side. エイミー(1)

あたしはエイミー、この世界のヒロインよ。


下町で貧乏暮らしをしていたけど、馬車に頭をぶつけた時に突然記憶が戻ってきたの。


それで気付いたのよ。この世界はあたしの大好きだった乙女ゲーム「マジカル☆ファンタジー~恋のドキドキ♡スクールライフ~」の舞台で、あたしはそのヒロインだって。


あたし、前世は高校生になったばかりだったんだけど、信号無視の車にねられて、それで頭をぶつけて死んじゃったのよね。


前世のあたしはお世辞にも良い人生じゃなかったわね。あたしが一回クラスのリーダー格の子に口答えしたらクラスの女子たち全員にいじめられたし。それに男子はデブスとかゴリラとか平気で言ってくるし。


そんなわけで当然のようにあたしは友達ゼロ。あたしはちっとも悪くないのに!


ただ、そのせいで暇さえあればこの乙女ゲームをやっていたの。


だって、このゲームの中の男性はクラスのお猿さんたちと違ってちゃんとあたしを見てくれるもん。


そう、だからきっと神様がそんな可哀想なあたしに、第二の人生としてヒロインの人生を用意してくれたんだわ。


それにしても本当、ご褒美よね。


あたしの推しはカール様だけど、他のイケメンたちも逆ハールートさえ選べばみんなあたしを愛してくれるのよ? 逆ハールートはカール様ルートがメインだし、選択肢は全部暗記してるから間違えたりなんかしないわ。


課金はできなかったけど、その分時間をかけて攻略したんだもん。


しかもルートをクリアしたらあたしは光の精霊に祝福された慈愛の聖女様よ?


これであたしもイケメンに囲まれてお城でドレス着て贅沢して、お姫様みたいな生活を送れるようになるのね。


そう思って暮らしてたら、やっぱりその通り!


あたしはブレイエス男爵の娘だったことが分かって男爵家に引き取られたわ。しかも、【癒し】の加護も貰っていることがわかったの。


ふふ、このあたしが貴族のご令嬢で聖女様の卵よ?


あー、もう。笑いが止まらないわよね。


勉強もびっくりするくらい簡単だし。


なんか貧乏暮らしをしていた時に通わされた学校に天才とか言われている男の子がいたけど、あんなの天才でもなんでもないわ。あたしだってやればあのくらいできたもの。


でもやらなかっただけよ。


だって、あの程度なら勉強なんてやる必要もなかったし、それにヒロインは頭良い設定だったけど飛び級で卒業とかしてなかったもん。


それに、ゲームのシナリオを変えたら逆ハーエンドにちゃんと進めるか分からなくなっちゃうじゃない。


そんなところに気付くなんて、あたしこそ本当の天才じゃない?


そうしてあたしはゲームの舞台の王立高等学園に入学したわ。ゲームでは悪役令嬢のアナスタシアが 1 位であたしが 2 位っていう設定だったから、入試ではわざとケアレスミスをしておいてあげたんだけど、なんだか 3 位になっていたわ。


どういうことなの?


このアレンってやつ!


あたしの邪魔をするなんて! ってちょっとムカついたんだけど、思い出したわ。


こいつ、学校に通ってた時にいた天才君だわ。


ゲームではこんなモブは出てこなかったはずだけど、どういうこと?


ちょっと気になったあたしは入学式の時に隣に座って話をしてみたわ。この時のヒロインはカール様を遠巻きに眺めているだけだったから、問題ないはずよね。


「こんにちはぁ。あたし、エイミー・フォン・ブレイエスです。特待生のアレンさんですよね? よろしくお願いしますぅ」

「はじめまして、エイミー様。俺はアレン、平民のアレンです。よろしくお願いします」


あたしがちょっと上目遣いにして甘い声を出してそう言ってあげれば、こいつは簡単に取り乱してくれた。平静を装っているけどあたしに惚れているのがバレバレじゃない。


「アレンさん、11 才の時に全教科満点で飛び級卒業したんですよね。あたし、その時は平民で同じ学校に通ってて、それで話題になっていたのを覚えているんですぅ」


そう言ってやるとこいつは顔を真っ赤にしてしどろもどろになっているわ。


チョロイ。


やっぱりこのあたしのヒロイン顔とヒロイン声で落とせない男はいないみたいね。


あー、でもこいつの顔は陰キャっぽくて好みじゃないし、使えそうな時だけ便利に使ってあげればいいわよね。


そう考えたあたしは、その後こいつへ話しかけることはやめたわ。だって、時間の無駄だもの。それにいつも教室にいるのかどうかわからないくらい影が薄かったしね。


****


その後、あたしは順調にイベントをこなしていって、きっちりと逆ハールートのフラグを立ててあげたわ。そうしたら面白いように攻略対象者たちはあたしに魅了されてかしずいてくれるようになったの。


もう、気持ち良いったらないわね。クラスカースト最上位の男子五人が全員あたしに傅いているんだもの。


嫌がらせは多少あっても無様な連中が惨めったらしくやっていると思うと腹なんて立たないわ。


それに必死になってカール様の心を取り戻そうとしている悪役令嬢の無様な表情を見るのが快感で堪らないわ。


こいつにはゲームで散々邪魔されてムカついてたもの。ここでこうやって無様な姿をリアルで見れるのはホントにスカッとするわね。


ざまぁって感じ。


それにあんだけ美人でスタイルも良くて、お勉強もできて、加護にも恵まれて魔法も使えて。それに金持ちの公爵令嬢で、小さいころから将来は王妃になることが約束されてて。


そんな何もかもを持って生まれて、何不自由なく暮らしていたはずのこいつが落ちぶれていくのよ?


しかも、最後は無様に婚約破棄されて集団レイプされて売られて、最後は最愛の元婚約者様とそれを奪った女に殺される未来が確定しているんだから、ウケると思わない?


その時こいつはどんな表情をするのかしら? 想像するだけでゾクゾクするわ。


でもね。想定外の事態もいくつか起こったわ。


まず一つ目は期末テストね。次の期末テストであたしに負けるはずだった悪役令嬢があの陰キャ天才君に負けたのよね。


まあ、悪役令嬢もあたしも満点を逃すっていうのはゲームの通りだったし、シナリオから外れている訳じゃ無いから大丈夫だとは思うけどね。


それともう一つはゲームモードがエクストラモードだった事ね。


エクストラモードっていうのは後から登場したモードなんだけど、『鑑定のスクロール』を使えないっていうかなり難易度の高いモードなのよね。ただ、そのかわりに追加のスチルが取れるっていう、そう、あたしみたいにやりこみを重ねた上級者向けのモードね。


だって、あたしは元々無課金だったから『鑑定のスクロール』がなくたって攻略には支障がないもの。選択肢だって迷宮の罠だって敵の弱点だって全部覚えているわ。


あとはそうね。悪役令嬢が遺跡探索に連れてきた案内の冒険者があの陰キャだったってことくらいかしら?


でもあの陰キャ、悪役令嬢と一緒にレポート全部作ってくれたみたいなの。意外と使えるわね。


そうだ! 良いことを思いついたわ。


悪役令嬢が無様に追放されたらあたしたちの下僕として飼ってあげればいいんじゃないかしら?


ヒロインのあたしに使ってもらえるなんて、陰キャにしては好待遇だと思わない?


ふふ、さすがあたしよね。未来の慈愛の聖女様はなんて慈悲深いのかしら。

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