第26話 町人Aは風の山の迷宮を踏破する

もう、サイガさえあれば他に何もいらない。


今日実戦デビューしたサイガはそう思わせてくれるほどの大活躍を見せてくれている。


射程は短いが、やはり狙いが多少外れても命中するショットガンは狩りに最適だ。


おかげでサクサクと進むことができ、今俺は第 28 層に到着した。この迷宮は 8 のつく階層がギミック層となっていて、突破には風魔法が必ず必要になる。


この階層は 10 の浮遊小島を渡っていくのだが、次の浮遊小島に渡るにはその浮遊小島の上にあるリンゴほどの小さな的に風魔法を当てる必要がある。


そうするとその小島に転移させてもらえるのだ。


この浮遊小島を正しい順番で全て回ることで次の階層に行きつくことができるのだ。


ちなみに順番を間違えるとこの階層の入り口に飛ばされるか、真っ逆さまに落下するかのどちらかだ。


ゲームでもクソ迷宮として有名だったし、実際問題 Wiki 無しでここを突破するのは相当難しいだろう。


ちなみに落下したら即ゲームオーバーだったので、もし俺が落下したら人生がゲームオーバーになってしまうだろう。


そう考えた俺は慎重に小島を渡っていく。襲ってくる魔物は全てサイガで撃ち落としていくが、倒した魔物がそのまま落下していってしまうところが実に悲しい。


そして 5 つ目の浮島に到達した。ここには実は隠しギミックがある。


この小島の北の側面に、島の内部に入るための入り口があるのだ。


この入り口は全ての小島を渡り終わって振り返るとギリギリ小さく見えるという意地悪っぷりで、制作チームの悪意をひしひしと感じたものだと前世を懐かしく思う。


さて、元々意図された攻略方法はフック付きロープを用意して崖を伝って浮島の側面を降りる、なのだが俺には課金チートスキルの【錬金】がある。


【錬金】スキルを使って下り階段を錬成すれば危険は一切ない。もちろん、課金すればゲーム内でも可能なやり方だ。


俺はこうして楽々と島の内部に侵入した。内部はまっすぐな通路になっていて、小さな祭壇のような場所がある。


そして辿りついたその祭壇には一対の身代わりの指輪が安置されている。


ゲームだと、ヒロインのエイミーに攻略対象者が身代わりの指輪を装備させて、今度は本物を贈ってやりたいな、なんてことを言い出すシーンがあってそれぞれの攻略対象者ごとにイベントスチルが用意されていた。


悪役令嬢断罪イベント後に来る場所だし、俺にはそのイベントがどうなろうと関係ない。


自分の身の安全が第一な俺は身代わりの指輪を二つとも有り難く頂いておく。


そしてそのうちの一つを左手の中指に嵌めると先を急ぐ。


こうして俺は最悪の事態に対する保険を手に入れたのだった。


****


そしてついにボス部屋の前へとやってきた。


中で待ち受けるはブリザードフェニックス、屋外では決して戦いたくない危険な魔物だ。


銃の状態を確認し、サイガの弾丸をスラッグ弾に変更する。スラッグ弾というのは熊撃ちとも呼ばれているもので、射程はイマイチだが近距離で命中すればその威力は絶大だ。


更に今回は攻撃をくらうことを想定しているためポリカーボネート製の盾も錬成した。


さあ、準備は万端だ!


こうして俺はボス部屋の中へと飛び込んだ。


ボス部屋は半径 100 メートルくらいのドーム状の広大な部屋で、氷を身に纏う神々しい姿をしたブリザードフェニックスが待ち構えていた。


「キュイェェェェェェェェ!」


扉が開いた瞬間、ブリザードフェニックスは問答無用で強烈な吹雪を俺、というか俺が侵入してきた扉を目掛けて撃ち込んできた。


俺は【隠密】スキルでいつものように隠れているのだが、とりあえず扉が開いたら攻撃してくる。それがブリザードフェニックスのやり方のようだ。


俺は盾で吹雪をやり過ごしながら吹雪の射線から急いで外れる。


その直後、俺のいた場所にブリザードフェニックスが氷の矢を雨あられと撃ち込んできた。


その間にこっそりとブリザードフェニックスに近づき、サイガの弾を叩き込んでやる。


ドォォン、ドォォン、ドォォン、ドォォン


四発撃ち込んだが、一発命中した時点で気付かれ距離を取られてしまった。


だが手ごたえはあった。ブリザードフェニックスの体からは青い血がしたたり落ちている。


しかも驚いたことに、その床に零れ落ちた血痕は既に凍り付いていた。


俺は煙幕から【隠密】スキルのゴールデンコンボを発動する。


だが、ブリザードフェニックスはすぐさま吹雪を俺に叩き込んできた。


盾で直撃を防ぎ、そして射線から外れる。


だが吹雪から逃れた俺にブリザードフェニックスは氷の矢を次々と撃ち込んでくる。


【隠密】で隠れる前に吹雪をくらったことで上手く隠れることができなかったようだ。


横に走って避けようとするが避けきれない。とっさに俺は盾を前に出して氷の矢を受け止める。


ガガガガガガガガガ


盾に氷の矢が激突して大きな音を立てている。盾は氷の矢からの衝撃には耐えているが、みるみるうちに冷たくなっていく。


このまま行くと持てなくなるだろう。


ジリ貧の状況となった俺は新しい手を打つ。


「錬成」


俺は盾の隣に隠れられるサイズの岩を錬成し、凍結した盾を放棄してその陰に隠れる。


そして新しく盾を錬成して装備すると【隠密】スキルを発動し、そして移動を開始する。


ブリザードフェニックスは俺がいなくなったことを察知し、俺の居場所を探して飛び回っている。


ぎりぎりまで引き付けてヘッドショットを狙いたい。


すると、ブリザードフェニックスが俺を見つけられないことに業を煮やしたのか適当に吹雪を撃ち始めた。


吹雪をまともに受けそうになった俺は慌てて目の前に岩を作り出す。


「くそっ」


そしてそんな俺に気づいたブリザードフェニックスが氷の矢を飛ばしてくる。


圧倒的なアウトレンジからの火力だ。だが、射程は俺だって負けてはいない。


俺はサイガからニコフへと持ちかえる。そして盾を前に構えて銃撃を開始する。


ドンドンドン


そして岩陰に隠れる。そしてまた岩陰から銃口をブリザードフェニックスに向けて銃撃する。


これをひたすら繰り返していく。





唐突に撃ち込まれる氷の矢が止まった。


俺は【隠密】スキルを発動して岩陰から飛び出すと、そこには地面に横たわってピクピクと痙攣するブリザードフェニックスの姿があった。


どうやら急所に命中したらしい。


俺は急いで近づくとニコフでブリザードフェニックスの頭を撃ち抜いた。


「よし、ぎりぎりだったが何とか倒したぞ」


俺は解体を始める。


こうして見てみるとブリザードフェニックスはとても美しい。


だが、アイスブルーの美しい羽だと思っていたものの大部分は氷でできているようだ。試しに氷の羽を剥がしてみたが、剥がした羽はすでに溶け始めている。


残念だがこれでは素材として使うのは無理そうだ。


仕方がないので鶏、にしては随分と巨大だが、それを捌く要領でブリザードフェニックスを捌いていく。すると心臓のあたりから魔石を見つけたので取り出しておく。


そして徐々に溶けていく氷の羽を見ているとあることに気付いた。


おや? 尾羽の中に氷ではないものが混ざっている? それに翼にもだ!


そうして溶け残ったブリザードフェニックスからアイスブルーの美しい尾羽が一本、風切り羽が二本回収できた。


肉は……なんだかとてもまずそうな色をしているしやめておこう。


ゲームでも食べられるという説明はなかったしな。


翼の骨も回収した俺はボス部屋の先へと進む。するとそこには見慣れた迷宮核、そして宝箱と台座が鎮座している。


俺は宝箱を開けて空騎士の剣を回収した。


そして、この台座なのだが魔石合成装置だ。そして、この装置の存在こそが、俺がここを周回したい理由なのだ。


何せこれはこの世界の常識をぶっ壊すチート装置だ。


この装置は何ができるかというと、同じ種類の魔石を合成して魔石の大きさをアップさせることができるのだ。ゲームでは、同じサイズの魔石を 2 個で一つ上のサイズにできた。つまり、極小を小にするのに 2 個、中にするのに 4 個、大にするのに 8 個、巨大にするのに 16 個の極小の魔石が必要だった。


例えば、普通のゴブリンを倒すと極小サイズの魔石が手に入る。これは大体 1,500 ~ 2,000 セントほどで売られている。だが、大のサイズだと 30,000 セントで取引されている。


この装置を使えば 12,000 ~ 16,000 セントで 30,000 セントの価値のあるものが作りだせるのだ。


そう、これまで溜めに溜めたゴブリンとオークの魔石はここで合成した後に売り捌く予定なのだ。


こうして俺はここに来るまでに手に入れた魔石を台座に置いて合成すると、入口へと転移したのだった。

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