第43話 町人Aは母の愛情を思い知る

寮に戻った俺はまとめておいた荷物を抱えると急いで部屋を飛び出し、そして母さんのいる実家へと戻った。


そして帰りを待っていてくれた母さんに俺は今日あったことを打ち明けた。


理不尽な扱いを受けていた公爵令嬢の味方をして王太子に喧嘩を売り、決闘をしたので恐らく退学になること、そしてその決闘で王太子だけでなく隣国の王子、そして上位貴族の嫡男をボコボコにしてしまったので恐らくタダでは済まないことを伝えた。


きっと、俺が学園を卒業して立派に就職することを望んでいただろう母さんを悲しませてしまったに違いない。


俺はそう思っていたのだが、俺のその告白を聞いた母さんは予想外の言葉をかけてくれた。


「そう。よく頑張ったわ。偉かったね。酷い目にあっている女の子を身を挺して助けるなんて、立派になったね」


そういって母さんは俺を優しく抱きしめてくれた。


「アレン、もしものことがあったらお前はお逃げなさい。何かあったら母さんが代わりになってあげるから」

「そんな! 俺が勝手にやったことで……」

「馬鹿なことをいうんじゃないわ。母さんは、お前が無事で元気にいてくれればそれでいいんだから。ね?」

「う、母さん……」


そう言われると俺は何も言えなくなってしまう。でも、母さんを助けたくてやったことなのに結局母さんを犠牲にすることになるなんて!


「さ、今日はもうお休み。明日は久しぶりに好きなものを作ってあげるからね」

「……うん」


そう母さんに促されて俺は自室のベッドに向かう。そして俺は寝巻に着替えてベッドに潜り込む。


頭の中をぐるぐると回って上手く考えがまとまらない。


一体どこで間違えた? 俺は結局母さんを助けることができないのか?


そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。母さんだ。


「入るわよ?」

「うん」


扉から母さんが入ってきて、そして俺のベッドサイドに腰掛けた。


「こうしてベッドでアレンの顔を見るなんて、いつ振りかしらねぇ?」

「もう、そんな年じゃないよ」


俺は気恥ずかしさからそう言ってしまう。


「母さんね。どうしてアレンはあの人と私の子供なのにこんなに優秀なんだろうって、ずっと思っていたんだけどね。やっぱりお前はあの人の息子なのね」


母さんがしみじみとそう言った。


「だって、いじめられている女の子をつい助けちゃったんでしょう? 本当、あの人にそっくりよ」

「そう、なんだ……」

「きっと、死んだお父さんもアレンを誇りに思っているわ」

「そう、なのかな……」


俺の父さんは物心つく前に死んだらしい。理由を教えてもらった事はないが、もしかしたら父さんも俺のような事をしたのかのもしれない。


「何をそんな顔しているの? 何も悪いことはしていないんでしょう? それなら堂々としていなさい。それにね。お前に罰を与えようなんて言ったら母さんが国王様だろうが公爵様だろうが、文句を言ってあげるからね」

「うう、母さん……」

「だからね、アレン。よく頑張ったね。偉かったよ」


そう言って母さんは優しく俺の頭を撫でてくれた。俺は年甲斐もなくそのまま撫でられ、そして深い眠りに落ちたのだった。


****


そして翌日、目を覚ましたら随分頭がすっきりしていた。


どうして昨日はあんなにネガティブな気分になって取り乱したのか自分でもよく分からないが、よく考えたらここまでは想定通りだ。


アナスタシアの断罪イベントに介入して追放を阻止する。そうすることで内乱の発生を阻止してエスト帝国からの侵略を未然に防ぐ。


今のところは俺の描いた筋書き通りに運命シナリオを破壊できているのだ。


別にまだ処刑されると決まったわけではないし、大体公爵家には恩を売っている状態なわけだから、そこを上手く使えばそうならない可能性だって十分にあるのだ。


やはり昨日は色々あって柄にもない暴言を沢山吐いて、きっと精神的に来ている部分があったのだろう。


そう思い直して俺は部屋を出るとリビングへと向かう。すると既に母さんの作った朝食が用意されていた。


「母さん、おはよう」

「おはよう、アレン。よく眠れた?」

「うん。その、昨日はありがとう」

「どういたしまして。それよりもう朝ごはん、できてるわよ?」

「はーい」


俺は椅子に座って母さんを待つと、一緒に朝ごはんを食べ始める。


久しぶりの実家で、とても安心できるいつもの朝だ。これがいつまで続くかは分からないが、この日々をできる限り大切にしたい。


俺は心からそう思ったのだった。

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