第14話 町人Aは VTOL の夢を見る
「おいおい、アレン坊。お前びしょ濡れじゃないか。一体何したんだ?」
湖に不時着した俺は体を温めようとギルドにある温水シャワーにやってきたのだが、そこを師匠に見つかってしまった。
「いやあ、ちょっと失敗して水の中に落ちちゃいました。それで温水シャワーを借りようかと思いまして」
「おお、そうか。気をつけろよ。アレン坊みたいに慣れてきて調子に乗り始めたあたりが一番死にやすいんだからな。母ちゃん置いて先に逝くような真似したら駄目だぞ?」
「はい」
そう答えたのだが、今度はモニカさんが俺を見つけて師匠に文句を言い始めた。
「あら? アレン君びしょ濡れじゃない。どうしたの? まさか! ちょっとルドルフさん! いくら修行だからって気絶したアレン君に水を掛けて起こすなんて! まだ子供なんですから、そんなことしちゃダメですからね!」
「え? いや、ちょっと待て。こいつがびしょ濡れになって帰ってきただけだぞ? 今日は稽古をつけてねぇ」
それを聞いたモニカさんはジト目で師匠を見ると、俺を見てニッコリと笑った。
「そう、まあいいわ。アレン君、こんなところでびしょ濡れだと風邪ひいちゃうわよ? さ、お姉さんが洗ってあげ――」
「ひ、一人で洗えるから大丈夫ですっ!」
怪しい雰囲気になったので俺は慌てて逃げ出した。
「ああん、もう。冗談じゃないの」
背後からモニカさんの声が聞こえるが、果たして冗談だったのかどうなのか。いずれにしてもあの爆乳お姉さんに迫られるとちょっとどうしたらいいのか対応に困る。
そして 1,000 セントを支払って温水シャワーを浴びて体を温めると、家から持ってきた服に着替えてギルドの受付へと戻ってきた。
「師匠、これを買い取ってほしいんですけど」
そう言って俺はフリッセンの村で見かけたお宝アイテムを差し出す。
────
名前:炎のナイフ
説明:切り付けると低確率で炎属性の追加ダメージを与える
等級:
価格:450,000 セント
────
「おお、相変わらずアレン坊は目利きがいいな。希望は?」
「40 万セントなら」
「まあ、妥当なところだろうな。いいぜ、引き取ろう」
俺の貯金が 40 万セント増えた。もちろん、まだまだ目標額には届かないのでもっと沢山稼ぐ必要がある。
だが、まだ慌てるような時間帯じゃない。
「アレン坊、無理すんなよ?」
「はい、師匠」
しばらくはゆっくりして、VTOL、垂直離着陸型のグライダーを作るところからはじめよう。
****
それから一か月ほどかけて色々と研究をしてみた。
まず、【錬金】スキルでモノづくりをするにあたって重要なことが二つあることがわかった。
まず一つは、設計図だ。作るものをどれだけ正確にイメージできているかで出来上がった物の精度と必要となる魔力が変わる。
ゲームではエイミーがふわっとしたイメージで高性能な馬車を作っていたが、それができたのはゲームの終盤になってからで、その時には主人公として劇的に成長して桁違いの魔力を持っていたからできたのだ。つまり、今の俺では同じことをするのは到底不可能だ。
なので、できる限り正確な設計図を用意して頭の中にその構造をイメージしつくすことが肝となる。
そしてもう一つは、材料をできるだけきっちりと用意することだ。これはゲームでもそれっぽい描写が多く出てきていたので追試をして確かめたという形だが、材料となる物質の有無で必要となる魔力量が天と地ほど変わる。
特に、何もないところから生み出すのは今の俺ではほぼ不可能に近い。
逆に、材料が十分になかったとしても一部あれば似たような素材を合成することができる。この傾向は魔物素材で特に顕著だった。
これの何が嬉しいかというと、ワイバーンの皮膜だけで作らなくても、ジャイアントバットという割と手に入りやすい蝙蝠の魔物の皮膜を混ぜることでコストが大幅に下げられるのだ。
そして機体の制御についてもいくつかわかったことがある。
まずはポジティブな発見は、魔力を伝達するための素材がほぼ確定できたことだ。
方向舵や昇降舵を操作するために、俺は左手で【錬金】スキルを使って変形させるというやり方をしている。そして、それを伝達するいわば電線のような役目を担う素材として自分の髪の毛が最適だということが分かった。
これを発見したのはただの偶然だった。最初は魔物素材で魔物の種類や部位を変えて実験していたのだが、たまたま抜け毛が実験道具の上に落ちてしまった。それを睡眠不足で朦朧としたまま間違って使ってしまったところ、上手くいったのだ。
そしてネガティブな発見は、複数の場所を同時に制御できないということだ。これは俺の能力の問題なのだが、一か所で何らかの制御をすると別の場所の制御ができなくなる。
例えば、風魔法エンジンを動かしていると方向舵や昇降舵の操作が出来なくなるのだ。
これはかなり致命的で、垂直離着陸を実現するのにエンジン一つというのは結構難しい。日本でも何かと話題になったオスプレイのように最低でも 2 つ、できればドローンのように 4 つ欲しい。
この事が判明したところで、俺は研究を一旦やめることにした。
そう、複数の魔法を同時に使えないなら、使えるようになれば良いのだ。
俺は知っている。賢者の塔と呼ばれる場所の最上階には『多重詠唱のスクロール』というアイテムがあるのだ。
ここを攻略するには高い魔法力が必要で、【隠密】スキルだけで忍び込んだとしても、登ることができない。
だが、今の俺であれば別のやり方で攻略できることを確信している。
そうして俺は賢者の塔の攻略に必要な道具の設計と物資の調達を始めるのだった。
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錬金と魔法と詠唱と魔法陣について
魔法は、完成した状態の指定と、それを実現するための過程をセットにして適切に魔力を使うことで発動します
詠唱は、頭の中で想像した完成状態に対して、それを実現する過程を言葉として口に出したものです。この言葉と頭の中で想像した完成状態が魔力で結ばれて魔法が発動されます。
魔法陣は、完成した状態とそれを実現するための過程を書き記したものです。これに魔力を流すことで魔法が発動されます。魔法の設計図と考えると分かりやすいと思います。
錬成:錬金術で何かものを生み出すことで、魔法の一種です。錬成は完成状態が非常に複雑で、それを実現する過程も複雑なので詠唱ではなく魔法陣を使うことが一般的となります。
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