第24話 町人Aはオークの大迷宮に挑む

俺は今、オークの大迷宮の最寄りの町であるアルトムントにやってきた。ただ、現時点ではオークの大迷宮は未発見の迷宮なので、オークの森と呼ばれるやたらとオークが沢山いる森に近い町として知られている。


もちろん、オークが沢山いるのは迷宮から溢れて出てきているからなわけだが、実は町としては困っていない。というのも、オークは食肉として利用されているからだ。


もちろんオークは魔物なので人間を襲うが、里山を作って上手く対処することで人間への被害を抑えているそうだ。


今回の作戦はもちろん、オークの大迷宮の周回だ。ついでにアルトムントのギルドでオーク討伐の常設依頼があるのでそれを受注しておく。


俺は早速オークの森へと向かう。この森の遥か向こうに見える富士山のような綺麗な形をした山の麓にオークの大迷宮があるのだが、今日はそこまでは行かない。


オークに対して手持ちの火器がどの程度有効なのかを調べる。ゲームでは、オークはホブゴブリンよりもダメージが通るが恐ろしくタフという印象だった。つまり HP が高くて防御力が低い、ということだ。


俺はいつものように【隠密】スキルを発動して森を進む。そして 1 時間ほど森を進むと、一匹のオークを発見した。


まずはニコフを撃ち込んでみる。


ダンダンダンダンッ


背中から四発の銃弾を浴びせると、オークはあっさりと倒れた。


あれから色々考えてニコフの弾はホローポイント弾という種類の弾に変えた。


ホローポイント弾というのは、弾が標的にぶつかると変形して炸裂するという物だ。弾が通るならこの方が殺傷能力が高いし、前世でもこのタイプの弾は主に狩猟用に使われている。


大口径のカラシでは硬い魔物には通らない可能性があるので、小口径のニコフの方の弾を変更してみたというわけだ。


俺は念のために頭にもう一発撃ちこんでトドメを刺すと、解体を始める。


オークは体長 2 メートル以上ある大型の魔物だ。あまりに大きいので全てを持ち運ぶことはできない。なので魔石と食肉の中でも希少な部位だけを剥ぎ取ると、残りはもったいないが燃やしておいた。


また 1 時間ほど歩くともう一頭のオークに出会った。今度はカラシだ。


ドンドンドンドンッ


同じように四発打ち込んでみる。少なくとも一発は当たったようだが、当たりどころが良かったのか動けるようだ。怒ってこちらに向かって来ている。


ドンドンドンドンドンドンドンドンッ


俺は向かってくるオークに銃弾をぶち込む。そのうちの一発が頭に当たったらしく、そのまま前に向かってつんのめる様に倒れた。


動かなくなったので近づいてみると、弾は見事にその頭を貫通していた。やはり、想定していた通りの結果になった。


そのうちまた変えるかもしれないが、今のところ普段の狩りはニコフ、そしてニコフの弾が通らない硬い敵に対してはカラシを使うのがバランスが良さそうだ。


俺は魔石を取り出し、そして今度は持てるだけの食用の部位と毛皮を回収して町へと戻ったのだった。


****


そして翌日、俺はオークの大迷宮の入口へとやってきた。


この迷宮は全部で百層からなる巨大迷宮で、その特徴は全てのフロアにフロアボスの部屋があることだ。


そして出現するのはオークとその進化先の魔物だけで、大した罠はないが碌なお宝もない。


俺の記憶によると、道中のお宝は良くても非凡アンコモン級で、最下層のボスを倒すと叙事詩エピック級のアイテムが手に入る。


その叙事詩エピック級のアイテムも確か単なるイベントアイテムで、攻略対象の好感度が上がる以外には何の価値もない装飾品だったはずだ。俺もイベントスチルを回収してからはスルーしていた記憶がある。


というわけで、今回は最下層を目指して最短経路で一気に進む。今回も【隠密】スキルとニコフが大活躍だ。倒したオークの肉は回収せずに魔石だけを回収して次へ進む。


そして第一層のボス部屋に辿りついた。ここのボスはオークが 5 匹。ニコフで余裕だった。


と、このようにゴブリン迷宮と違ってボスがその階層に出現する魔物よりもやたらと強いということはない。


俺は倒したオークの魔石を回収すると次の階層へと進む。


そして階層を進むごとに出現するオークは強くなっていった。オークの次にハイオーク、オークメイジ、オークプリースト、オークジェネラル、そして最下層のボスにはオークキングだ。


特に厄介なのはジェネラルとキングだ。ジェネラルは身体能力に優れているうえに魔法まで使う万能戦士だ。そしてキングはジェネラルを更に強くした上に高い知能を有し、部下を統率し組織立った行動を行わせるまさにオークの王だ。


俺は、そんなオークキングの待つ最下層のボス部屋へとやってきた。ここのボスは、オークキングが 1 匹。そしてジェネラルが 2 匹。あとはハイ、メイジ、プリーストがランダムに 10 匹出現する。


今回はハイが 4 匹、メイジが 2 匹、プリーストが 4 匹だ。


「グオォォォォォ」


ボス部屋の扉を開けた俺に気付いてキングが雄たけびを上げる。


俺は冷静にニコフをプリーストに向けて連射する。そして弾切れになると煙幕を焚いて姿を隠す。そして【隠密】で隠れて移動してからのニコフ連射といういつもの要領でメイジとプリーストを先に始末し、続いてハイも始末した。


残るは 3 匹だ。


ジェネラルの 1 匹が炎の矢を打ち込んできた。俺は慌ててそれを横っ飛びで避ける。すると、今度は避けた先にもう 1 匹のジェネラルが炎の矢を打ち込んでくる。


俺は【風魔法】スキルを使って風を吹かせてそれを吹き飛ばし、ニコフを連射する。


ダンダンダンダンッ


ジェネラルの 1 匹に左肩に一発命中した。ジェネラルが苦しそうなうめき声をあげる。するとキングがそのジェネラルに触れ、治癒魔法を施す。


そうしている間にもう 1 匹のジェネラルが炎の矢を俺に打ち込んでくる。


やはりキングがいるとこういう行動を取ってくるのが面倒だ。


俺は再び煙幕を使って再び【隠密】スキルを発動させて姿を隠す。


するとキングとジェネラルは背中を預け合うような陣形を取る。俺が背後に現れて打ち込んでくるのを理解しての行動だ。


だが今度の狙いはそこじゃない。ゴブリンロードの目潰しをしたカプサイシン入り水風船をキングの顔面に投げつける。


「グギャァァァァァ」


キングが目を抑えて蹲るとジェネラルに動揺が走る。


俺はその隙を見逃さずにニコフを弾切れになるまで 2 頭のジェネラルに向けて撃ち続けた。


ジェネラルはもう動かなくなっていた。


キングは憎悪の目で俺を見ている。目潰しも治癒したようでキングは無傷だ。


先ほどからキングにもニコフの弾は命中しているにも関わらず貫通力が足りないせいか表皮を貫けていない。


俺はカラシに持ちかえる。その瞬間、キングが俺に向かって突進を始めた。これまでの状況を判断して自分はダメージを受けないと判断したのだろう。


魔物のくせに大した知能だ。


だが、カラシの弾は貫通力に特化したフルメタルジャケット弾だ。


俺はカラシを構えてキングの頭に狙いをつけ、そして引き金を引いた。


ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン……


ドサッ


そしてキングはモノ言わぬ屍となった。


「よし、これで踏破だ」


俺は魔石を回収して迷宮核のある部屋へと進んだ。迷宮核の前には宝箱が置いてある。


その宝箱をゆっくりとあけると、そこには腕輪が入っていた。


────

名前:豊穣の腕輪

説明:子孫繁栄の祈りが込められた腕輪。この腕輪を装備した女性は子宝を授かりやすくなる

等級:叙事詩エピック

価格:10,000,000,000 セント

────


ああ、そうだ。思い出した。これがイベントアイテムだ。


オークでそれってそういう事か!


そんなツッコミを思い切り入れた前世の記憶が甦る。


ただ、いくらなんでも価値が高すぎる。これではそう簡単には換金できなそうだ。だが、最悪の場合の資金源として一応貰っていくことにしよう。


俺は豊穣の腕輪を手に取ると迷宮核に触り、外へと転移したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る