第51話 町人Aは指名依頼?を受ける

「さすがアレンね。助かったわ」


俺の背中に引っ付いたままシェリルラルラさんがそう言ってきた。しかし何故かアナが冷たい目で俺を見ている。


「おい、アレン。その女はお前の何だ?」

「え?」

「ねぇ、アレン。この小娘、誰?」

「小娘、だと? 私よりも小さな小娘が私を小娘だと? この無礼者! 名を名乗れ!」

「あら、あたしよりも年下の小娘を小娘といって何が悪いのかしら?」


今にも一触即発な雰囲気に俺は戸惑っていると今度はその矛先が俺に向いた。


「おい! アレン! この無礼な小娘を何とかしろ!」

「あら、アレン。あなたはあたしの味方よね?」


いや、ちょっと待て。俺にどうしろと?


そして痺れを切らしたアナがシェリルラルラさんのフードを剥がそうと手を伸ばす。


「あ、アナ様。それだけはダメです。それをすると大騒ぎに!」


すんでのところでフードを剥がすの阻止する。こんなところでエルフの長い耳が露見しようものなら大騒ぎになる。


「あら、アレン。やっぱり助けてくれるのね?」

「おい! アレン! お前は私の味方じゃないのか?」


シェリルラルラさんが弾んだ声でそう言い、アナが泣きそうな表情で俺に対して怒ってくる。


「ああ、もう。いい加減にしてください。とりあえず落ち着ける場所に行きますよ!」


そういうと俺は二人の手を引いて歩き出した。


今の言い争いのせいで人が集まってきてしまっているのだ。こんなところでシェリルラルラさんの耳が露見したら大変なことになる。


そうして二人を引っ張って冒険者ギルドへとやってきた俺たちは、師匠にお願いして VIP 用の応接室を借りた。そして誰も入ってこないようにお願いをしたところでようやく落ち着いて話をする環境が整ったのだった。


「さて、紹介してもらうぞ、アレン」

「はい、アナ様。この方はシェリルラルラ様です。エルフの里の女王様のご息女です。シェリルラルラさん、この方はアナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様、ラムズレット公爵家のご令嬢で俺がお世話になっている方です」

「はっ?」


アナが見事に固まった。それから数秒固まった後にすぐに貴族令嬢の顔となりすぐに淑女の礼を取った。


「王女殿下とは知らず、とんだご無礼を致しました。ラムズレット公爵家が娘、アナスタシアと申します。シェリルラルラ殿下、お会いできて光栄でございます」

「ふん。そう。分かればいいのよ。で、なんでそんな変なポーズしてるの?」

「え?」


再びアナが固まる。


「アナ様、ご説明が遅れて申し訳ありません。エルフの里にはそういった作法はなく、身分もあまり関係ないのです」

「な?」

「それでシェリルラルラさん。一体何の用ですか?」

「ああ、そうよね。アレンに指名依頼? とやらをしに来たの。今度 10 年に一度のエルフの里の夏祭りがあってね。それにアレンを招待しに来たのよ。良く知らないけど、冒険者っていうのは指名依頼? とかいうのをすると来るんでしょ?」

「はい?」

「だって、アレンったら最近全然来ないじゃない。ミリィもロー様も里のみんなも寂しがってるわよ?」


いや、最近来ないって、冬休みに行ったばっかりじゃないか。それがなんで夏祭りくらいでこんな危険を冒してこんなとこまで来るんだよ!


「ええと、シェリルラルラさん? エルフにとって人間の町は危険なのは知ってますよね? それに、今年の冬に行ったときは何も言ってなかったですよね? どうしてあの時に言ってくれなかったんですか?」

「あ、いや、ええと、その。アレンのあの空飛ぶ舟に乗せて貰いたいなーって」

「そんな程度の事でこんな危険なことしないでください!」

「う、ごめんなさい……」


ていうか、どーすんだよこれ! アナにもブイトールのことバレちゃったし。


「おい、アレン。色々と説明してもらわなければいけないようだな」

「……はい」


アナの視線がすごく冷たい。


「まず、お前はどうしてエルフの知り合いがいるのだ?」

「それはアレンが我が里の恩人だからに決まっているじゃない」


アナの質問にシェリルラルラさんが被せて答えてくる。


「う……。ですから、なんでアレンが恩人なのですか?」

「アレンは里が悪霊に襲われた時に空から舞い降りた風の神様の神子だからよ!」

「風の神の……神子?」

「あら? 知らないのかしら? ふふん。あなた達仲良さそうに見えてそうでもないのね。あ、もしかして権力で従わせてるだけなのかしら?」

「ちょっと! シェリルラルラさん!」


アナが露骨にショックを受けた顔をしている。


「あんまりアナ様をいじめないでください」

「あら、やだぁ。アレンったらそんな小娘が良いの?」


シェリルラルラさんはコロコロと楽しそうに笑いながらそう言った。


揶揄からかわないでください。言っていいことと悪いことがあります」

「ふうん? まあいいわ。というわけで、アレンには夏祭りに来てもらうわよ?」

「はあ。まあ良いですけど。で、いつですか?」

「明日からよ」

「は?」

「あら、アレンならすぐなんじゃないの?」

「まあ、そうですけど……」

「ま、待て! アレンが行くなら私も連れて行ってもらうぞ?」


そんなやり取りをしているとアナが横から割り込んできた。


「はい?」

「ダメよ。アレン以外の人間を里に入れるわけにはいかないわ。アレンの奥さんだっていうならまだしも、そうじゃないんでしょ? あなた達あんまり仲良さそうじゃないし?」


シェリルラルラさんのその一言を聞いたアナはそのまま無言になり固まってしまった。


ああ、しかしどうしよう。これは難しいな。

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