第15話 町人Aは賢者の塔を攻略する
「進路クリアー、発進 OK、テイクオフ」
俺は風魔法エンジンを起動して風魔法グライダーを滑走路から離陸させる。
滑走路がないなら作れば良いじゃない、ということでルールデン北東部の森の奥を勝手に切り開いて滑走路を作った。
往復するのはやや面倒だが、どうせ町中で離着陸できるわけではないのだし、最初からこうしておけばよかったのだ。
俺を乗せたグライダーはぐんぐんと高度を上げていき、層雲の高さにも迫ろうかという勢いだ。
ちなみに、賢者の塔はルールデンから馬車を乗り継いで 10 日ほどの町に行き、さらにそこから森を分け入り徒歩 4 日というかなりアクセスの悪い場所にある。
この塔はいにしえの賢者が建てたと言われる塔で、なんと地上 300 階というブルジュ・ハリファも真っ青の高層建築だ。
300 階というと、もしかしたら高さは 1,000 とか 1,500 メートルとかあるかもしれない。
ちなみにゲームだとこの塔は 2 年生の文化祭向けの自由研究として来ることができる。ただ、別に来なくてもクリアはできるので必須ではない。
さて、賢者の塔はかなり距離がある。そのため滑空飛行は行わずに風魔法エンジンをガンガン噴射しているおかげで前回よりもかなり高速で進んでいる。予想では数時間もあれば着くはずだ。
風魔法グライダーも前回と比べて改良が進んだうえ、賢者の塔攻略専用仕様となっている。
まず一番大きな改良点は、グライダーの動力源となる風魔法エンジンのコア部分を取り外しできるようにしたことだ。
前回はまとめて錬成してしまったせいで壊れたら一度でダメになってしまったが、今回は事故が起きてもこのコア部分さえ失わなければ新たにワイバーンの魔石が必要になることはない。
また、機体の素材をほぼ炭素繊維として、一番力のかかる部分、翼の付け根にだけワイバーンの骨を使うようにした。おかげでワイバーンの大腿骨は半分しか使っていない。
そして動力を伝えるのは俺の髪の毛。ぶちぶち抜くのは痛かったが背に腹は変えられない。
長いのは鬱陶しいから好みではないが、伸ばすことも検討したほうがいいかもしれない。
ただ、こうやってコストダウンしたおかげで機体の錬成に必要な魔石がワイバーンの魔石でなくオークの魔石で済むようになった。
これはかなり大きい。
オークの魔石であれば 10 万セントぐらいでギルドから買うことができる。色々な意味で嫌われている魔物ではあるがオークは食肉としても人気がある。そのため中級の冒険者たちのメインの稼ぎともなっているのでオークの魔石は流通在庫も豊富にある。
こうしてコストダウンと性能アップを両立した風魔法グライダーは快調に空の旅を続けていく。
****
そうこうしながら空の上で作ってきたサンドイッチを頬張っていると、前方に凄まじい高さの塔が見えてきた。
間違いない、あれが賢者の塔だ。
それでは手筈通り、作戦行動を開始するとしよう。
俺は左手で昇降舵を動かし、旋回させつつ機体の高度を上昇させる。
ぐんぐんと高度をあげ、グライダーは層雲を突っ切って雲の上に出る。層雲は大体上空 2,000 メートルぐらいまでの高さで存在するので、今の高度は大体そのぐらいだ。
眼下にはまるで雲海のように白い雲が広がっており、その雲を突き抜けるかのように塔の上部が突き出している。そしてその塔の屋上も今や目視で確認できている。
俺はグライダーを操り接近していくが、特に妨害は起きない。
やはり、想定通りだ。
グライダーを大きく振って一度塔から離れ、そして旋回。再び塔の方へと機首を向ける。
「方向良し、高度良し、目標、賢者の塔最上階。グライダーミサイル、突撃!」
俺は風魔法エンジンを最大出力で噴射する。
ガタガタと機体がきしむ音がする。そしてぐんぐんとスピードをあげ、塔の最上部を目指して突っ込んでいく。
「今だ! 離脱!」
俺は風魔法エンジンに使っているコアを取り外し、そして緊急脱出装置を起動させる。
装置は正確に起動し、俺はポーンと上へと大きく射出される。
「マナよ。万物の根源たるマナよ。我が手に集いて風となれ」
まずは風を前方斜め下に向かって打ち込み減速しつつ、準備しておいたパラシュートを開く。
そして用意していた小型風魔法エンジンを起動して空中での姿勢を整える。これは推進力を得るというよりも落下場所を整えるという程度の簡単なものだ。
この装備ならパラシュートというよりもモーターパラグライダーのほうが近いかもしれない。
一方、俺が離脱したグライダーはミサイルとなって賢者の塔の最上部に大きな音を立てて激突した。
重量が軽いのでそこまでの衝撃はないだろうが、先端部分には鉄をくっつけておいたので多少は衝撃力があるはずだ。
こうして賢者の塔の屋上に着地した俺は塔の状態を確認する。グライダーをぶつけた部分は崩れて穴が開いているが、それ以外の場所には特に影響はなさそうだ。
俺は急いでパラシュートを畳むと、ロープを使って最上階に進入した。
「計画通り!」
俺は賢者の塔のトラップ、魔物、ボス、その全てを回避して最上階へと辿りついたのだ。
そうこうしている間に、賢者の塔の自己修復機能が働き、徐々に外壁が修復されていき、すぐに激突事故などなかったかのように元の状態へと戻ったのだった。
ちなみに、何で賢者の塔の外壁を外から破壊できることを知っているかというと、もちろんゲームでそういった描写があったからだ。
賢者の塔の最上階に辿りついて喜んでいるエイミー達に対して、賢者の塔の外壁を破壊して手負いの黒いスカイドラゴンが襲撃してくるというイベントがあったのだ。
中々キャラデザもかっこよかったのだが、敵キャラで会話イベントもなくいきなり襲撃されたうえに滅茶苦茶強かったので、あの時はわけがわからずに運営を呪ったものだ。
さて、こうしてまんまと最上階に侵入した俺はこのフロアの中央に置かれた宝箱のもとへと向かう。
ギギ、ときしんだ音を立てて宝箱が開くと、中にはスクロールが入っている。
間違いない、『多重詠唱のスクロール』だ。
俺は急いでスクロールを使うと【多重詠唱】のスキルを獲得する。
────
名前:アレン
ランク:E
年齢: 12
加護:【風神】
スキル:【隠密】【鑑定】【錬金】【風魔法】【多重詠唱】
居住地:ルールデン
所持金: 3,308,751
レベル: 1
体力:E
魔力:D
────
さあ、これで欲しいスキルはあと 1 つ。そのための準備を整えるとしよう。
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