いレンガということはスクロールの場所よりも下流に位置しているはずだ。
俺は帰り道で迷わない様に、ギルドへ戻る下水道に目印をつけると、上流へと向かって歩き出す。
そしてかなりの時間歩いていると、壁と天井が赤いレンガから灰色の石を組んだものへと変わった。
これは目的の場所にかなり近づいてきた証拠だ。俺は更に歩を進める。
それから 5 分くらいたっただろうか? 唐突に壁に鳥の絵が書かれている場所に到着した。
ゲームの通りであれば、この鳥の絵の書かれている場所の正面に隠し扉があるはずだ。
俺は辺りの壁をくまなく調べる。すると、なにやらボタンのようなものを見つけた。
俺は躊躇なくそのボタンを押す。固かったので思いっきり押し込むとカチッと何かがかみ合ったような音がした。
そして、ゴゴゴゴゴと音を立てて壁の一部が開いた。まさかの自動ドアだ。こじ開けることを想定してバールのようなものを持ってきたのだが必要なかったな。
俺はその先へと進む。この先に小部屋があるはずで、その小部屋にある机の上に落ちているはずだ。
あった。小部屋だ。
中を覗き込むと、朽ち果てたボロボロの机と座面の無くなった椅子が置いてある。一体何に使っていた部屋なのだろうか?
俺は机に向かって歩く。
頼む、あってくれ。
机の前にやってきた。何やらそれっぽいものが置いてある。
俺は手を伸ばしてそれを取ろうとするが、俺の身長が低すぎるせいでどうしても机の奥に置かれたスクロールまで手が届かない。
くそっ。こんな罠が!
だが、備えあれば憂いなしだった。バールのようなものを持っている。これにひっかけてそれっぽいものを転がすことで手元まで引き寄せる事ができた。
よし! さあ、これは隠密のスクロールなのか?
巻物を広げてみる。
するとそこには「隠密」と漢字が書かれている。やった! これだ!
使い方はゲームで説明があって、スクロールを開いた状態で手のひらをのせるだけ。簡単だ。
というわけで俺は早速床にスクロールを開いて置くと、その上に右手をのせる。
するとスクロールが一瞬眩しく光り、そして次の瞬間にはすでに消えていた。
「計画通り!」
新世界の神にでもなった気分だが、浮かれるのはまだ早い。
俺はギルドカードを取り出して個人情報を確認する。
────
名前:アレン
ランク:G
年齢: 8
加護:
スキル:【隠密】
居住地:ルールデン
所持金: 3,348
────
よし!
よし! よし! よし!
「完璧じゃないか!」
俺は喜びのあまりかなり大きな声で独り言を言ってしまい、それが誰もいない地下室に反響する。
恥ずかしい。
気を取り直して俺は意気揚々とギルドへと戻ったのだった。
え? どぶさらい? 帰りがけにちゃんとやったぞ?
俺は仕事はきっちりやる主義だ。
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〇加護とスキルの違いについて
加護とは、神様から送られる祝福のようなもので、特定の物事や分野において著しい才能を与えるものです。例えば【風魔法】の加護を与えられると【風魔法】を使うための十分な肉体的素質と才能が与えられ、練習により凄まじい勢いで習得・上達するようになります。基本的にスキルよりも上位の位置付けです。
スキルとは、何かの技術を使えるようになった状態のことで、スキルを持っていると使い方が勝手に頭に浮かんでくるようになります。例えば【風魔法】のスキルを持っていると、風魔法を使おうと思ったときに使える風魔法が自動的に頭に浮かんでくるようになります。ただし、加護と違い才能が得られるわけではありませんので、スキルによって規定された内容以外の事はできません。
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