後日談第19話 元町人Aは依頼をする
後日、俺はドミンゴを呼び出して地形図を見せ、さらに詳しく依頼内容を説明した。アナは別の公務があるため、今日は俺一人で応対する。
「なるほど、よく分かった。ところで、これって場所はどのへんなんだ?」
「ここだ」
俺は王国全体の略式地図を見せつつ、予定地の場所を指さした。
「へぇ、結構西のほうなんだな。気候とかはどうなってる?」
「詳しくはわからない。ただ、森を見た感じだと割と暖かいほうだとは思う。あとは近くの村人に聞いて判断するしてほしい」
「近くの村?」
「ああ。この入り江にヴァイセンハーフェンという漁村がある」
「ずいぶん遠いな。道はここから?」
「ああ、その予定だ」
「なるほどなぁ。魔物はどんな感じなんだ?」
「これからだが、そこは俺たちでなんとかする予定だ」
「そうか。わかった。ならまずいくつか案を出そう。で、神様は風だっけか?」
「それと氷の神もだ」
「ほう? 同時に二つの神様を? 珍しいじゃねぇか」
「そういう神託だからな」
「はぁ。そういうもんなのか。わかった。考えてみるからしばらく待ってくれ。この山のてっぺんに建てるんだよな?」
「そうだ。あと――」
「秘宝を供える祭壇は地下だろ?」
「そうだ」
「安心しろ。分かってるって。地下神殿なんてのは初めてだが、最高の神殿を設計してやる」
「ああ、頼んだぞ」
「任せてくれ」
こうして俺はドミンゴに正式に依頼を出したのだった。
◆◇◆
それから数日後、俺は久しぶりに冒険者ギルドへとやってきた。建設予定地までの道を開削する前に、その地域に住み着いている魔物を排除する冒険者を手配するためだ。
もちろん俺はすでにラムズレット王家の末席に加えてもらってはいるため、やろうと思えば騎士団を動かすこともできなくはない。
だが、実はラムズレット王国騎士団の人員は潤沢ではないため、あまり動かしたくないというのが本音だったりする。
なぜならザウス王国、そしてセントラーレン王国の侵攻を受けたせいで手練れの騎士にも被害があり、急ピッチで立て直している最中だからだ。
要するに、国境警備などで手練れの騎士を取られており、すぐに動かせるのは新人ばかりだ。だが訓練不足の新人たちをいきなり未開の森に連れて行き、魔物との実戦に投入するわけにはいかない。
そんなわけで、冒険者に依頼をすることになったというわけだ。
そして貴族は普通、冒険者ギルドの担当者を呼び出すのだが、わざわざ俺のほうから出向いた理由はもちろん、この人に会うためだ。
「アレン坊、久しぶりだな」
応接室で待っていると、師匠がやってきた。
「お久しぶりです、師匠」
「それとも、英雄様って呼んだほうがいいか?」
「やめてくださいよ。まあ、坊もそろそろやめてほしいですけど」
「それは無理だな。お前はまだまだずっとアレン坊だからな」
「師匠……」
ありがたいという気持ちと卒業したいという気持ちがないまぜになり、なんとも言えない気持ちになる。
「で、どうした? 今日は一体何の用だ?」
「はい。実は魔物の討伐を依頼したいんです」
「魔物の討伐? そんなもの騎士を出せばいいんじゃないか?」
「いやぁ、それがそうもいかないんですよ。今回は手つかずの森なんで、結構魔物の数が多いかもしれないって思っていまして」
「ならアレン坊が……ってわけにはいかねぇな」
「そうなんです」
「ようし、分かった。場所は?」
「ヴァイセンハーフェンです」
「ん? どこだ?」
「ここです。このへんにある漁港です」
俺はそう言って略式地図の場所を指さす。
「ほう。こんなところに人が住んでるのか。なんでまた?」
「森に道を通さないといけないんです」
「こんなとこにか?」
「はい。色々あってやらないといけないんです」
「……そうか。アレン坊も色々大変だな」
「はい……」
そう言って師匠は俺の目をじっと見て、そしてニヤリと笑う。
「ようし、分かった! 最高のメンバーを用意してやるよ」
「お願いします!」
こうして俺は師匠に冒険者の手配を依頼すると、冒険者ギルドを後にするのだった
◆◇◆
それから二週間後、師匠からメンバーの第一陣が集まったとの連絡を受け、俺は再び冒険者ギルドにやってきた。
「師匠」
「おう、アレン坊。もう集まってるぜ」
「はい」
俺は師匠と一緒に応接室にやってきた。するとなんと! そこにはジェレイド先輩の他にボッツ先輩、アンガス先輩、それからベンジャミン先輩という俺が冒険者として活動していたころにいつも昼間からお酒を飲んでいた面々が集まっていた。
もちろんただの飲んだくれではなく、全員がCランクの一流冒険者たちだ。かつてはセントラーレン王国の王都からイエルシュドルフという小さな村への物資を盗賊から守るなんていう重要な依頼をこなしていたし、俺もそれに同行した
「ジェレイド先輩? それにボッツ先輩、アンガス先輩、ベンジャミン先輩も! お久しぶりです」
「おう、アレン坊。久しぶりだなぁ」
「お久しぶりです」
「よろしく頼むぜ! 依頼人!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺はジェレイド先輩と握手をする。当然だが、お酒の匂いはしない。
「じゃ、俺らは先に行ってるぜ。アレン坊は後から来るんだって?」
「はい。多分ひと月後くらいには」
「そうか。じゃあそんときにな」
「はい」
こうして俺はジェレイド先輩たちを見送るのだった。
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※Web版第26話と第27話の間のエピソードです。興味のある方はぜひ、書籍版第1巻、もしくはコミカライズ版第3巻をご覧ください。
お知らせ:
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お知らせ2:
新作「追放幼女の領地開拓記」、連載中です。
八歳で追放された転生悪役令嬢が襲ってくる魔物をスケルトンとして使役し、領地を発展させていく物語です。
https://kakuyomu.jp/works/16818093078833538977/episodes/16818093078842382216
【Web版】町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい【コミカライズ連載中】 一色孝太郎 @kotaro_isshiki
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