side. エイミー(10)
「はぁ、はぁ、カール様ぁ」
「エイミー、頑張れ。もう少しで国境を越える」
「そうです。そうすれば私たちは王都に戻れます」
あたしは必死に走ったわ。まさか、あんなことになるなんて思わなかったのよ。
「レオとオスカーが俺たちを逃がしてくれたんだ。それに報いるためにも、必ず生きなければならない」
「う、うん」
そうよ。いくらあの陰キャがチートしててもあの傷で生き延びられるはずはないわ。
それに悪役令嬢だってあのレオなら簡単に倒せるはずよ。あんまり調子良さそうじゃなかったし。
でも、やっぱり……。
「見えたぞ。村だ!」
「え? あたし達、助かったの?」
「そうですよ。私たちは逆賊どもに占領された土地を抜けました」
「ああ、良かった……」
安心したらあたし、力が抜けちゃったわ。
そうしたら、カール様がお姫様抱っこしてくれたの。
「きゃ。あ、あたし」
「気にするなエイミー。俺がそうしたいからやっているのだ。こんなところまで歩かせてしまってすまなかった」
あたしは首をふるふると可愛らしく振ったわ。
「ううん。あたしはカール様にマルクスがいてくれて幸せです」
こう上目遣いで言って、それから少し伏し目がちにして決意を込めて言った。
「行きましょう! 二人のためにも!」
「そうだな」
「二人の分も、私たちがエイミーを守らなくては」
あたしは二人の言葉にうなずくと、命からがら何とか王都へ逃げ帰ったわ。
****
ああ、もう。本当にどうなってるの?
せっかくあたしが慈愛の聖女になったのに、どうして第二王子が脱出してるのよ? しかも継承権争いがこんな時に起きるなんて!
あたしに逆らう北の貴族ども、覚悟しておきなさいよね!
あと、なんかエスト帝国との戦線も押し戻されてるらしいじゃない。どうなってるの?
やっぱりこの国の兵士ってちょっと腑抜けが多いんじゃないかしら?
そうだ! 良いことを思いついたわ。
ちょっと大変だけど、この作戦で行きましょう。
そうと決まれば早速カール様にお願いに行かなきゃ。
****
「こういう活動を自分から買って出てくれるなんて、さすがエイミーだな」
「本当に、慈愛の聖女になってからのエイミーは私たちが置いて行かれるのではないかと思うほどのスピードで成長していますね」
「やだぁ。そんなぁ。褒めすぎですぅ。それに、あたしはぁ、慈愛の聖女ですからぁ、これくらいはぁ、当然ですぅ」
ふふ。もうこれ以上攻略はできないと思うけど、二人からの好感度はどんどん上がっているわね。
「さ、エイミー、着いたぞ」
そう言ってカール様はあたしをエスコートして大きな部屋の中に入ったわ。
ふふ、ここには兵士たちがたくさん集められているの。
その兵士たちに向かってカール様が演説を始めたわ。
「皆、よく集まってくれた。知っての通り、我が国は東のエスト帝国、そして南に逆賊ラムズレット元公爵、そして北では愚弟が逆賊シュレースタイン公爵に騙されて反乱を起こしている」
ふふ、さすがカール様よね。演説もかっこいいわぁ。
「だが、王都が、そして民が安寧な暮らしを送れているのは諸君らの活躍があってのことだ!」
「「「「うおおぉぉぉぉ」」」」
「そこで! 我らが王の認めた慈愛の聖女エイミーが諸君らを激励にやってきてくれた。エイミーはその慈愛の心から諸君ら一人一人を励ましたいと申し出てくれたのだ。順番を守り、整列してエイミーと話すがよい」
「「「「うおおおぉぉぉぉぉ」」」」
ふふ、どう? これぞ会いに行ける聖女作戦よ!
もう、分かりやすいくらいに兵士たちが並んだわ。あとは握手会みたいな要領でどんどん捌いて行けばいいのよ。
「お、おれ、ダニエルですっ。騎士見習いをやってます。あ、あの、お綺麗です」
「まぁっ、ダニエル様。お上手ですぅ。見習いのお仕事ぉ、大変ですよね。頑張ってください」
「はいっ! がんばりますっ!」
「ハイ次!」
「ちょっと待ってください。あたしがぁ、ダニエル様に祝福を授けますねぇ」
そうしてあたしはダニエルとか言うパッとしない男の手を握って上目遣いに見てあげたわ。
そうしたらかわいい。あっという間に顔を真っ赤にしちゃったわ。
「慈愛の聖女エイミーはぁ、いつでもあなたを応援してますっ。皆をぉ、守ってあげてくださいねっ。ダニエル様ぁ」
そうして別れたダニエルは夢見心地な様子だったわ。あれでもうダニエルは完全にあたしのファンね。
さ、次よ次!
「お、おれ、オリヴァーといいますっ。騎士見習いですっ。あ、その、素敵です」
こっから大体同じ会話の繰り返しだったわ。時間はかかったけど、ジャガイモでも相手にしていると思えばどうってことないわね。
それに騎士だからよね。ちゃんと鍛えられているおかげで、ちょっと強面が多いけどキモデブがいないのは助かるわ。
キモデブ相手だったら握手会なんてこんなに長くはできなかったと思うもの。
「エイミー、お疲れ様でした」
「ああ、エイミー、さすがだったな。兵士たちの士気も随分上がったようだ」
「そんな、あたしはあたしにできることをしただけですぅ」
「謙虚なところも素晴らしいな、エイミー」
こうして握手会を毎日いろんな兵士たちにやってあげたわ。そうしたらもうあっという間ね。
それに怪我人も治してあげたし、あたしはもう兵士たちの間ではすっかり美しくて優しい慈愛の聖女エイミー様よ。
この間なんか、どうやってエイミー様の役に立つか、なんて話を一介の騎士見習いが真剣に議論してたのよ?
笑っちゃうわ。あたしはあんたたちなんかジャガイモくらいにしか思ってないのにね。
せいぜい、あたしのために働いてちょうだい?
それにしても慈愛の聖女の力って、本当に便利よね。
ゲームでは祈りと言葉でラスボスの悪役令嬢を弱体化させてたし、今度は……あ、レオが倒してくれてるはずだから今度はないわね。
レオ……ちゃんと、戻ってきてくれるよね?
・
・
・
あっと、いけない。脱線しちゃったわ。
それでね。あとは教会なのよ。あそこに認めさせればこの国であたしを聖女と認めないやつは居なくなるはずなの。
でもね。あいつらしぶといのよ。
奇跡を起こしていないからダメとか、証拠を見せろとか。
あたしの存在が証拠だっていうのに、どうしてわからないのかしら。
頭の悪い奴の相手は困るのよね。ホント。
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