後日談
side. エイミー(終)
2021/03/17 ご指摘いただいた誤字を修正致しました。ありがとうございました
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どうしてよ! どうしてよ!
なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!
光の精霊が守った?
ふざけないでよ!
本当はあたしのものじゃない!
髪飾りも! 光の精霊の祝福も!
それに何よ! 聖なる氷って!
闇堕ちするはずのあんたがなんでそんなもん使ってんのよ!
おかしいじゃない!
あんたが使うのは闇の氷でしょ! ふざけないでよ!
しかもあたしを無理矢理鉱山の娼婦にするですって!?
何考えているのよ! だめに決まってるじゃない!
あたしは慈愛の聖女なのよ? 聖女様にこんなことをしてタダで済むとでも思ってるの?
大体何なのよ!
なんでボスキャラのはずのスカイドラゴンまで仲間にしてんのよ!
そんなルート、あるわけないじゃない!
それなのに!
それなのに……。
あたしはなんか知らないゴリラ男の前に連れて行かれたわ。
「前回捕らえた時は会わなかったが、これがうちのアナとアレンに散々悪事を働いてきた魔女か」
違うわよ! 慈愛の聖女よ!
そう反論したいのにあたしの口からは一切声が出ないの。
人から声を奪うなんて、悪役令嬢のほうがよっぽど魔女じゃない!
「まあいい。本来ならばすぐにでも処刑するところだがな。アナにお前をきちんと反省させてほしいと言われているから処刑は勘弁してやろう」
え? そうよね。やっぱりあたしは無罪よね? だって、何にも悪い事していないもん!
「色々と考えたが、お前は帝国の件でアナをならず者たちに自由にさせるように仕向けたそうだな」
な! なによ! そんな昔の事持ち出して! それに悪役令嬢はシナリオ通りならそうなるんだから当然でしょ!
「その顔はやはり悪いと思っていないな。やはりお前には鉱山で娼婦として働いてもらうことにしよう。まあ、何年生きられるかは知らんが、そこで自らの犯した罪を反省することだな」
な、なによ! あたし悪い事なんか何もしてないでしょ!?
ちょっと! ねぇ!
でもあたしの口からは言葉が出せなくて。
そのままペットを運ぶみたいな檻に入れられて、荷物のように馬車に積み込まれたわ。
御者の男に見張りの男が四人、全員いやらしい目であたしを見て、時々下卑た笑い浮かべているわ。
キモッ!
あんたたちみたいなブサイクに見られるとか気持ち悪いんですけど!
でもやっぱり声は出なくて……
そしてそのまま馬車はあたしを乗せたまま動き出してしまったわ。
ああ、あたし、どうなっちゃうの?
****
「ようし、今日はここで野宿だ」
「へい!」
なによ! 野宿なんて何考えてるのよ! あたしは慈愛の聖女様なのよ!
「ほら。今日の飯だ」
そうやってあたしの前に差し出されたのはクズ野菜のスープと一体何日前に焼いたのか分からない硬いパン。
何よ! こんなの、あたしが貧乏暮らししていた時の食事より酷いじゃない!
でも、文句を言おうとしても声が出ないの。
あのクソ女! 悪役令嬢のくせに!
「何だ。食わないのか?」
あたしは睨みつけてやったわ。こんなの人間の食事じゃ無いもの。もっとまともな食事を持ってきなさいよ!
でも、なんか変なことを言い出したわ。
「お前はルールデンの貧しい下町育ちだって聞いてたのに、これが食えねえのか? やっぱり贅沢三昧してた自称、慈愛の聖女さまは元の暮らしには戻れねぇんだな」
え? 元の暮らし? どういうこと?
あたしは最底辺の暮らしをしてたけど、それでもここまで酷くはなかったわよ?
「ん? 違うのか? ま、いいさ。お前がどう思ってるのかは知らねぇが、こいつが本当の底辺の食事だ。これからの食事はずっとこんなもんだからさっさと食え。食わねぇなら無理矢理食わすぞ!」
わ、分かったわよ。食べればいいでしょ!
そうして口に運ぶんだけど……
まずい。
全然味がしないわ。それにパンなんて噛めないじゃない!
こんなのパンじゃないわよ!
「スープにつけて柔らかくして食うんだ。全く。何が貧乏暮らしの経験があるだ。この魔女が」
何よ! あたしは魔女じゃないわよ! 慈愛の聖女様!
この世界のヒロインなんだから!
そうよ。きっとカール様が、それにオスカーとクロードが助けに来てくれるわよ!
そう。
きっとそう。
そうじゃないと、嘘なんだから!
****
「さて、食い終わったな。じゃあ、今日はうちのやつ 10 人の相手をしてもらうからな。みんな溜まってるからよろしく頼むぜ? 聖女サマ?」
そう言ってあの男は下卑た笑い声を立てながら食器を持って行ったわ。
え? どういうこと? 10 人? 相手?
そう思っていたら、なんかいかにもガラの悪そうな男たちが入ってきたわ。
「おうおう、今度のは中々の上玉じゃねぇか」
「がはは。どうせすぐぐちゃぐちゃになって分からなくなるよ」
「ちげぇねぇや」
「お前は最後な。お前がやった後だと緩すぎんだよ」
「何言ってんだ。おめぇのが小せぇだけじゃねぇか」
「んだと? お前のがでかすぎんだよ」
え? 何? どういうこと?
「じゃ、まずは俺から頼むぜ? 貴族の娘なんて滅多に使えねぇからな」
いや! ダメよ! あたしはヒロインなんだから!
そう思った瞬間、目の前に星が飛んだの。
それから遅れて、左の頬に焼ける様な痛みが走って……
え? あたし、叩かれたの?
「オラっ! さっさとしろよ! 濡れてねぇまま突っ込んでやろうか!?」
ひっ。そ、そんな……
いや、やめて! やめて!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!
****
それから、たっぷり 20 日かけてあたしの送られる予定の鉱山に着いたわ。
本当は 10 日で着くはずだったのに、なんか回り道したみたい。
その間あいつらに好き勝手にされて……。
もう、抵抗する気力もないわ。
最悪の事態になってなきゃいいけれど。
ああ。そういえば声が出せないと治癒魔法も使えないのよね。
はじめて気づいたわ。だって、詠唱できないんだもの。
あたしはヒロインなのに。
どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのかしら。
絶対、おかしいわ。
こうなるのは悪役令嬢だったはずなのに。
はぁ、今日からここで男たちに……。
もう、いいわよ。どうせ一緒だもの。
そのうち、誰かが助けてくれるわ。そうよ、きっと……カール様が……。
****
もう、どれくらいたったのかしら。
なんだか、あんまり最近は体調が良くないのよね。
肌もボロボロ。髪もぐちゃぐちゃ。
それに最近は熱が出たり、気持ち悪くなったり。それになんか体中に湿疹やこぶみたいなのもできてきたし。
そのせいで気持ち悪いっていわれて呼ばれることも無くなったわ。
はあ。分かってるわよ。
あたし、もうダメなのよね。
どこで選択肢を間違えたかしら?
ううん、違うわね。
最初から……。
間違ってたのよね……。
ああ、カール様……。
ごめん……なさい……。
****
あれ? ここは?
王城の……ダンスホール?
「アナスタシア、今この時をもってお前との婚約を破棄する!」
「殿下、仰る意味が分かりません」
「ふん。相変わらず理解の悪い女だ。お前のような性根の腐った女ではなくこの心優しく癒しの力を持ったエイミーこそが俺の婚約者に相応しい」
え? カール様? 悪役令嬢?
それに、あたしを抱きしめてくれて?
え? え?
あたし、どうして?
「礼儀作法も貴族の何たるかも、国とは何かをも知らぬその女が良いと仰るのですか? 殿下はその女に国母が務まると本気でお考えなのですか?」
悪役令嬢は表情を崩さないで冷たい視線をあたしに向けてきたわ。
あたしはその視線にあの時の事を思い出して怖くなってしまったの。
でも、そんなあたしをカール様は優しく抱きしめてくれて……。
それからそれから……。
カール様が悪役令嬢をやっつけてくれて……。
あれ? 目の前が何だか暗くなって……?
カール様はどこ?
カール様?
カール様!?
あ、そっか……。
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