side. アナスタシア(14)
「氷剣乱舞」
私は室内で使える最強の対人用魔法を放ち、レオナルドをめった刺しにした。
「アレン、アレン! しっかりしろ!」
「う、アナ、ごめん」
「いいからしっかり!」
「アナ、血が……ついちゃう」
アレンはこんな時でも人の心配だ。
「そんなものどうでもいい。死ぬな! なぁ! こんなところで! おい! アレン!」
せっかく、アレンが迎えに来てくれたのに!
やっと、やっと結ばれると思っていたのに!
こんなのって! こんなのって!
ああ、神様!
アレンの瞳から徐々に光が失われていくのが分かる。
だめだ! 逝くな! 私を残して逝かないで!
私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていることだろう。
「アレン! 逝くな! 私を置いて逝くな! アレン! アレン!」
そして、アレンの体からふっと力が抜けた。
「あああああああああああああああ」
誰でもいい。どうか! アレンを! 私などどうなってもいいから! どうか!
『導きを求めし者よ。あなたの強い願いを認め、力を授けましょう』
「え?」
そして次の瞬間、鮮烈な光が私の体を包み込んだ。
「あ、あ、あ、これ、は……」
その光が収まった瞬間、私は唐突に確信した。
私はアレンの体に突き刺さった椅子の破片を引き抜くと魔法を唱える。
「氷に埋もれしは芽吹きの種。雪解けの水は命を呼ぶ恵み。聖なる氷よ、アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレットの名において命ずる。我がアレンの傷を癒せ。聖氷治癒」
どうしてこの魔法を知っているのかは分からない。なぜ氷魔法で治癒ができるのかも分からない。
でも、私はこうすればアレンを助けられると確信している。
こうして私の魔法によりアレンの体は氷で覆われていき、すぐにアレンの体は完全に氷の中に閉じ込められた。
「お嬢様! アレン殿!」
「こ、これはっ」
「状況の説明は後だ! あの連中が逃げ出したぞ。さっさと捕まえろ! 殺しても構わん」
「は、ははっ」
そうして兵たちは逃げた王太子達を追いかけて行き、その後やってきたお父さま達によって私は氷漬けにしたアレンと共に部屋へと戻ったのだった。
****
「なぜ面会など取り次いだのだ! しかも見張りは何をしていた!」
「そ、それが。自分でもわからないのですがあの女に言われると何故かその通りな気がして来まして」
お父さまが見張りをしていた兵を問い詰めているのだが、その回答はどうにも要領を得ない。
「あの女が自分を聖女と言っていたのを最初は笑いながら聞いていたのですが、段々とその通りな気がしてきてしまいまして……。それで王太子殿下、あ、セントラーレン王国の王族が同じ学園の同級生と話すくらいは当然だと……」
「それで会わせたのか?」
「は、はいっ」
お父さまは頭を抱え、そしてその兵士に退出をさせた。
「一体どうなっているのだ? 彼はあのような判断をする愚か者ではなかったはずだ。だからこそ任せたのだが……」
「お父さま、アレンはあの女を魔女と呼んでいました。見たところブリザードフェニックスの魔石を使っていたので、おそらく人物鑑定をしていたのだと思います」
「魔女、か……」
そして一息つくと、お父さまは話題を変えた。
「それとアナ、これは一体どういうことだ? 何故アレンを氷漬けにしたのだ?」
「それは……あの女の持っていた杖から声が聞こえて、それから光に包まれて。その、よく分からないのですがこうすれば治せると、何故か確信したのです」
私はアレンの封じられた氷の塊を見る。
「確かに、傷は治っているようだが……」
そう、あれほど酷かった傷は既にほとんどが塞がっており、アレンの体内に残っていたと思われる椅子の破片も体外に排出されているようだ。
「氷の治癒魔法など、聞いたことがない。それにその杖は一体?」
「あの女は聖女の証たる杖で、この杖に認められると聖女になれる、と言っていました」
「しかしアレン君の人物鑑定では魔女だった、と」
「はい。おそらくは……」
お父さまはしばらく考え、そして私に提案した。
「アナ、ステータスを確認してみよう。何かが変わっているかもしれない」
「はい」
こうして私はステータス鑑定を受けることとなり、鑑定用の水晶が運ばれてきた。これは非常に高価な魔道具ではあるが、それなりの貴族家であれば一家に一台はある代物だ。
この水晶を使えば冒険者のギルドカードがなくとも加護やスキルなどがわかる。
もちろんギルドに登録すればそれで済むことなのだが、貴族はギルドに自分の情報を握られることを嫌がるためこうして自分で確認するのだ。
私が水晶に手をかざすと、そこには驚きの結果が浮かび上がってきた。
────
名前:アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット
年齢: 17
加護:【空騎士】【氷の聖女】
スキル:【聖氷魔法】
居住地:ヴィーヒェン
レベル: 24
体力:G
魔力:B
────
「あ、あの? お、お父さま? これは?」
「なんだ? 一体どうなっているんだ? 聖女? 聖氷魔法? それに空騎士だと!?」
「あ」
私は何が起きたのかを唐突に理解した。
「この杖が、きっとこの杖がアレンを救いたいと願った私に力を授けてくれたのだと思います」
「この杖が……。魔女を生み出す危険な杖なのではないのか?」
「ですが、そうとしか考えられません」
次の瞬間、私のアレンを封じた氷にヒビが入る。そしてすぐに音を立てて氷が砕け散った。
「アレン!」
私はまだ上手く動かない体を懸命に動かしてアレンのもとへと向かう。
彼の体は冷たいものの心臓の鼓動はきちんと聞こえており、ぎゅっと強く抱きしめているとその体に徐々に火が灯っていくのを感じたのだった。
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