第67話 町人Aは要塞都市を蹂躙する
砦を落としてから 5 日目の朝を迎えた。俺はその間要塞都市カルダチア以外の砦や駐屯地を徹底的に爆撃して回った。最早このブルゼーニ地方に残るエスト帝国の主要な支配地は要塞都市カルダチアのみだ。
そしてそのカルダチアはというと既に俺たちセントラーレン王国軍が包囲している。
ただ、流石に民間人も数多く住んでいるという事から 5 日後に無差別攻撃を行うので民間人は退避するように勧告し、東門のみ意図的に包囲が解かれた。
最初の 2 日間はかなりの人数が逃げ出したが、3 日目にはその数が目に見えて減り昨日は僅か数家族だけだった。
そして今日は 5 日目、運命の朝を迎えたというわけだ。
これまでは兵隊を相手にしていたが、今日はそうでない者も殺すことになる。もちろん、俺は上空からの爆撃が仕事なので地上戦を戦う皆よりはショックは少ないだろう。
それでも、市街地への爆撃は、民間人への攻撃はさすがにくるものがある。
だが、今更だ。俺は俺のエゴのために、人を殺してきた。
そんな道を選んだのは俺自身なのだ。
アナを取り戻し、そして今度こそ必ず守り抜く。今の俺にとってこれ以上に大事なことなどない。
俺はブイトール改に乗ると、風魔法エンジンを始動する。
「頼んだぞ!」
そう声をかけてきた守備隊長に俺はサムズアップを返す。そしてブイトール改はぐんぐんとスピードを上げ、大空へと飛び立った。
「考えるな。考えるな。相手は敵だ。警告に従わずに戦うことを選んだんだ」
そう自分に言い聞かせているうちに俺は要塞都市カルダチアの上空に到達した。
それから町の中央の堅牢な建物にガソリン入りの瓶を次々とぶちまけていく。ここがこのカルダチアを守る領主の屋敷で、市庁舎、そして兵舎も兼ねているらしい。
どうやら帝国軍も最近の攻撃は俺だという事は理解できているようで、俺を指さして、尖塔の上から矢を放って俺を撃ち落とそうとしてきた。
だが、攻撃は一切届かない。
俺は上空 200 メートルくらいの場所にいるのだ。魔法の射程は数十メートルだし、ロングボウでも有効射程は 100 メートルが精々だろう。仮に水平に 200 メートル飛ばせる矢があったとしても重力に逆らって上に 200 メートル飛ばせるわけではない。
俺は専門家ではないので詳しいことは譲るが、戦いにおいて技術レベルにこれだけの差があればまず勝てないはずだ。
どこかの国では成層圏に近い高度を飛行する爆撃機を竹槍で落とそうとした人がいたそうだが、そんなことは不可能だ。
攻撃が届かないアウトレンジから一方的に火力を叩き込んで来る相手に正面から組み合ってはどんな名将が率いたとしても勝利に導くことはできないだろう。
できることは降伏か撤退、もしくはひたすら籠城するくらいだろう。
俺は心を無にして次々とガソリンを落とし、それらは幾つかの不発弾の後に一つが着火して爆発を伴い炎上した。そしてそれは不発弾のガソリンにも次々と引火していく。
後はガソリン入りの瓶を落とすだけで火災が拡大していく。
こうしてカルダチアの中枢が完全に炎に包まれたことを確認した俺は、次に地図で教えられた兵舎に爆弾を落としていく。
何が起こったのかはもう見ないようにした。
あとはカルダチアの上空を飛び、通りを歩く敵兵に向かって爆弾を落とす。だがきちんと命中したかは見ていない。
振り返って考えてしまったら、民間人が死ぬところを見てしまったらきっと進めなくなってしまうから。
そうして俺が心を殺して内部をズタボロにした結果、友軍が門を破り要塞都市内へと侵入した時には抵抗らしい抵抗は無かった。
焼け落ちた領主の屋敷前の広場に、そして各城門にセントラーレンの国旗がはためくのを確認した俺は砦へと帰投したのだった。
****
その二日後、俺は守備隊長と一緒に完全に制圧されたカルダチアに入った。このカルダチアをセントラーレンが奪還するのは実に半世紀ぶりとのことだ。
ちなみに、昨日はゲリラ攻撃を仕掛けてきた民間人や敗残兵と激しい戦闘になったそうだ。敵味方共にかなりの人数の死傷者を出した壮絶なこの市街戦は俺たちセントラーレンの勝利で終わった。
残っていた民間人は一部を除いて追放処分となり、馬車に詰め込まれてエスト帝国へと送られた。怪我をしている捕虜もそのまま民間人と一緒に馬車でエスト帝国側へと引き渡された。
住民を追い出すというのは凄まじい政策だと思ったが、テロリストと化した住民との泥沼の市街戦を避けるためにやっているのだろう。
それに、セントラーレンが以前カルダチアを失陥した時もエスト帝国に同じことをされたらしい。
こうしてこの要塞都市カルダチアに残っているのは俺たちと一部の民間人、そして健康な捕虜だけとなった。
ちなみに捕虜にさせるのは何かというと、強制労働だ。畑を耕したり、壊れた建物を修復したりといった事をさせるのだそうだ。
まあ、今の文明レベルを考えればこんなものなのかもしれないし、そもそもゲームでは王都の住民が虐殺されていたことを考えるとこれでも随分と甘い対応なのかもしれない。
こうして俺は久しぶりに狭い砦ではなく広い部屋とふかふかのベッドで眠ることができたのだった。
そして夜、俺がどうしても知りたかった情報が遂にもたらされたのだった。
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