side. エイミー(2)

最近の悪役令嬢はどんどん無様になってきてて気分がいいわ。あたしとは方向性が違うけどムカつくほど美人だったのが、ちょっとずつやつれてきているのが目に見えてわかるもの。


普段からずっと硬い表情をしているから分かりにくいけど、最近は毎日顔を合わせているから分かるのよね。あんた、ちょっとずつお肌が荒れていっているわよ?


その年齢から肌荒れなんて、あー、かわいそう(笑)


大体ね。あたしとカール様たちの出し物にしゃしゃり出てきて無理矢理混ざったから手伝わせあげてるのに、意見したりするから更にカール様に嫌われるのよ?


悪役令嬢はあたしたちの下僕で言われたことをやっていればいいのよ。それにパシリまでやってくれるんだから、便利よね。


ただ、あたしを悪役令嬢が叩くイベントが起きるはずなんだけど、中々起きないのよね。本当はあたしの台詞を勘違いしてカッとなってあたしを叩くはずなんだけど、ここはシナリオ通りにするためにあたしから行動するべきよね。


「アナスタシア様ぁ、まだいたんですかぁ?」

「……」

「そんな風に可愛げが無いからぁ、カール様にぃ、愛想をつかされてちゃうんですよぉ?」

「……私たちの婚約はそういうものではない。国のためだ」

「えぇー? でもそんなのカール様がぁ、可愛そうですよぉ? カール様もぉ、国民もぉ、きっとぉ、もっとぉ、可愛げのある王妃様がぁ、良いと思いますよぉ?」


すると部屋の空気がすっと冷えてきたわ。ふふふ、怒ってる怒ってる。


悪役令嬢の加護は【氷魔法】と【騎士】の二つだけど、怒って【氷魔法】が漏れ出してるわ。


もう一押しかしら?


「あれぇ? どうしたんですかぁ? ダメですよぉ。ほらぁ、未来の王妃様はぁ、笑顔ですよ、え、が、お」


あたしは必殺のポーズをしながら悪役令嬢を覗き込んで笑顔を浮かべたわ。


「エイミー、お前は私を侮辱しているのか?」

「やだぁー。アナスタシア様怖いですぅ」


あたしがそう言うと、悪役令嬢は大きくため息をついてまたお説教を始めてきたわ。


ああ、もう。どうして手を出さないの!?


「いいか。この国は身分制度というものがあるのだ。それはいかに同じ学園の生徒と言えども覆すことはできない。礼節をわきまえろ」

「そんなのはおかしいですよぉ。だって、アナスタシア様もあたしも同じ人間なんですよぉ。神様の前には皆平等なんですぅ」

「それは神の御前での話だ。私は礼節をわきまえろと言っているだけだ。大体お前はなんだ。婚約者のいる男にべたべたとすり寄って。周りに誤解をさせるようなことをするな!」


悪役令嬢の声が段々大きくなってきたわ。やっぱりこいつはこんなことされてもカール様のことが好きなのね。


「そんなことありませんよぉ。あたしとカール様はぁ、お友達ですぅ。それにマルクスもぉ、レオもぉ、オスカーもぉ、クロードもぉ、みんな大切なお友達ですぅ。あたしのお友達を悪く言わないでくださいっ!」

「それがおかしいと言っているんだ。婚約者のいない男を選べ!」

「あたしたちの友情をぉ、部外者のアナスタシア様が邪魔しないでくださいっ!」

「なんだと!?」


さらに空気が冷えて今度こそあたしを叩くかと思ったんだけど、カール様たちが戻ってきちゃったわ。残念ね。ちょっとタイミングが悪かったわ。


「おい、アナスタシア。一体何をしている? 二人で準備していたんじゃないのか? 俺は喧嘩をしない様に言ったぞ? お前は普段からあれこれと偉そうなことを言って来るくせにそんなこともできないのか?」

「殿下! それはこの女が!」

「カール様ぁ。あたしは仲良くしたいんですけどぉ、アナスタシア様があたしのことを失礼だって」


あたしはそう言ってカール様にしな垂れかかると、カール様は優しく抱きとめてくれたわ。


「おい!」


悪役令嬢は無様に大きな声を出したけど、カール様が一喝してくれたわ。


「黙れ! その減らず口を今すぐ閉じろ! 命令だ!」

「ぐっ」

「俺とお前の関係は外の話だ。学園にまで下らん関係を持ち込むな」

「かしこまり……ました……」


悪役令嬢はまたあの能面みたいに硬い表情であたし達の下僕として仕事を再開したわ。


ああ無様。ああ、気持ちい。


****


あたしはカール様たちと一旦部屋を出たけど、ちょっと一人でやる用事があるって言って戻ったの。


それで廊下に立って待ってると、あの表情のままの悪役令嬢が歩いてきたわ。


ああ、ホントに、ざまぁっていうのはこの事よね。


あたしを無視して悪役令嬢が通り過ぎようとしたからニヤリと笑って言ってやったわ。


「無様ね。婚約者を奪われた気分はどう?」


その言葉を聞いた悪役令嬢は目を見開いて、それで顔を真っ赤にして右手を振り上げたの。


ふふ、これでイベント完了ね。


「ふえーくっしょん」


そう思ったところでとんだ邪魔が入ったわ。


あの陰キャが馬鹿でかい音を立ててくしゃみしやがったせいで驚いた悪役令嬢が叩かなかったじゃない!


マジでふざけんな!


こんなに必死にフラグを立てようとしてたのに。このクソ陰キャ! 責任取れ!


「あ、あれ? アナスタシア様? それにエイミー様も? あ、もしかしてお話し中でしたか? し、失礼しました!」


あの陰キャ、しらじらしいことを言うと走っていなくなったわ。


あー、ホントムカつく。悪役令嬢を追放したら次はこいつかしらね?


こいつは平民だし、いいわよね? 何したって。


「お前には何を言っても無駄なようだ。だが覚えておけ。殿下はこの国の未来の国王だ。王族の、そして貴族の果たすべき役割を理解していないお前は殿下には相応しくない。殿下に近づくな」


悪役令嬢は能面のような表情でそう言うと歩いていってしまったわ。


ああ、もう。全部あいつのせいよ。


あたしは悪役令嬢の後ろ姿を穴が開くんじゃないかって思うほど睨み付けてやったわ。


「どういうこと? あのアレンとか言うクソ陰キャ、エクストラモードにだって出てきてなかったはずよ?」


あっと。誰もいなかったから良いけど、つい思わず独り言を言っちゃったわ。


あーあ、それにしても、ムカつくわね!

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