side. エイミー(9)

ど、どうなってるのよ? 一体何なのよ?


こっちは 3 万であっちは 1 万よね? あ、ここにいるのは 5 千だっけ?


でもそんなのはどうでもいいのよ!


どうしてこんな勝ち確の戦いでヤバいことになってるの?


ああ、もう。ついてくるんじゃなかったわ。


楽勝って聞いてたから来たのに!


最初はこっちがいっぱいいて、あっちはどう見ても少なかったから楽勝って思ってたのに!


気が付いたらあたしたちの方にだけ爆発が起きてて……。


何なの? どうなってるの?


あ! あの空飛んでる変なの!


あれよね?


「カール様ぁ。あれがあたしたちに爆弾を落としてるんじゃないですかぁ?」


あたしが言うとみんな上を見上げたわ。でも、絶望的な表情をしているの。


「あ、あんな高い場所、一体どうやって?」

「僕の弓でも無理だね」

「魔法も届きませんよ? それに爆弾とはなんですか? あの爆発の事ですか?」

「くそっ、卑怯な! 降りてこい!」


ちょっと、レオ! 何言ってるのよ。


卑怯だからって降りてくるわけないじゃないの。この脳筋バカ!


そんなんだからあの陰キャにやられるのよ。


ん? 陰キャ?


もしかしてあいつ! 知識チートを使ってるの?


そうか! そうよね。あいつも転生者だもの。


どこまでもあたしの邪魔をしてくれてぇ!


「エイミー、まずい。逃げるぞ!」

「えっ?」


カール様に言われて気が付いた時にはもう遅かったわ。


敵兵があたし達を囲んでいたの。


それから縛られて連れて行かれちゃったわ。


ああ!


あたし、どうなっちゃうの?


せっかく慈愛の聖女になったのに。


****


と、思っていたんだけど、慈愛の聖女の言葉は強力ね。


試しにあたし達に食事を運んできた見張りの男に何回か甘えた感じで言ってやったらあっという間に落ちたわ。


最初は何だか狭い部屋に入れられてたのに、すぐにまともな部屋に移動させてくれたし。


それに、みんなであの陰キャと話をさせてくれるように頼んだら簡単に OK してくれたわ。


腹立つけど、あいつも落としておいた方が良さそうだもの。


色々あったけど最初はあたしのこと見てたじたじだったんだから、ちょっと迫ってやれば余裕よね?


そうしてみんなが一部屋に集められたわ。


うん、みんな無事でよかったわ。


さすがに今は捕虜だし、縛られちゃうのはいやだけど仕方ないかな?


ここで更にお願いしてやっぱりダメって言われたら困るもの。


それからしばらく待っているとあの陰キャが部屋に入ってきたわ。


そうしたらすぐにカール様が文句を言ってくれたの。


「おい。平民。今すぐに俺たちを解放しろ。王家にたてつくなど、反逆罪だぞ!」

「そうよ。この慈愛の聖女であるこのあたしにこんなことをして良いと思っているの?」


ああっと、危ない。ついあたしまでいつもみたいに話しちゃうところだったわ。


あいつも落とすんだったわね。


「それよりも縄を解いて? ね?」


あたしはニッコリとあの時のように笑顔を向けて話してあげたわ。


ふふ、これで余裕でしょ。


「殿下に確認したいことがあります。アナスタシア様を帝国に売るように話をつけて命令書を偽造したのは殿下で間違いないですね?」


は? 何こいつ。陰キャのくせにあたしを無視したの? ムカつく!


「エイミー様、あなたもその話は知っていたんですよね? いや、唆したのがエイミー様ですか?」


あの女の話であたしに話を振ってきたわ。


なんだかムカつくからいじめてあげる。


「フン。当然でしょう? あの女はぐちゃぐちゃにされて帝国の兵器になるためにいるんだから。むしろ正しい事をしたって褒めて欲しいものだわ」

「その通りだ!」


ほら! みんなあたしの言うことを認めてくれるわ。


そうよ。あたしが正しいのよ!


それでもごちゃごちゃ言ってくるからあたしは言ってやったわ。


「でも、あの女は帝国の手に落ちたわ。今頃魔剣に魅入られてる頃なんじゃないかしら?」


そう言ってやったらあいつは黙ったわ。ざまぁ!


「やはりそうか。あの女は魔剣に魅入られるほどの闇を心に抱えていたんだな」


カール様はやっぱり同意してくれたわ。


ふふん? どうよ! あんたの味方なんていないのよ!


「え? 大丈夫ですか? 魔剣なんて話をどうしてそんなに簡単に信じてるんですか?」

「聖女のエイミーが言っているのだ! 間違ってなどいるはずがない!」


あいつが言い募るけどカール様はあたしを肯定してくれるわ。


あたしが心地よくカール様の言葉を聞いていると、いきなりドアが開いてあの女が入ってきたの。


えっ? どういうこと!?


「な? アナスタシア?」

「ど、どうしてあんたがここに?」

「お久しぶりですね、殿下。それに皆も。相変わらず元気だけは有り余っているようだな」


驚いたあたしたちにあの女が嫌味を言うと、あの陰キャにしな垂れかかっていったわ。


何よ! まるで娼婦みたいじゃない!


しかも自分を王女とか言っちゃって! しかも平民が婚約者で政略結婚だけど想い合ってるだなんて。


ばっかみたい。自称するだけなら誰でもできるのよ!


そう思っていたら、陰キャがあたしの腰から聖なる導きの杖を奪い取ったの。


「ちょっと! 返しなさいよ! それはあたしのものよ!」

「ま、まさか、この杖は!」

「そうよ! 聖女のあたしのための杖なのよ! 杖に選ばれていないあんたが持っていい物じゃないのよ! 返しなさい!」

「聖女、だと?」

「そうよ! あたしはこの聖なる杖に認められたわ! だからあたしが慈愛の聖女なのよ!」


あたしがそう言っているのに、この陰キャは疑うような視線をあたしに向けてくる。


「大体、聖なる祝福はどうしたんだ? あれがなきゃ聖女の資格はないはずだ」

「そ、それは、それよ。あたしは聖女になったの」


ああ、もう。ムカつく。何なのよ!


あんたがイベントを奪ったせいじゃない!


しかもあたしの杖をじろじろと見たかと思ったら今度はなんか石を出したわ。一体何をやっているの?


そう思っていたら悪役令嬢が勝手にあたしの杖を手に持って触りだしたわ。


あ、ちょっと! 何勝手にあたしの杖を触ってるのよ!


悪役令嬢ごときが触れて良い物じゃないのがわからないの?


変なばい菌でも付いたらどうすんのよ!


それからカール様とあの陰キャが同時に叫んだの。


それにしてもあたしのことを魔女だなんて、失礼にも程があるわ!


「ぐあぁぁぁぁ」


そうしたら、レオが縄を引きちぎってあの女を攻撃したの。


すごい! さすがだわ!


とっさにあの陰キャが庇ったけどすっごい吹っ飛んだわ。それに血まみれじゃない。


「アレン! アレン!」


あはは。あの女の悲痛な叫び声が聞こえて胸がスカッとするわ。


ざまぁ!


それでもあの女を庇ってる陰キャは……ふん。まあ、やるじゃない。


どうせすぐ死んじゃうんだから関係ないけど。


「早く! 逃げるぞ!」

「ダメよ! 杖が! それにあいつにトドメを」

「そうだな。あ、い、いや、ダメだ。エイミーを逃がすほうが先だ」


いつもあたしの言うことを聞いてくれるカール様がそんなに言うなんて!


「ああ、その通りだ。トドメは俺が残って刺そう。殿下たちはエイミーをお願いします」


でも、レオがそう言ってくれるなら安心かな?


「わ、わかったわ。でも、絶対に生きて帰ってきてよね?」


あたしがそう言って小さく祈りを捧げると、レオは深く頷いてくれたわ。


ふふ。慈愛の聖女であるあたしがこう言って祈ったんだから、レオはこいつらを殺して無事に帰ってくるはずよ。


そうよ! あたしはヒロインで慈愛の聖女なんだから、その言葉は絶対のはずなのよ!


だから大丈夫!


じゃあね。さよなら悪役令嬢と陰キャさん。


さっさと地獄にでも行っていると良いわ。


あたしの勝ちよ!

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