第13話 町人Aは空を自由に飛びたいな
さて、飛竜の谷で謎の人助けならぬワイバーン助けをしてフリッセン村に戻ってきたわけなのだが、こいつを見て欲しい
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名前:アレン
ランク:E
年齢: 12
加護:【風神】
スキル:【隠密】【鑑定】【錬金】【風魔法】
居住地:ルールデン
所持金: 3,009,012
レベル: 1
体力:E
魔力:D
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加護が【風魔法】じゃなくて【風神】になっていて、スキルに【風魔法】が追加されている。しかも、何もしていないのに魔力が F から D へと二段階上がっている。
【風神】なんて加護は知らないし、魔力 D というと、たしか悪役令嬢断罪イベントの時のマルクスがこのくらいだった気がする。あ、マルクスっていうのは忘れているかもしれないが、攻略対象者で宮廷魔術師の息子な。
まあ、とりあえず、神様の加護なのだからきっとすごいんだろうし、【風魔法】スキルが追加されたおかげで欲しかった風魔法も使えるようになった。
と、いうわけで俺の
何を言っているんだこいつ、と思ったかもしれないがよく考えて欲しい。
この世界の移動手段で最も速いのが馬だ。
馬を一日に何頭も乗りつぶしたとしても、精々数百キロが限界だ。
普通の乗合馬車だったら一日に数十キロしか移動できない。
そんな世界で時速数百キロで移動できる手段があったとしたらどうだろうか?
そう、つまりはそういうことだ。
というわけで、今回の作戦目標はグライダーを作ることだ。といっても、完全に動力なしのピュアグライダーではなく、風魔法を動力源とするグライダーだ。
グライダーというのは簡単に言うと、めちゃくちゃ軽くてエンジンがなくても飛べる飛行機のようなものだ。
一応これでも前世では航空エンジニアをやっていたし、航空力学なんかの知識は十分に持っているつもりだ。もちろん操縦だってできる。
というわけで、設計図を起こしていく。
機体は円柱状で、ここを風魔法で空気を噴射するエンジン部分として使う事にする。魔法を起動する部分にはワイバーンの魔石を使う。
そして下部には車輪を三つ設置した。離着陸の時はこいつに頑張ってもらおう。
機体の上部は平らにして、俺はそこにうつぶせになる形で乗り込む。そして右手でエンジンに魔力を供給するのだ。水平尾翼の昇降舵と垂直尾翼の方向舵は左手で魔力を込めることで操作できるようにする。
主翼の翼型はオーソドックスな流線形でいいだろう。
素材は主にワイバーンの骨と皮膜、それに炭素繊維を使う。
そして、作った設計図を【錬金】スキルをつかって魔法陣に落とし込み、必要素材を使ってグライダーを錬成するのだ。
しかし、本当にこの【錬金】スキルというのはチートだ。
ゲーム中でエイミーが『全然揺れなくて快適な馬車』なんてものをサクッと作っていたのでこれぐらいは当然できると予想していたが、こうも簡単に設計図通りのものを作るための魔法陣ができてしまうとは。予想通りではあるがやはり驚きを禁じ得ない。
さて、魔法陣ができあがった。グライダーの形状は、風魔法エンジン以外は前世の記憶で飛んだ実績があるものなので問題はないだろう。
というわけで、俺は村から少し離れた場所にある開けた場所にやってきた。
草がぼうぼうに生い茂っているので覚えたばかりの風魔法で一気に草を切り飛ばす。
「マナよ。万物の根源たるマナよ。我が手に集いて風となり、我が敵を切り捨てよ。ウィンドカッター!」
詠唱は【風魔法】のスキルが教えてくれる。使おうと思った魔法の詠唱が頭に勝手に浮かんでくるのだ。
こうして俺は 500 メートルくらいの滑走路を【風魔法】と【錬金】のスキルを使って整備した。
魔力のステータスが D に上がったおかげか、これだけ使っても全然疲れが来ない。素晴らしい!
さて、滑走路が出来上がったところで俺は紙に書いてきた魔法陣を取り出す。
そして、ワイバーンの魔石二つ、皮膜、大腿骨を一つずつ置き、そして木炭を多めに置いて魔法陣を発動する。
「錬成!」
俺がスキルを発動すると魔法陣が光を放つ。そして光は徐々に形を変化し、光が消えるとそこには設計図通りのグライダーが生み出されていた。
チートスキルに感謝しつつ、俺はグライダーの上にうつ伏せとなり、シートベルトを装着する。
そして俺は右手で取っ手を掴むと、風魔法エンジンを起動する。
「マナよ。万物の根源たるマナよ。我が手に集いて風となれ」
【風魔法】スキルを通じて風魔法が発動し、魔石に刻まれた魔法陣が強烈な風を吹き出す。
ゴオオオオオォォォ
凄まじい突風がエンジンから吹き出され、俺の乗るグライダーが急加速を始める。
「う、吐きそう……」
あまりの強烈な負荷に体がバラバラになりそうだ。
そして次の瞬間、グライダーは空に浮いていた。
「よし! 成功だ!」
グライダーはみるみるうちに高度を上げていく。
森の木々がどんどん小さくなっていき、周りの山よりも高度を上げていく。
気分がいい。前世で大学生だった時以来の空だ。
左手で魔力を込め、昇降舵を水平に戻るように【錬金】スキルを使う。するとグライダーは安定飛行へと突入した。
計器がないので地面に引かれた線のように見える街道を頼りに王都ルールデンを目指してフライトをする。
やはり馬車とは比べ物にならないほど速い。
それに、本当に、本当に気分がいい。俺を乗せたグライダーは次々と街壁に囲まれた町の上を通過していく。
「お、あれは、ルールデンのお城じゃないかな?」
遠くに小さく見知ったお城が見えたのに喜び、思わずひとり呟いた。
馬車で何日もかけて移動した距離をほんの数時間で戻ってきてしまったのだ。
やはり技術チートというのは素晴らしい。
そろそろ着陸準備に入ろう、そう思ったときに俺は肝心なことに気付いた。
「これ、どこに着陸すればいいんだ?」
ルールデンの近くには海や不時着できるような大きな川はない。街道も十分な横幅がないうえ、人の行き来があるから不時着も難しい。
そして、さらに大事なことに気が付いた。
そう、俺はパラシュートを装備していないのだ。
焦ってどこかに着陸できそうな場所はないかと飛び回っていると、遺跡のあった北東の森の奥に湖があるのを見つけた。
ゲームでは登場しなかった湖だが、北東の森なら魔物はホーンラビットか、滅多に見かけないがゴブリンくらいだろうから問題はないはずだ。よし、あそこに不時着しよう。
俺は旋回しつつ徐々に高度を落としていく。風魔法エンジンは既に落としてあり、今は滑空している状態だ。
グライダーは速度を、そして高度をどんどん落としていく。
湖は楕円形をしているのでなるべく長く着水できる方向から進入できるように調整する。
「くそっ。不時着なんて学生の時にもやったことねぇよ」
俺は思わず悪態を着くが、自分のミスだ。
俺は全神経を集中してグライダーを操縦し、着水軌道へと乗せる。
そして、グライダーは木の上をかすめて湖面へと降りていく。
滑走路に着陸するよりも僅かに角度が深い。そこから昇降舵で角度を調整し、風魔法エンジンを逆噴射する。
こんなことなら主翼にもフラップをつけておくんだった。もっと減速できたのに!
グライダーが着水して凄まじい水しぶきが巻き起こる。
そしてそのまま湖面を突っ切ると向かい側の陸まで一直線に向かい、乗り上げる。
そのままつんのめる様にグライダーの尾翼が浮き上がり、一回転してグライダーの腹部が木に激突した。
大きな音を立ててグライダーが潰れたところで止まった。
シートベルトを締めていたおかげで放り出されたりはしなかったのがせめてもの救いだ。体のあちこちが痛い。
大けがはせずに済んだが、もうこのグライダーは使えないだろう。
そう思っていると、グライダーがさらさらと砂のようになって消えていく。どうやら【錬金】スキルで作ったものは壊れるとこうなるらしい。
「ああ、失敗したなぁ」
そう呟くと、【隠密】スキルを使ってルールデンの町に向かって歩き出した。
俺はグライダーによる飛行には成功したものの、貴重なワイバーンの魔石 2 個、そして大腿骨と皮膜を 1 つずつを失ったのだった。
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