side. エイミー(13) 

外の帝国兵、随分としぶといのよね。あたしが応援してあげたからこっちの兵士は死をも恐れない兵士になっていてかなり強いはずなのに、どうしてかしらね?


カール様もマルクスも一生懸命やってくれているみたいなのに、おかしいわよね。


あ、もしかしたらあの陰キャが手を回しているとか?


だとしたらあの陰キャ、血も涙もないサイテー男ね。


愛する悪役令嬢を攫った国に協力するとか、どんだけあたしのことが憎いのよ!


でも残念ね。


慈愛の聖女様でこの世界のヒロインなあたしは絶対にハッピーエンドになるって決まってるの。


だって、そうでしょう?


ここはあたしの大好きな乙女ゲームの世界なの。


選択肢を間違えてないのにハッピーエンドにならないなんておかしいじゃない!


そう思っていたら、何だか大変なことになったみたいなの。


「カール様ぁ。何かあったんですかぁ?」

「ああ、エイミー。どうやら地下下水道が帝国兵に狙われたらしくてな。何者かが手引きしたようで、帝国兵がそこを通って町中に侵入してきているんだ」


何それ! 慈愛の聖女様であるこのあたしがいるこの町で裏切者がいるなんて!


「ど、どうするんですかぁ?」

「一人一人、倒すしかないだろう。大丈夫だエイミー。エイミーは必ず守る」


カール様はそう言ってくれているけど、やっぱり焦っているみたいね。


これはどういうことなのかしら?


これって、もしかしてゲームで言うところの王都が一回滅ぼされるイベントだったりするの?


だったらまずいじゃない。


折角ここまで来たのに、こんなところでやられるわけには行かないのよ!


頑張れあたし! 考えろあたし!


そうやってちょっと考えてたら頭が痛くなってきたけど、いい案を思いついたわ。


「カール様ぁ。あたし、思いつきました!」

「それは頼もしいな。聖女の予言か?」


カール様はあたしを優しく見つめてくれるわ。


「はい。敵は、下水道にいるんですよね?」

「そうだ」

「じゃあ、下水道に毒ガスを流してあげればいいんですぅ! そうしたらぁ、邪悪な敵兵は、みんなやっつけられますぅ」


あたしがそう言うとカール様は目を見開いて驚いたわ。


ふふ、さすがあたしよね。


「だが、それをしたら周辺住民と下流の住民に被害が……」


え? ダメなの?


でも、ここで王都が帝国兵にやられたら全員殺されるわよね?


それにゲームで脱出に使った地下下水道に帝国兵がいるんだったら逃げ出すことなんて無理よね?


そもそもクロードがいないんだからウェスタデール王国に行けるかもわからないし。


それなら、やっぱりやるしかないわよね。


そうよ。それに毒で巻き添えになって死ぬのはどうせ平民でしょう?


それなら元々帝国兵に殺されるはずだった人たちよね?


あれ? なーんだ。それならどうだっていいじゃない!


「カール様ぁ、やっぱりやるべきですっ! 犠牲になった人はぁ、慈愛の聖女であるこのあたしが祈ってあげます! だからぁ、そうしないと! 王都の人達が全員殺されちゃうんです!」


あたしが目に涙を溜めてそう訴えたら、カール様は頷いてくれたわ。


そうよ。それでいいのよ。


ふふ、これで勝ったわね。


これで王都が攻め込まれるイベントも消化済みになるはずだし、後で『隠密のスクロール』を取りに行けばいいわね。


****


あはは。効果はばっちりだったわね。


ちょっと下水道の出入口のあたりの住民がね。ちょっと死んじゃったらしいけど、大した話じゃないわ。


それに無事に帝国兵は撃退できたんだし、そのうち犠牲者の追悼式典をやるらしいからそこであたしがちゃんとお祈りしてあげればいいだけよ。


さて、あとは『隠密のスクロール』を回収すればいいわね。


あれ? でも誰が使うべきかしらね?


そんなことを考えながら、あたしたちは学園にある下水道の入り口に来たわ。


そして扉を開けてもらって、ゲームで見たあの小部屋に入ったの。


そしたらここの机の上に……


ない!


どうして!?


「あっ! あいつぅ!」

「エイミー、どうしたんだ?」

「何か困ったことがあるなら相談してください」


カール様もマルクスも心配そうにそう言ってくれたわ。


でもね。これで全てわかったわ!


あの陰キャ! あたしの『隠密のスクロール』を盗みやがったわね!


だから決闘でもあんな事ができたし、帝国に売られた悪役令嬢を奪い返せたのね!


じゃあ! ということは!


あたしは!


「カール様! マルクス! お願いがあるの! 聞いて!」

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