第41話 町人Aは決闘に臨む
俺は学園の馬車に乗って寮へと戻ると、この日のために用意しておいた特製の自動拳銃を懐に忍ばせる。そして冒険者としての装備一式を着込むとカムフラージュ用の短剣を手に再び王城へと向かい、その訓練場へと足を踏み入れた。
既にパーティーに参加していた生徒や来賓を中心に多くの観客は集まっており、上空には月が煌々と輝いていた。
「アレン!」
「アレン君」
「アレンさん」
アナスタシアとマーガレット、それにイザベラが心配そうに俺に声をかけてきた。
ゲームではこの時点でアナスタシアは一人になっていたが、マーガレットとイザベラはついて来てくれている。
「よかった」
俺はアナスタシアが孤立していないことを知って思わずそう呟いてしまった。
「何が良かっただ、この馬鹿者が」
「あ、いえ。アナスタシア様はお友達に大事にされているなって思ったらつい」
「なっ」
今日三度目の驚いた顔が見られた。しかも今度は顔が赤くなっている。そんなアナスタシアをマーガレットとイザベラがニコニコしながら見つめている。
「では、アナスタシア様。あなたのために勝って参ります」
「あ、ああ。それと、アレン。あの立会人の男は我がラムズレット家に敵対する派閥の男だ。注意しろ」
やはりそうか。
だがその手口はゲームで知っているし、何の問題もない。
「はい。ありがとうございます。ですが、何の問題もありませんよ。俺は容赦する気はありませんから」
そう言って俺は訓練場の中央へと歩を進める。
そこには王太子たち 5 人の攻略対象者とエイミー、それに立会人の男が既に勢揃いしていた。
王太子たちはやはり俺をかなりナメているようで、鎧も着ていなければ手に持つ武器もおそらく借り物だ。たぶん、騎士団あたりから予備を借りてきたのではないだろうか?
「逃げずに来たことは褒めてやろう。だが、勝ち目はないぞ? 今ならまだ不問にしてやれるが――」
王太子が御託を並べ始めたが、ここからはもう粗暴な冒険者モードだ。
敗北の可能性をゼロにするためにも、相手には冷静さを失ってもらう必要がある。
そのためにさっきのやり取りであれだけ煽って冷静さを失わせたのだ。
「あー、もう。うっせぇな! 弱い犬ほど良く吠えるとは良く言ったもんだ。いいからさっさとかかって来いよ。全員まとめてボコボコにしてやるから。それとも自信が無いからそうやって辞退させようとしてるんですか? で・ん・か?」
「貴様! 後悔しても遅いぞ?」
俺の安い挑発に簡単に乗った王太子が簡単に怒り狂う。他の攻略対象者達も今すぐにでも俺に襲い掛かって来そうな状態だ。
俺はそんな彼らの後ろで両手を前で組み、そして祈るようなポーズで見つめるエイミーを見て視線を合わせると、ニヤリと笑ってやった。
その表情に気付いたのか、エイミーの顔がさっと赤くなり、そして怒りの表情が浮かぶ。
さあ、宣戦布告は済んだ。やってやろうじゃないか。
俺は今日、この場で
****
俺は王太子たちから距離を取ると短剣を構える。
「それでは、アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレットとエイミー・フォン・ブレイエスの決闘を行う」
審判の男が大きな声で決闘を宣言する。
「アナスタシア嬢の代理人はアレン、エイミー嬢の代理人はカールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン、クロード・ジャスティネ・ドゥ・ウェスタデール、オスカー・フォン・ウィムレット、マルクス・フォン・バインツ、レオナルド・フォン・ジュークスの計 5 名、アナスタシア嬢側の要請により 1 対 5 の変則方式とし、殺害以外の行為はすべて認めるものとする! 始め!」
立会人の男の合図とともに俺は煙幕を作り出す。そして【隠密】を使って隠れると固まっている五人のすぐ近くに移動し、至近距離からこの日のために開発した特製の弾をプレゼントしてやる。
ちなみにこの自動拳銃にはサプレッサーがつけられており、さらに風魔法での射出なため火薬を使った銃とは音も大分異なる。
だから、元日本人であるエイミーでは、銃撃されたなどとは夢にも思わないだろう。
そして特製のゴム弾が装填してあるのでよほど当たりどころが悪くない限り死ぬことはない。
まあ、骨ぐらいは折れるかもしれないがな。
煙幕が晴れると、ゴム弾で蜂の巣にされたレオナルドとクロードが泡を吹いて倒れている。
接近戦を得意としているレオナルドとクロードには特に念入りに撃ち込んでやったからな。
当然の結果だろう。
「ぐ、ううう、な、何だ今のは……」
そしてマルクスとオスカー、そして王太子も苦しそうにしているが、残念ながら倒し切るまでは至っていない。
俺は懐でこっそりとトウガラシ成分の溶け込んだ水風船を錬成し、そしてオスカーの顔面に投げつけた。
見事に顔面にクリーンヒットした水風船はオスカーの顔面でパシャと小気味のいい音と共に割れ、トウガラシ成分入りの目潰し液が容赦なくオスカーの顔面を襲う。
「ぎゃぁぁぁぁぁ、目、目がぁ!」
そう言って倒れ込むオスカーに近づいてその首筋に短剣を当てる。
「ほら! 立会人!」
「あ、ええと」
「これで認めないならこのまま首を刺すぞ! アンタは責任取れるのか?」
「わ、わかった。レオナルド、クロード、オスカー、戦闘不能」
俺はそれを聞き届けると組みつかれないように急いで距離を取る。
一分も経たずに 3 人がノックアウトされた王太子とマルクスは何が起こったのか理解できていない様子だ。その背後にいるエイミーにも焦りの色が浮かんでいる。
ちなみに、この二人を最後に残したのには理由がある。王太子は次期国王だし、マルクスは次期宮廷魔術師長で、ゲームでは将来宰相になったとあった。こいつらには改心してまともになってもらわないと困るのだ。そうでなければいずれ同じような馬鹿をやらかして国が滅びる。
それに対してクロードは隣国の王子だからどうでもいいし、レオナルドはこの状況で俺に負ければ騎士団長の後継者としての立場が怪しくなるはずだから後回しだ。
オスカーは、まあ、侯爵家とはいえこの二人に比べれば優先度は落ちるんじゃないかな?
三人の敵を残すよりは二人のほうが良いし、俺の説教を意識がある状態で聞いていればそれでよしとしよう。
俺は再び煙幕を出すと【隠密】で隠れ、一発ずつ王太子とマルクスにゴム弾を撃ち込む。
「がっ」
「ぐっ」
膝をついた二人に俺は見下すような口調で語りかける。
「さて、王太子殿下、マルクス様。格下だと思っていた奴に膝をつく気分はいかがですか?」
「き、貴様……」
「この……こんなことをしてただで済むと思っているのですか? 我々に歯向かえばあなたの家族だって」
「あれ? マルクス様? 決闘で負けそうになったら今度は身分を使って脅すんですか? 先ほどはやはり負けるのが怖くて俺を辞退させようとしていたんですか?」
「なっ」
「でも今の俺はラムズレット公爵家令嬢アナスタシア様の代理人ですからね。マルクス様の今の言葉はラムズレット公爵家に向けた言葉でもあるんですけど、ラムズレット公爵を暗殺でもするつもりですか?」
「う、ぐっ」
マルクスは悔しそうに唇を噛む。
「大体、本心ではどっちに理があるかなんて分かってるんじゃないですか?」
「わ、私は……エイミーを……」
反論できない辺り、やはりそういう事なんだろう。
しかも、分かっててやっていたなら尚の事たちが悪い。
「守りたいからって一方的に証拠もなしに決めつけるんですか? 少なくとも俺の知る限りアナスタシア様はエイミー様をいじめるどころか、それを止めている立場でしたよ? しかも、アナスタシア様を挑発して手を上げさせようとしていたのはエイミー様の方ですよね?」
「な……エ、エイミーは……そんな、はず……」
感情を優先して理を犠牲にする、そんな奴が将来の宰相とはな。
「はあ、信じられませんか。そうやって色眼鏡で判断して、将来冤罪と汚職の蔓延する国を目指すつもりですかね?」
「な、わ、私は……そんな……」
言い返せなくなったマルクスが口ごもる。
「まあいいですけど。アンタらはラムズレット公爵家に、そしてアナスタシア様に謝罪する。これが結末だよ。お前みたいな短慮な奴が将来の国の重鎮じゃ、俺たちは死ぬしかねぇーんだよ! 反省しろ!」
俺は思い切りマルクスの顔面を蹴りあげる。
「がっ」
そして地面に転がったマルクスの髪を掴んで顔を上げさせると首元に剣を突きつけた。
「立会人!」
「ま、マルクス、戦闘不能」
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