第65話 町人Aは帝国兵を蹂躙する
「では、出撃する!」
俺は不思議そうに見守る砦の守備隊長さんに敬礼をするとブイトール改を発進させた。離陸方法は垂直離陸ではなくさっき切り開いた滑走路を使っての通常の離陸だ。
きっと、「な!? と、飛んだっ!?」とでも言っている事だろう。守備隊長さんに何人かの兵士が腰を抜かしている。
ちなみにこのブイトール改というのは、この戦争に向けてコツコツとブイトールに改良を重ねてきたものだ。
まず、機体が一回り、いや二回りほど大きくなっている。そして寝そべって操縦するやり方には変わりはないが、コックピットは前面から側面の一部にかけて着脱可能なポリカーボネート板で覆われていて空力に配慮すると同時に風の寒さから身を守ってくれる。それに機体が大きくなったおかげで物を乗せるスペースも増加した。
更にアナと乗ることを考えて二人乗りできるようになっているので、助け出したら是非また一緒にフライトを楽しみたいものだ。
そして一番の目玉は爆撃機としての運用を可能とするための改良が加えられている点だ。これは使いながら説明しようと思う。
俺は今、上空 200 メートルくらいの低空を飛行している。普段飛行する時は目測ではあるが 1,000 メートルくらいの高さを飛んでいる。だが、200 メートルぐらいの高さであれば地上にいる兵士が敵か味方かを双眼鏡を使えば目で見て確認できるためこの高度を選んでいる。
ちなみに、この双眼鏡も俺の自作だ。俺は専門家ではないのであまり高性能なものは作れなかったが、仕組み自体は難しくないのでまあまあの物は作れたと思う。
ちょっとごついがな。
さて、そうして偵察飛行をしているうちに、前方に敵部隊を発見した。
人数は 50、いや 100 人くらいはいるかもしれない。エスト帝国の軍隊の組織がどうなっているのかは知らないが、おそらく中隊規模といったところだろうか。
まあいい。最初の標的はこいつらにしよう。これはもう戦争だ。迷っている暇などない。
俺は滑空飛行に移ると錬成を行い、ブイトール改を爆撃モードに移行する。爆撃は少し集中する必要があるので無駄な魔力は使いたくないのだ。
そして敵部隊の上空近くに到達した俺は爆撃を開始する。敵部隊には俺に気付いた様子はない。
ブイトール改の機体の腹の部分から丸い透明の球体がポコポコと生み出され、次々に投下されていく。
この球は、火薬は全く使っていないがこれでもれっきとした爆弾で、しかも結構えげつない威力がある。
まず、この球体は氷でできている。そして、その球体は中空構造となっていて、中には適当に尖った小石やガラス片、金属片などが圧縮空気と共に詰め込まれている。
そしてこの球体には魔法陣が掘り込まれていて、中からの圧力で破裂しないようにする方向でだけ魔法で強化されている。その内部の気圧は計っていないので分からないが、凄まじい高圧だとだけ言っておこう。
この爆弾が地面に落ちて衝撃が加わると、外側からの衝撃に対しては一切強化のされていないこの氷は簡単に割れ、魔法陣はその効果を失う。その結果、強烈な爆風と衝撃波を伴って尖った硬い物をまき散らす。つまり火薬も信管もないなんちゃって爆弾だ。
別に尖った何かを入れなくても近くで炸裂すればオークくらいは倒せた。
だが、尖った何かが一緒に飛び散ることで広範囲のオークにダメージを与えられる。つまり、破片手榴弾と同じ理屈でより多くの敵を戦闘不能に追い込むことができるというわけだ。
ちなみにもちろん照準器や精密誘導などといった高度な技術があるわけではないので全て自由落下頼みなわけだが、数撃ちゃ当たるの精神で大量に投下していく。
最初はちゃんとした爆弾を作ろうと思っていたのだが、俺に信管に関する知識がきちんとなかったせいで上手くいかず、さらにそのコストも重かったのだ。
だがこのやり方ならその問題の全てを解決できている。
何故なら、この爆弾の材料はホーンラビットの魔石やゴブリンの魔石といった価値の低い小さな魔石とその辺で拾ってきた尖ったものの材料だけで済むのだ。
空の上には何もないと思うかもしれないが、雲がある以上水蒸気が存在しているわけで、乾燥地帯でなければ水には事欠かない。
しかも爆弾の形で運ぶわけでもないので暴発の心配もない。
俺はこれまでにコツコツとルールーストアで買い集めた小さな魔法のバッグ 5 つに材料をたっぷり入れて持ってきている。このバッグはちょっと手痛い出費だったが、背に腹は代えられない。
ともかく、この材料が尽きなければ弾切れの心配もない。
そして、俺は高度 200 m くらいにいるので、帝国兵の魔法も弓もどうやったって届かない。
そうこうしているうちに俺が落とした爆弾が地面にまで落下し、爆発した。
ドォーン、という大きな爆発音を皮切りに何十個かまとめて落とした爆弾が次々と爆発し、その爆発音がここまで俺の後方から響いてきた。結果を確認するべく俺は少し落ちてしまった高度を戻しながら旋回する。
そして俺は土煙の上がっているあたりを確認してみた。双眼鏡で見ても小さすぎてよく分からないが、動く者は見当たらない。どうやら全滅させたようだ。
おや? よく見ると端のほうには動いてる者がいるようだが、負傷しているように見える。
ただ、魔物退治やら盗賊退治やらで見慣れているとはいえ、あまり自分のやった現場を見過ぎると PTSD とかになりそうな気もするのでこのくらいにしておこう。
一個中隊の戦闘能力を奪ったのだからこれで十分だろう。
「任務完了。さあ、次だ」
俺は自分で自分に気合を入れると次の敵を探す。そして発見した敵部隊に爆弾を落としていく。
こうして敵部隊を発見しては爆撃し、そうして日が傾いてきたところで初日の戦闘を終え、基地へと帰投したのだった。
****
「アレン、帰投した」
「あ、ああ。ご苦労。何か、ものすごい音が何度も聞こえたのだが、あれはいったい?」
「俺だ。今日の戦果は、大隊規模の帝国部隊を 4、中隊規模を 12、小隊規模を 9 全滅させた」
「な? なんだと? 一体どうやって?」
「空から魔法で爆撃した。何が起きているのか分かっていない様子だったからまだしばらくは通用するだろう」
「あ、ああ」
砦の守備隊長は何が起きているのか分からない様子ではあったが、そう答えたのだった。
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