第18話 町人Aはエルフの里の救世主となる

「な、な、な、な! ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」


一体どこから童貞という話が出てきたのか分からないが、不審者は勝手にボロを出した。


「おっさん、童貞だったのか」

「ど、ど、ど、童貞じゃないんだお! それに拙者にはロリンガスという親からもらった

立派な名前があるんだお」


名前からしてどう考えても犯罪臭がする。


「で、そのロリンガスさんは一体何をしているんだ?」

「よくぞ聞いてくれたんだお。ボクチンはエルフの里で精霊に会いたかったんだお!」

「で?」

「精霊は数千年も生きているのに幼女の姿をしているんだお! つまり、合法ロリなんだお!」

「……」


どうしよう。どこをどう考えても完全な変態だ。


俺は困って女王様の方を見遣る。


お願いだ。助けてくれ。


しかし女王様は手を胸の前で組み、キラキラとした目でこちらを見てくる。


頼む、やめてくれ。俺はこんな変態をどうにかする術など持っていない。


「この変態ロリコン。とりあえずこの里には近づくな」


あ、しまった。つい本音が出てしまった。


しかし、この変態男は明らかにショックを受けた顔をしている。


「へ、変態とは失礼だお! ボクチンはただ触らずに愛でているんだお」


ロリコンは否定しないらしい。


「今思いっきり触ろうとしてたじゃねーか!」

「ご、誤解だお。あえてぎりぎりの距離で触らない様にしていたんだお」

「それであんだけ追い掛け回したら余計にタチが悪いわ! あんなに怖がってるじゃねーか!」

「な、なんと! ボクチンは怖がらせていたんだお? ボクチンはなんてことを…」

「はあ、わかったらこの里と迷いの森から出てけ」


しゅんとなった変態に俺はぴしゃりと言い放つ。


「そ、それはできないお! ボクチンは迷いの森を抜けてエルフの里にいく必要があるんだお!」

「え? ここがエルフの里だぞ?」

「え?」


何か唖然としてた表情で俺を見ている。


「なんと! それはありがたいお! これで秘薬を作れるんだお! 早くエルフの女王のところに行くお。ええと」

「アレンだ」

「アレンうじ、ボクチンをエルフの女王のところへ案内するんだお!」


俺は女王様を指さす。するとこの変態が走り出そうとしたので掴んで止める。


「どうやら、あんたは邪念が多すぎてエルフたちから悪霊だと思われているぞ?」

「なんと! そうなのかお? じゃあアレン氏から頼んでほしいんだお。秘薬を作るには精霊樹の花びらとエルフの蜂蜜が必要なんだお」

「ふうん? それをやったらこの里から出ていくか?」

「もちろんだお!」

「よし、わかった。女王様ー! こいつ、精霊樹の花びらとエルフの蜂蜜をくれたら出ていくって言っているけど、大丈夫ですか?」


すると、周囲から「おお」という安堵の声が聞こえてくる。


「もちろんです。誰か、精霊樹の花びらとエルフの蜂蜜を持ってきなさい」


女王様が命令してしばらくすると小袋と瓶が運ばれてきた。


「ありがたいんだお。アレン氏、この恩は一生忘れないんだお!」


変態はそう言い残して里から出ていったのだった。


「ええと、これでいいんでしょうか?」


俺は女王様に向き直る。


「アレン様、ありがとうございます!」

「アレン様!」

「さすが、風の神の寵愛を受けし神子!」

「ふ、ふん。やるわね」


何やらツンデレさんがいる気もするが、まあいいだろう。これで迷いの森の探索をエルフに手伝ってもらえばスムーズに進むのではないだろうか?


ともあれ、こうして俺は里を救った救世主として大歓迎を受けることとなったのだった。


****


翌朝、エルフの里は大騒ぎとなっていた。


「女王様、どうしたんですか?」

「なんと光の精霊が誕生したのです」


あれ? 光の精霊ってエイミーが里を救うイベントを終わらせた翌日に誕生するんじゃなかったっけ?


だがゲームの話など言えるはずのない俺は適当に話を合わせて質問してみる。


「ええと? すごいこと、なんですよね?」

「ええ、もう 800 年ぶりです。これはもしかすると人間界で聖女が誕生しているのかもしれませんね」


女王様は何やらとても嬉しそうだ。聖女って言うとヒロインのエイミーなわけだが、こんなイベントはなかったはずだ。


一体どうなっているんだ?


「ほら、あそこにいるミリルレルラと遊んでいるのが光の精霊です。あ、ミリルレルラはシェリルラルラの隣にいる小さな女の子で、シェリルラルラの妹です」


確かに 3 ~ 4 才くらいの小さな女の子の周りを、淡く光る羽の生えた、いかにも妖精、といった感じの小さな女の子が飛び回っている。


その妖精はこちらに気付くと俺たちのほうに飛んできた。


「アレン氏! 昨日は助かったんだお! おかげで秘薬が作れて晴れて精霊になれたんだお!」

「は?」

「ロリを極めるならまずは自分がロリになるところから始めようと思っていたんだお! おかげでロリの何たるかを悟ることができそうなんだお!」

「おい、ロリンガスっていったっけか? お前――」

「アレン氏、ボクチンはもうロリンガスではないんだお! ミリィたんと契約して名前はローちゃんになったんだお!」

「は? あの、女王様。こいつ、ミリルレルラちゃんと勝手に契約したとか言っているんですけど……」

「まあ、本当ですか? それは目出度いです。ミリィちゃん、ちょっと――」


女王様はミリルレルラちゃんのところに走っていった。


あれ? そういえば光の精霊が契約するのはヒロインのエイミーとじゃなかったっけ? あ、祝福だったかも?


……ま、いっか。


俺は考えることを放棄した。細かいことはよく覚えていないし、それにこのあたりのイベントが発生するのは悪役令嬢断罪イベントの後だ。俺にはどうせ関係ない。


「アレン氏、ボクチンは本当に感謝しているんだお。ボクチンは人生をかけてロリの道を極めようと努力を重ねてきて、ようやくその境地に辿りつけるかもしれないんだお。だからこれはそのお礼なんだお!」


変態あらためローちゃんがそう言って俺にスクロールを渡してくる。


「これは?」

「ボクチンの作った『無詠唱のスクロール』なんだお。本当はロリっ娘にプレゼントしようと思っていたのに、プレゼントする機会がなかったんだお。それにもうボクチンには必要ないから、お世話になったアレン氏にあげるお!」

「お、おう……」


────

名前:無詠唱のスクロール

説明:【無詠唱】のスキルを習得できるスクロール。一度使うと消滅する。

等級:叙事詩エピック

────


鑑定してみたが確かに無詠唱のスクロールだった。


ええと、俺はこの複雑な気持ちをどうしたらいいのだろうか?


****


「それじゃあ、お世話になりました」


俺は見送りに来てくれたエルフの里の皆さんと一応変態のローちゃんにお礼をいう。


「アレン様はこの里を救って下さった英雄です。いつでもこの里にいらしてください。これは私たちエルフ族の祈りを込めて作られた特別なお守りです。私たちのアレン様への感謝と友好の印ですから、どうぞ肌身離さずお持ちください」


女王様はそう言ってお守りを手渡してくれる。


「ありがとうございます。また遊びにきますね」


俺はそう言うとブイトールに乗り込むとエンジンを動かす。


「システムオールグリーン、垂直エンジン、姿勢制御エンジン、起動」


ブイトールが絶妙なバランスを保ちながら徐々に高度を上げていく。眼下では里の皆さんが手を振っている。


俺は小さくうなずき、推進用エンジンを起動する。するとブイトールは徐々にスピードを上げ、迷いの森の空を駆ける。


俺はルールデンを目指して一直線にブイトールを飛ばすのだった。


================

〇多重詠唱と無詠唱について


多重詠唱は、魔法を発動するために流す魔力のパスを並列化してくれます。ですので、頭の中で思考が分割されて複数の魔法を同時に詠唱できるわけではありません。工夫すれば複数の魔法を同時に使えるようになりますが、無詠唱と組み合わせることでその真価を発揮します。


無詠唱は、口に出して魔法の実現過程を表現するところをショートカットして発動できるようになります。

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