第25話 町人Aは風の山の迷宮に挑む

俺もついに 13 才になった。


オークの大迷宮周回で半年ほどレベリングを行ったおかげでオーク狩りの実績が貯まり、オークスレイヤーの実績も貰えた。そしてこのおかげでランクは D になり、レベルも 23 までアップした。ランク C になるには護衛依頼をこなさなければいけないそうなので、今のところはまだやるつもりはない。


それと、先輩方からのパーティーへの誘いもしばらく一人で修業したいと言って断っている。


ちなみに、最近アルトムントではオークが出なくなったとして大騒ぎになっているらしい。


ええと、まあ、俺のせいではないと思いたい。


また、定期的にエルフの里で蜂蜜の買い付けをしているおかげでお金も貯まってきた。最低目標金額まであと 500 万だ。


────

名前:アレン

ランク:D

年齢: 13

加護:【風神】

スキル:【隠密】【鑑定】【錬金】【風魔法】【多重詠唱】【無詠唱】

居住地:ルールデン

所持金: 15,457,109

レベル: 23

体力:D

魔力:B

実績:ゴブリン迷宮踏破、ゴブリンスレイヤー、オークスレイヤー

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それとエルフの里の皆さんには良くしてもらっていて、なんと空港も整備してもらえた。


あまり森を切り開きたくないということで滑走路は 300 メートルしかないのだが、ブイトールのブレーキ機能を強化したことと、離陸時に風の精霊が適度な向かい風を吹かせるサービスをしてくれるおかげで不安なく離着陸できている。


ちなみに普段は里の子供たちの遊び場になったり、弓の練習場所にしたりと空港以外の活用をされているらしく、里でも文句を言う人はいないそうだ。


さて、俺もオークの大迷宮ではレベルが上がらなくなってきたので高難易度の迷宮に挑もうと思う。


次に挑戦するのは風の山の迷宮だ。ゲームでの想定攻略レベルは 30、オークの大迷宮が 15、飛竜の谷が 25 なのでいかに難易度が高いかがわかるだろう。


さて、風の山の迷宮は既に知られている有名な迷宮で、名うての冒険者たちによって攻略レースが繰り広げられている。


今現在、到達できた階層の最深記録はわずかに 8 階層だ。多くの有名冒険者たちが飲み込まれてきた歴史を持つ。


ゲームでは全 30 階層で、地下なのに空がある不思議な場所だった。出てくる魔物は空を飛ぶ魔物たちばかりで、風魔法が使えないと解除できない罠があちこちにある。


マルクスルートか、飛竜の谷で風神の書を手に入れてからでないと攻略できないと知らずに突撃してゲームオーバーになった前世の記憶が懐かしい。


話を戻して、この迷宮で手に入る目ぼしいお宝は身代わりの指輪が二つ、そして最下層のボス討伐のお宝が空騎士の剣だ。


身代わりの指輪はその名の通り、死んだとしてもその指輪が身代わりとなって一度だけ復活できるアイテムだ。


そして空騎士の剣というのは、【騎士】の加護を持っている者が装備するとその加護を【空騎士】へと進化させてくれる剣だ。【空騎士】になると【風魔法】への適性が手に入る。


ゲームでは近衛騎士団長の息子のレオナルドが装備して覚醒するアイテムなのだが、こいつの魔力が低いせいもありあまり【風魔法】は活躍しなかった記憶がある。


ちなみにこの迷宮の最下層のボスはブリザードフェニックスだ。普通に戦えば今の俺ではほとんど勝ち目のない強敵だ。


ブリザードフェニックスは遥か上空から強烈な吹雪を吹かせて視界と体力を奪い、こちらの射程外から一方的に氷の矢を雨あられのごとく打ち込んでくるという恐ろしい魔物だ。


だが、迷宮のボス部屋では広さに制限があるためそこまで一方的な展開にはならない。


ゲームではカールハインツ王太子殿下の強力な炎魔法で弱点をついて倒すというのが王道パターンだし、上手いこと接近すれば防御力が高くないので物理攻撃でも倒せる。


物理攻撃が通るなら俺の銃でもどうにかなるはずだ。そう考えた俺は風の山の迷宮へと挑むことにした。


****


「D ランク冒険者、アレンか。ソロというのはまた命知らずだが、その年齢ならそんなものか。まあいいだろう。入っていいぞ。ただ、死にたくなければ一層目だけにしておけよ」


俺はギルドカードを見せて風の山の迷宮に一番近い町ゼーベンのギルドで入場登録をする。風の山の迷宮はギルドによって管理されており、D ランク以上でないと入ることはできない。


勝手に入ることもできるが、管理下にある迷宮で手に入れたアイテムを入場登録していない者が迷宮外に持ち出せば窃盗犯として扱われることになる。


そして、この迷宮は通常 A ランクや B ランクの冒険者がパーティーを組んで挑む。そこに俺のような 13 才で D ランクの子供が来たのだから、冷やかしか命知らずの無謀な奴かと思われたことだろう。


だが、俺は攻略するつもりだし周回するつもりだ。というか、入学までは基本的にこの迷宮を周回し続けるつもりだ。


もちろん、これ以上目立つと予想外の事態を招きかねないので攻略したことを吹聴するつもりはないがな。


****


俺はそれから町を出て迷宮へとやってきた。


一層目は普通の迷宮と変わらない。洞窟の形式で出てくるのは吸血大蝙蝠だ。体長 1 メートル程の巨大な吸血蝙蝠で、噛みつかれると体の血を全て吸い取られるという恐ろしい蝙蝠だ。


俺は【隠密】スキルを駆使して進んでいくと、5 匹ほどの吸血大蝙蝠が天井からぶら下がっている。


ここは新兵器ショットガンの出番だ。カラシの知見を活かして作ったショットガンで、俺はこいつをサイガと命名した。由来はもちろん有名なロシア製ショットガン、イズマッシュ・サイガ 12 だ。


もちろん、中身はサイガとは全く異なる魔法銃なわけだが、見た目はかなりそれっぽく作れている。


サイガをきちんとショットガンとして機能させるまでにはかなりの苦労があったのだが、今回晴れて実戦投入と相成った。


ドォォン、ドォォン


引き金を引くと吸血大蝙蝠たちをあっさりと倒すことができた。いささかオーバーキルのような気もするが、やはりショットガンは素晴らしい。


吸血大蝙蝠の魔石を回収した俺は足早に次の階を目指す。二層目からは地下だというのに明るいうえに空まである。本当に不思議な場所だ。


そしてここからは鳥の魔物が多く出てくる風の山の迷宮らしいエリアが続く。


俺はサイガをその手に、迷宮の奥へと歩を進めるのだった。

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