第4話 町人Aは遺跡でお宝を見つける
俺は森の中を歩いて目的の遺跡を探している。
町を出てから遺跡に到着するまでもゲームではバトルパートだったのでなんとなく方向は分かるのだが、俯瞰したマップ上のキャラを動かすのと実際に自分が歩くのとでは勝手が違う。
ゲームだとここはバトルパートのチュートリアル扱いで、あれをやれ、これをやれと指示があって楽にクリアできたというのに、現実とは非情なものだ。
かれこれ 2 時間くらい探しているのだが、遺跡はさっぱり見つからない。
しかし、その間も【隠密】スキルはしっかりと俺を守ってくれていて、何回か魔物を見かけたが襲われる事はなかった。
魔物といってもホーンラビットという尖った角のついたウサギの魔物で、大人なら簡単に倒せる相手だ。だがまだ子供の俺にとっては危険な相手だ。
どぶさらいの仕事もあるし、今日は撤退したほうが良いかもしれない。
こうして俺は遺跡探しを諦めると町へと戻ったのだった。
****
俺はまたまたこの森へとやってきた。今日でかれこれ五回目の遺跡探しなのだが、そのおかげでもうこの辺りの地理は大体覚えてしまった。
なので今日は想定していたよりも少し遠い場所を調べてみることにする。
ゲームでは特徴的な形の木の場所を左下として、遺跡は右上にあった。つまり、その木を見つければ、その北東にある遺跡が見つかるはずなのだ。
俺は森の中を【隠密】スキルで隠れながら歩きまわる。
そのまま 30 分ほど森を探し回ると、少し開けた見慣れない場所に辿りついた。
そしてなんと! そこには探していた木が生えていた!
背が高い双子の木だが、その木を別の木がぐるぐる巻きにしている。いわゆる絞め殺しの木というやつだ。
間違いない。ここから北東に行けば遺跡があるはずだ。
ゲームではこの森はホーンラビット、そして遺跡の中はブルースライムの住処となっていた。
どちらも強い魔物ではないが、俺が見つかったら殺されてしまうだろう。
ゲームの記憶を頼りに、音を立てない様に慎重に進んでいく。
そして 10 分ほど歩くと遺跡の入口へと到着した。
あれは確かにゲームの会話パートの背景で見た遺跡の入口だ。間違いない。
間違いないのだが、しかしそこには予想外のものが待っていた。
緑の肌に醜悪な顔、俺よりも少し背が高いくらいの二足歩行の魔物、ゴブリンが出入りしているのだ。
遺跡の入り口に向かってまっすぐ歩いてしまったせいでゴブリンの視線に姿を晒してしまったが、まだ気付かれた気配はない。
【隠密】スキルが無かったら俺はもう殺されていただろう。
どうする? このまま諦めて戻るか?
いや、だがゴブリンが増えてしまったらなおさら手が付けられなくなるだろうし、人に被害が及ぶようになったら討伐隊が組まれるだろう。
そうすると、『鑑定のスクロール』はその討伐隊の誰かが手に入れることになるはずだ。
どうしてシナリオが狂った?
いや、そんなことはどうでもいい。
【隠密】スキルのおかげで気付かれないのなら侵入してみよう。
大丈夫、きっと大丈夫。乙女ゲーのヒロインたちのために用意されたチートスキルの力を信じよう。
こうして俺はゴブリンたちの住処となっている遺跡に忍び込むのだった。
****
遺跡の中はじめじめとしている。そして不思議なことに壁や天井が淡く光っている。
確か、ゲームではアカリゴケという光るコケが生えている影響で最低限の明るさが確保されていると説明されていた。
このことを知っていたので松明は持ってこなかったが、正解だった。
いくら【隠密】スキルがあるとは言っても松明の火まで誤魔化せるとは思えない。
俺は音を立てない様に慎重に遺跡の中を歩いていく。
『鑑定のスクロール』があるのは第一階層、つまり俺が今歩いている通路の突き当り左の小部屋だ。
歩いているとそこそこの頻度でゴブリンとすれ違うが、俺はその度に息を潜め壁際に張り付いてやり過ごす。
そしてゴブリンたちをやり過ごすと、足音を立てないよう慎重に奥へ奥へと歩を進めていく。
俺の心臓はバクバクと音を立てている。
この音で気付かれるのではないかと心配になるほど頭の中に自分の心臓の鼓動が鳴り響いている。
極度の緊張の中歩き続けた俺はついに突き当りまでやってきた。左には小部屋、右は奥へと続く通路だ。
俺は迷わず左の小部屋に侵入する。
この小部屋の右奥の隅に土を被った状態で『鑑定のスクロール』が落ちているはずだ。
だが、入ったその部屋には様々なものが雑多に積み上げられていた。
銅貨や銀貨、錆びた短剣、何かが入っている袋、木箱もある。
そうか、そういうことか!
きっとここはゴブリンたちが集めてきた宝が集められた部屋なのだろう。
俺は『鑑定のスクロール』がないか袋を開け、そして木箱を開けて調べる。
そうしていると、ひたひたとこちらに向かってくる足音が聞こえる。
やばい! 気付かれたか?
俺は慌てて壁際によると息をひそめ、身をかがめる。
見つかった瞬間に俺は殺される。
ゴブリンは何やらギュギュギュと気持ち悪い声をあげながらこの部屋に入ってきた。
鼻をスンスンとして匂いを嗅いでいて、その姿はまるで何かを探しているようにキョロキョロと部屋の中を見回している。
頼む、そのまま気付かないでくれ!
そう祈りながらも俺の心臓がまるで早鐘を打つように音を立てる。
俺はなるべく音を立てない様に深呼吸をして心を落ち着ける。
するとゴブリンのすえたような、そして獣臭い匂いが鼻につき吐きそうになるが、俺は必死に我慢する。大丈夫、どぶさらいの匂いよりは遥かにマシだ。
・
・
・
一体どれほどの時間がたったのだろうか?
永遠とも思えるほどの長い時間がたったようにも感じたが、ゴブリンはそのままどこかへと行ってくれた。
助かった。なんとかやり過ごせたようだ。
俺は再び
積み重なった箱をどかしては一つ一つ調べていく。
ない。見つからない。
もしかして空振りか?
全ての箱も袋の中身を調べたがそれらしいスクロールは見つからない。
やはり俺が【隠密】のスクロールを手に入れたことでシナリオが変わってしまったのだろうか?
いや、だが諦めるにはまだ早い。スクロールは土を被った状態だったのだ。地面はまだ調べ終わっていない。
俺はゲームでスクロールがあったはずの場所の箱をどかしてその下を調べる。
あった! 土に埋もれて開いた状態のスクロールがあったのだ! 土を払うと「鑑定」という漢字が書かれている。これだ!
俺は急いでスクロールを懐にしまうと入口へと引き返す。
思わず駆け出してしまいそうになるが冷静に、慎重に。
ゴブリンが歩いてきたら俺は壁際にぴたりと張り付き、【隠密】スキルを信じてやり過ごす。
大丈夫、大丈夫、落ち着け、落ち着け!
心の中で勇気をふり絞り、必死に自分を鼓舞して恐怖を押し殺し、そして遺跡の出口を目指す。
来る時よりも出る時のほうが遥かに距離があるように感じるのは何故だろうか?
そして、長い長い通路を抜け、俺はついに遺跡の外へと脱出することに成功した。
周りを確認したが、ゴブリンの姿はない。
音を立てない様に町への道を引き返す。
安心感から駆け出してしまいそうになるが、油断は禁物だ。ここで魔物に見つかっては何の意味もない。
そう、帰るまでが冒険なのだ。
そうこうしているうちに木が途切れ、町が見えてくる。
よかった。生きて帰れた!
ひと心地着いた俺はすぐさま『鑑定のスクロール』を開いて地面に置くと、その上に右手をのせる。
スクロールが一瞬眩しく光り、そして次の瞬間には消えている。『隠密のスクロール』の時と同じだ。
俺はギルドカードからステータスを確認する。
────
名前:アレン
ランク:G
年齢: 8
加護:
スキル:【隠密】【鑑定】
居住地:ルールデン
所持金: 3,911
────
「完璧だ!」
思わず声に出してしまった。誰にも聞かれていないだろうがなんとなく恥ずかしい。
もう大丈夫だろうが、魔物が襲って来ないとも限らないので俺は町へと急ぐ。
それに今日の分のどぶさらいの仕事が待っている。仕事をさぼるわけにはいかない。
こうして俺は【鑑定】のスキルを手に入れたのだった。
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