第30話 町人Aは悪役令嬢に目をつけられる

さて、早いものでもう夏休みが明日に迫ってきた。


ルートの確定しないこの期間にできることは何もないため、これまで俺は情報収集に努めてきたわけだが、その間もエイミーは順調にイベントをこなしたようで、王太子だけでなく他の攻略対象者にも囲まれてすっかりお姫様状態だ。


もちろん、王太子以外の攻略対象者もお貴族様なわけで、留学生で隣国のクロード第三王子以外は全員しっかりと婚約者がいる。その婚約者は学園外にいるので問題は表出していないが、やはり波紋は広がっていることだろう。個人的には婚約者のいないクロード王子とエイミーがくっついてくれれば諸々と平和で良いのに、とは思うのだが。


さて、そんなエイミーだがどうも逆ハールートに入っているように見えるのだ。


もちろん確信はまだない。


ただ、エイミー達を見ていると王太子との距離が一番近いように見えるが、同時に他の攻略対象との距離もかなり近いように見えるのだ。そしてこの時期にクロード王子とこれだけ親密なのはクロードルートと逆ハールートしかない。更にクロードルートの場合は騎士団長の息子のレオナルドとのフラグが既に折れており、レオナルドはエイミーとは少し距離を置いているはずだ。


もしそうだとするならば王太子ルートとほぼ同じ流れになるので、読みやすいという利点はあるのだが。


さて、俺は終業式に参加するために講堂へと向かった。すると講堂の壁に人だかりができており、そこには期末試験のテスト結果が貼り出されていた。


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1 位 アレン(500)

2 位 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット(497)

3 位 エイミー・フォン・ブレイエス(479)

4 位 マルクス・フォン・バインツ(458)

5 位 クロード・ジャスティネ・ドゥ・ウェスタデール(438)

6 位 マーガレット・フォン・アルトムント(423)

12 位 オスカー・フォン・ウィムレット(413)

13 位 ハイデマリー・アスムス(412)

14 位 カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン(411)

28 位 ヴァンダレン・フォン・ゼーベン(386)

29 位 イザベラ・フォン・リュインベルグ(385)

38 位 グレン・ワイトバーグ(375)

39 位 レオナルド・フォン・ジュークス(321)

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お、どうやらちゃんと満点を取れていたらしい。


ただ、日本の中学生のほうがよほど高度な内容を勉強しているのではないか、というレベルなので満点を取って当たり前ではある。


ただ、それでも俺は予習復習テスト勉強に宿題と、全てきっちりとやっている。


なにしろ俺は平民だ。成績不振だと退学処分になる可能性だってあるのだから、できる限り良い成績を取っておくべきだろう。


ちなみに、夏休み後のクラス分けはこの成績に魔法と剣術の成績、夏休みの自由研究の成果、そして身分を総合的に判断して決定されるそうだ。


はぁ、身分ね。全く。


そういえば、騎士団長の息子の成績がぶっちぎりの最下位なんだがこれは大丈夫なのか?


確か、ゲームでも成績が思わしくないという描写はあったはずだし、エイミーが親身になって勉強を教えて好感度が上がるというイベントもあったはずなのだが、一体どうなっているんだろうか?


もしかして 3 位のエイミーに親身に教えてもらったおかげでこの成績で踏み留まっているとか……いや、さすがにそんなことは?


さて、話が脱線してしまったので元に戻そう。


俺の場合、身分はないがテストは満点だし、魔法の試験は宮廷魔術師長の息子よりも少し弱いくらいになるように調整している。剣術は加護やスキルを持っている相手には到底かなわないが、それでもおそらく及第点は貰えていると思う。多分、真ん中より少し上といった感じだろうか。


なので学園の先生がたの俺の評価は、平民にしては中々の風魔法使いといった感じになっているのではないだろうか?


と、まあそんなわけでこの結果なら俺が退学になることはないだろう。


俺はきびすを返して講堂の中へと入る。そしてしばらく待つと退屈な終業式が始まり、お偉いさんの長話を聞いてクラスへと戻るとホームルームが始まる。


そして、一人一人名前を呼ばれて答案が返却される。


「アレン君、君は一人だけ満点でした。我が国の学校制度が始まって以来の天才と聞いていましたが、その才能を遺憾なく発揮してくれましたね。皆さん、アレン君に拍手を送ってください」


俺が呼ばれて前に行くと、先生がそんなことを言ってくれた。嬉しいは嬉しいがそんなに目立ちたくなかったので少し困るという気持ちも無いわけではない。


それに、どうせお貴族様は平民に拍手などしないだろう。


そう思っていたが、一人だけ拍手を送ってくれている人がいる。


なんと一位を掻っ攫われた形のアナスタシアだ。そしてそれに釣られるように取り巻き令嬢や比較的アナスタシアと関係が近いと思われるご令息ご令嬢たちが俺に拍手を送ってくれる。


拍手をくれたアナスタシアと他の皆に深く一礼し、俺は席に戻った。


そして全員分の答案が返却されると夏休みの自由研究の内容が説明されたが、何をやっても良く、評価基準もないそうだ。


ああ、なるほど。つまりそういうことか。


ここは身分制のしっかりある学園で、クラス分けの評価基準でこの自由研究は使われる。そして偉いお貴族様を下のクラスに入れておくわけにはいかない。


はぁ。全く。


とはいえ、俺には関係ない。エルフの伝承を聞いてレポートにまとめるか、オークの迷宮を発見したことにするか、そんな感じの業績を挙げれば問題ないだろう。


エイミーと攻略対象の遺跡探索イベントはあるが、俺が介入できる要素は特にない。そもそも俺がやるべきことは、アナスタシアが怒っていわゆる乙女ゲームのテンプレイベントを起こしてしまうことを止めるだけだ。そうすればエイミーへのいじめを止めていたアナスタシアは完全に無罪になるはずだ。


身分と権力が物を言うこの国でそれがどこまで有効かは分からないが、やれるだけのことはやっておこうと思う。


さて、ホームルームが終わり寮に戻ろうと席を立つと、なんとアナスタシアが俺に声を掛けてきた。


「おい、アレンといったな」


俺は慌てて右手を左胸に当て、左手を腰の後ろへと回しては跪き、臣下の礼を取る。


とても公爵令嬢とは思えない口調だが、ゲームでも身分が下の者に話す時アナスタシアはいつもこの口調で話していた。最初は驚いて、いかにも悪役令嬢っぽい高慢なキャラに違いないと先入観を持たされたものだと懐かしく思う。


だが俺はそんなことはおくびにも出さずに下の者として分をわきまえた態度でへりくだる。


「はい。アナスタシア様に名前を覚えて頂き光栄でございます」

「いい。ここは学園だ。そこまでの礼を取る必要はない。立て」

「はっ」


俺は許しを得て立ち上がる。


「お前は冒険者の資格を持っているそうだな?」

「はい」

「では迷宮に立ち入ったことはあるか?」

「ゴブリン迷宮であれば」

「なるほど。わかった。追って使いの者をやろう。呼び止めて悪かったな」

「はっ」


アナスタシアはそれだけ言うと取り巻き令嬢と共に踵を返して歩いていった。


使いの者が来る?


という事は俺、もしかして目をつけられたのか?

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