第66話 町人Aは砦を蹂躙する

俺が部隊に合流して一週間が経過した。流石にこれだけの戦果を上げていると扱いが良くなってくる。


これまでに俺が全滅に追い込んだ帝国部隊は大隊規模で 10、中隊規模で 31、小隊規模で 47 さらに細かい分隊規模も合わせるとどれだけやったか数えきれない。


ちなみに、全滅というのは戦闘を出来なくさせた、という意味であって全員を殺したことを確認した、という意味ではない。つまり、生き残った敵兵が基地に帰って再編されて別の部隊として出撃してくる可能性はある。


ただ、周りに誰もいないのに突然自分達の周りで大爆発が起きて、それで気付いたら戦友が、上官が、部下が物言わぬ死体となっているという状況でもう一度戦場に立てる者がどれだけいるだろうか?


俺なら相当な期間トラウマになるだろうし、何の対策もなしに同じ場所に行けと言われてもきついと思う。


そして、これだけ大きな戦果を上げたとなると、今度はよりキツイ場所を攻撃することを求められるわけで。


そう、今のところは順調なのだ。


「というわけで、アレンには要塞都市カルダチアの攻略を支援してほしい」

「ああ。任せてもらおうか。作戦はどうなっている?」

「おい! 貴様! なんだその態度は! お前は学徒動員で来た学生だろう! 上官への態度をわきまえろ!」


そして、まあ、こんな感じの奴は当然出てくる。


それに言い分は分かる。


だって、まさか最初に会ったこの砦の守備隊長がブルゼーニ地方軍の総責任者だなんて思わないじゃないか。


だからといって今更丁寧な言葉遣いに戻すというのも何となく変な気分なのでこんな感じになっている。


「構わん。それにアレンは B ランク冒険者だ。その戦果はお前も見ただろう。それにアレンは王命をもって派遣されているラムズレット公爵家の者だ。俺たちの指揮下にはない」

「ですが」

「良いから黙れ。それに王都からおかしなのが来る前に終わらせてしまいたい」


おかしなのが来る、というのは宣戦布告されたせいで王都から将軍のような立場の騎士様が部隊を引き連れてやってくることになっているらしい。


「……それはたしかに……かしこまりました」


要請をことごとく却下して事態を悪化させたお貴族様に来られても邪魔なだけかもしれない。


****


「では、出撃する!」


俺はそう言ってブイトール改を発進させ、言われた方向にしばらく飛んでいくと巨大な要塞都市が見えてきた。


なるほど。要塞都市は三重の城壁と水堀で守られている。しかもそれぞれの城壁は 30 メートルはあろうかという高さで、水堀の幅も 10、いやもしかすると 20 メートルくらいはあるかもしれない。


更にその要塞都市の西側にはこれまた堅牢な 3 つの砦が俺たちセントラーレン軍を阻んでいる。


俺たちセントラーレン軍はそのうちの一つの砦に攻めかかっていた。


しかし、高い城壁に苦戦しており、矢や魔法のせいで破城槌や雲梯を近づけることができずにいるようだ。


だが、苦戦していてくれるおかげで誤爆するおそれがないためこちらとしてはやりやすい。


いつものように空から近づいた俺は次々と爆弾を落としていく。


一応、落とした爆弾は全て砦の中には落ちたが狙いは適当だ。城壁上に立って攻撃している敵兵を狙って、などという事はできない。


しかし、どうやら俺が思っていたよりも今日までの爆撃作戦が効いていたらしい。


敵兵はたちまちパニックを起こしたようで、途端に砦からの反撃は統制を失った。敵兵の中には我先にと逃げ出す者までいる始末だ。


そうこうしているうちに破城槌が城門に到達し、雲梯が城壁に取りついた。これを見てこの砦が落ちることを確信した俺は次の砦へと向かった。


そこにはまだ友軍が到着していないのを良いことに絨毯爆撃を仕掛けてやった。


多分、 200 個、いや 300 個くらいは落としたのではないかと思う。外にいた敵兵は、文字通り全滅したんじゃないだろうか。


ちなみに、この爆弾は爆風と破片による殺傷が目的なので固い城壁に穴をあけたり崩したりといったことはできない。衝撃波でガラスなんかは割れているだろうが、建物は予想通り健在だ。


それから俺は最後の三つ目の砦へと向かう。ここはちょっと別の方法を試そうと思っている。


というわけで、俺は先ほどまでの爆弾とは違う種類の弾を錬成した。結構な魔力を持っていかれたが、ずんぐりむっくりとしたガラスの容器が錬成されて落下していく。


そしてそれは砦の建物にぶつかると割れ、中に封入された無色透明の液体が飛び散るとすぐに爆発音と共に一気に燃え上がった。


そう、これはなんちゃって焼夷弾だ。


そしてこのなんちゃって焼夷弾が実戦で上手く作動してくれたことに胸をなでおろす。


ちなみに、ガラスの中に入れたのはガソリン風の良く燃える液体だ。


これで自動車を動かせるのかは分からないが、常温でも気化するし良く燃える。ちなみに、ガソリンというとピンク色だったりオレンジ色だったりを思い出すと思うが、あれは分かりやすくするために着色しているだけで錬成で作られたこのガソリン風の液体は無色透明だ。


それから信管の代わりに使ったのは塩から錬成で取り出したナトリウムと水だ。ナトリウムは水と混ざると急激に発火するので信管の代わりに使ってみたのだ。


はっきり言って素人の適当仕事で本職から見たら笑われてしまうレベルだろう。


だが俺はこの辺りの知識が不足していてとてもではないが開発が間に合わなかったので、多分誰もが知っているであろう化学の知識を応用して作ってみたのだ。


ただ、実験した限りだと不発弾が結構な確率で出てしまっており、火のついた松明を一緒に投下して落下中に火が消えないことを祈るのと大差ないような気がしないでもない。


まだ詳しくは分からないが、どうやら水とナトリウムが反応した時、もしくは水素が燃焼した時にちょうど気化したガソリンがそこにあれば着火する感じのようで、まだまだ改善の余地がある。


まあ、個人的にはこんな強引な仕組みではなくてもっとちゃんとした仕組みの物を作りたいのだが……。


さて。戦況に話を戻そう。


突如爆発して砦が炎上した事に驚いた帝国兵たちが慌てて消火にやってきた。俺はそこに容赦なく再びガソリン風の液体入りの瓶を投下していく。


一度火がついてしまえば、あとはガソリン風の液体をぶちまけるだけでそこは地獄と化す。


そうして大量のそれをぶちまけているうちに、瓶を錬成するためのガラスの材料が尽きてしまった。


最早消火は不可能と思われるほどに炎が燃え盛っているのを確認した俺は帰投することにした。これでもう任務完了だろう。


その帰り道で友軍が既に最初の二つの砦は攻め落とし、俺が燃やした三つ目の砦に向かって進軍しているところに遭遇した。


友軍はなにやら俺に向かって剣を掲げている。


なるほど。どうやら俺に挨拶してくれているようだ。


俺は空中で機体を一度大きく旋回させて挨拶を返すとそのまま一足先に帰投したのだった。

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