第27話 町人Aは高等学園へ入学する

俺はついに 15 才となった。今の状況はこんな感じだ。


────

名前:アレン

ランク:C

年齢: 15

加護:【風神】

スキル:【隠密】【鑑定】【錬金】【風魔法】【多重詠唱】【無詠唱】

居住地:ルールデン

所持金: 34,519,728

レベル: 37

体力:C

魔力:A

実績:ゴブリン迷宮踏破、ゴブリンスレイヤー、オークスレイヤー、最年少 C ランク

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最年少で C ランク冒険者となり、貯金も入学金やら授業料やらで 2,000 万を支払ってもなおたっぷりと残っている。これだけぼろ儲けできたのはあの台座のおかげでもある。もはや冒険者としては成功を収めたと言っていいだろう。


もともと C ランクになるつもりはなかったのだが、オークスレイヤーの実績をギルドに認定されたあたりからプレッシャーが強くなった。そして最年少記録を取っておけという師匠の説得に応じて護衛依頼や盗賊討伐依頼を受けたことで 14 才になった頃にランクアップしたのだ。


それにレベルも 37 だ。ゲームでいえば闇堕ちアナスタシアとの最終決戦で勝てるレベルだ。


今のところ戦闘での出番はないが、師匠にお願いしている剣の鍛錬も欠かしてはいない。そのおかげで入学試験の剣術も試験官には勝てなかったが何とか合格できた。魔法の試験は言うまでもなく合格したし、どちらかというと目立ちすぎないように手加減する方が大変だったほどだ。


ちなみに、俺は【隠密】のスキルを使って【風魔法】以外の全てのスキルと加護を隠蔽している。学園にここまで色々なものを持っている学生がいると何かと面倒ごとに巻き込まれそうだ。


悪役令嬢断罪イベントまでは目立たないことが第一だ。そこまでに運命シナリオに関わる内容で捻じ曲げたのは『鑑定のスクロール』、そして俺という異分子が学園に紛れ込むだけだ。


あとはなるべくゲームの通りに進行させ、断罪イベントを止めることで悪役令嬢アナスタシアの闇堕ちを止める。それが俺と母さん、師匠、モニカさんや先輩方、ひいては王都に住む人々を助けることに繋がるはずなのだ。


やってやる!


****


そして桜の舞う季節となり、俺はついに乙女ゲームの舞台である全寮制の王立高等学園に入学する事となった。


俺は真新しいブレザーの制服に身を包み、王立高等学園の門をくぐると入学式の会場となる講堂へと向かう。


講堂の入り口には入試の成績が上から順に貼り出され、クラス分けが書かれている。


1 位 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット(貴)

2 位 アレン(特)

3 位 エイミー・フォン・ブレイエス(貴)

4 位 マルクス・フォン・バインツ(貴)

5 位 クロード・ジャスティネ・ドゥ・ウェスタデール(貴)

6 位 オスカー・フォン・ウィムレット(貴)

7 位 マーガレット・フォン・アルトムント(貴)

11 位 カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン(貴)

21 位 レオナルド・フォン・ジュークス(貴)

──── 以下、B クラス ────

22 位 ヴァンダレン・フォン・ゼーベン(貴)

23 位 ハイデマリー・アスムス(般)

24 位 イザベラ・フォン・リュインベルグ(貴)

39 位 グレン・ワイトバーグ(般)



どうやら今年は総勢 39 名の学生を受け入れているようだ。名前の後ろについているカッコ内が受験種別をあらわしているっぽい。(貴)が貴族、(特)は特待生、(般)は一般だろう。ちなみに特待生といっても筆記試験が免除になっただけで、学費が免除になったりという支援があるわけではない。


そして何故か俺はAクラスになってしまった。俺はイベントに関わる気はないのでBクラスで良かったのだが……。


まあ、なってしまったものは仕方ないが、当然のごとく A クラスは俺以外全員貴族だ。B クラスにも平民枠の生徒は三人しかいない。


俺は目立たないように A クラス用の席の一番後ろの隅に着席する。


どうせ、俺からクラスメイトに話しかけることは許されないのだ。入学前のマナー講習で習ったところによると、平民の身分でお貴族様に自分から話しかけるのは不敬に当たるのだそうだ。


つまり、向こうから話しかけてくるまで話をするのは禁止、しかも一度話しかけられても向こうが許可していなければ自分で話しかけるのも禁止、ということらしい。


俺は最初から目立ちたくないのでこれでも構わないが、普通に期待して入学したらボッチ確定だったとか、精神病みそうだ。


そしてしばらく待っていると、ぞろぞろと学生たちが入ってくる。


アナスタシアが取り巻きを引き連れて入室してきた。やはりとんでもない美人だし俺みたいな一般人とはオーラが違う。気品があるし、近寄りがたいというか何というか、そんな感じだ。ものすごい美人なのに無表情なのも相まってまるで彫像のようだ。


アナスタシアは俺のことを一瞥したが、興味なさそうに前列へと腰かけた。


続いてカールハインツ王太子殿下達が入ってくる。残りの攻略対象者 4 人も勢揃いしている。全員凄まじいイケメンオーラをバシバシ放っている。


これがゲームをプレイしてた女子だったらキュンキュンするところなのだろうが、俺はこいつらを見るとげんなりする。


ゲームとはいえこいつらに口説かれたわけで、そっちの趣味がない俺としては結構精神的ダメージを受けたものだ。


こいつらも俺のことを一瞥するとアナスタシアの隣に腰かけた。


続いて特徴的なピンク色の髪のヒロイン、エイミーが入ってきた。確か彼女は男爵家の庶子で、つい数か月前までは平民として育てられていたはずだ。


こちらをちらりと見ると、なんと俺のほうへと近寄ってきた。そしてまるで砂糖のように甘ったるい声で俺に声をかけてきた。


「こんにちはぁ。あたし、エイミー・フォン・ブレイエスですぅ。特待生のアレンさんですよね? よろしくお願いしますぅ」


馬鹿な? この入学式でヒロインは王太子を見てドキドキしているというイベントだったはずなのに!


「はじめまして、エイミー様。俺はアレン、平民のアレンです。よろしくお願いします」


俺は平静を装って答える。


「アレンさん、11 才の時に全教科満点で飛び級卒業したんですよね? あたし、その時は平民で同じ学校に通っててぇ、それで話題になっていたのを覚えているんですぅ」


顔を少し赤らめ、そしてキラキラした目でエイミーは俺のことを上目遣いに見つめてくる。


か、かわいい。


さすがは乙女ゲーのヒロインだ。この可愛らしさに攻略対象達が落ちるのも無理はないのかもしれない。


しかし、こんな甘ったるくて馬鹿っぽい喋り方をするキャラだっけか?


ともあれ、こうして俺の学園生活は、早くも波乱の予感を感じつつもスタートしたのであった。

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