第31話 町人Aはお守りをする

さて、学園での置き物生活も一段落したので風の山の迷宮を周回して金を稼ごうと思っていたのだが、何やら想定外の事態になった。


夏休みの三日目、俺は例の鑑定のスクロールを手に入れた遺跡のある北東の森の入口にやってきている。同行者はアナスタシア、王太子とその他の攻略対象者たち、そしてエイミーだ。


「殿下、そして皆様、本日はどうぞよろしくお願いいたします」


俺は跪いて臣下の礼を取る。


「ああ」


王太子はそうぶっきらぼうに言った。


どうやら俺には全く興味がないらしくエイミーに熱い視線を向けており、そんな王太子をアナスタシアは冷たい目で見ている。


さて、何でこのメンバーでこんな場所に来ているのかというと、俺はアナスタシアにお願いされて王太子たちの自由研究の手伝いをすることになったのだ。


ただ、お願いといえども公爵令嬢のお願いは平民である俺には実質的に命令だ。なので断るという選択肢は俺にはない。ここでたて突いたところで学園から追い出されるというオチになるのは目に見えている。


まあ一応、俺も連名で提出させて貰えるそうなのでありがたいと言えばありがたい。だが、レポートの原稿執筆から校正まで全て下々の者である俺がやることになるのは確定しているので複雑な気分だ。


さて、色々と愚痴を言ってしまったが、要するにこれはゲームでヒロインのエイミーが鑑定のスクロールを手に入れるイベントだ。


ゲームでも王太子ルートと逆ハールートで王太子がメンバーに入っている時はアナスタシアが一緒についてきて、安全のためと言って外部の冒険者を雇っては道案内をさせていた。


しかしどうやら俺という異物が学園に混入しているせいでイベントに少し変化が生じているようだ。おそらく、アナスタシアは外部の知らない冒険者を雇うよりもクラスにいる便利な冒険者を無料で使う方が諸々とコスパが良いと考えたのだろう。


一方で、ここに攻略対象が全員揃っているという事はやはりエイミーは逆ハールートに向かって進んでいるということで間違いないだろう。


はっきり言って逆ハールートはかなり攻略難易度が高い。あちこちに顔を出して回って徹底的にフラグを立てまくらないといけないのだが、どうやらエイミーは上手くやっているらしい。


俺としては自分の好きな女の子が自分の男友達と次々に仲良くなっていくのは精神的にかなりキツイんじゃないかと思うのだが、ここの皆さんはどうやらそうでもないらしい。


ただ、エイミーはクラスの女子たちには相当に嫌われているようで、徐々にいじめがエスカレートしつつあるようだ。


ま、アナスタシアはそこに加担していないようだし、俺には関係のない話だがな。


「さて、皆様ご準備はよろしいでしょうか? よろしければ遺跡までご案内いたします」

「ああ。問題ない」

「それでは出発いたします。道中はホーンラビットという角の生えた兎の魔物が生息しています。油断をすると角で刺されて怪我をする場合がありますのでどうかご注意ください」

「ハッ。誰に言っているんだ。オレがホーンラビットごときにやられるわけねぇだろ?」


クロード王子が俺を小馬鹿にしたようにな感じでそう言った。


「俺も将来は騎士団長になる者としてしっかりと修業をしてきている」

「ホーンラビットごとき、僕が弓で仕留めてあげるよ」

「ふ。ホーンラビットなど私がバーベキューにしてやりますよ」

「おい、お前がホーンラビットを焼いたら炭しか残らないだろう」


他の人たちも口々に俺の言葉に反発する。順にレオナルド、オスカー、マルクス、そして最後に突っ込みを入れたのがカールハインツ王太子だ。


ちなみにホーンラビットをきちんと血抜きをせずに丸焼きにしても臭くて食えたものではないと思うのだが、敢えてツッコミは入れないことにした。


「あ、あのぉ。きっとアレンさんもぉ、心配してそう言ってくれたんですよぉ」


エイミーが妙に甘ったるい声で攻略対象者たちをたしなめる。


「ああ、そうだな。エイミーは平民にも気遣いができるとはさすがだな」

「さすがはオレのエイミーだ」

「おい、エイミーはクロードのものではないぞ?」

「そうだよ。僕のものだよ?」

「いいや、私のものです」

「そ、そんなぁ……あたし……」


目の前で何とも吐き気のするやり取りが繰り広げられている。ちらりとアナスタシアを見遣ると、アナスタシアは凍り付いた表情でそのやり取りを眺めていた。


そしてアナスタシアは俺の視線に気付いたのか、少し困った様な表情を浮かべると再び凍り付いた表情で冷たく 6 人に言い放った。


「殿下、あまり遅くなりますと陛下がご心配なさいます。出発しましょう」


やり取りに水を差されたことに腹を立てたのか少しむっとした表情を浮かべた王太子は小さく舌打ちした。


「わかった。出発しよう。ほら、行け」


もはや呆れて物も言えないが、こんなのでも王太子なのだ。無礼はできない。俺は無表情で「はい」と小さく返事をすると遺跡へと案内するのだった。

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