side. セントラーレン国王
エスト帝国が宣戦布告をしてきてからというもの、ずっと良くない報告ばかりを聞かされており気分が良くない。
今日も芳しくない表情の男が報告にやってきた。
「陛下、伝令より戦況の報告が入ってまいりました」
「うむ。述べよ」
「はは。我らが領土であるブルゼーニを侵略してきたエスト帝国に対し、我が方の砦は次々と陥落しました。我らの支配地域で残っているのはブルゼーニ地方の僅か 5 % となりました」
「ええい! 何をやっておるのだ! 何故備えを怠った!」
その報告を聞いたワシの怒りは一気に最高潮に達し、思い切り机を叩いた。ドンという音とともに拳にじんわりと痛みが走る。
「そ、それは、ええと、申請自体は半年前から上がっていたのですが、手続き上の問題で滞っておりまして」
「誰だ! もたもたしておったのは!」
どうしてそんな大事な申請を止めていたのだ。これを処罰せねば国はおかしくなるだろう。
「そ、それが申請はことごとく却下されておりまして……」
「だからそんな事をしておったのは誰だ!」
「そ、それは私の口からはとても……」
この愚かな男は一体何を言っているのだ? それが分からねば処罰できぬではないか。
「ええい、いいから言え!」
「そ、それは……」
「言え! 言わねば首を刎ねてやる!」
「ひっ。へ、陛下でございます」
「何だと! ワシがそんな愚物だと言いたいのか!」
事もあろうに、このワシに責任を押し付けるなど言語道断!
「ええい、衛兵。この不敬な男を連れて行け!」
「ははっ」
ワシが命じるとこの愚かな男は連れて行かれた。そのうち処刑されることだろう。
そうだ。愚かな男と言えば、身の程をわきまえない勘違いした学生がおったな。
まあ、多少腕に覚えがあったところでブルゼーニに行けば屍になるはずだ。
だからあの勘違いした学生のことはどうでも良いが、そんなことも分からない馬鹿が高等学園の生徒というのは問題が大きいな。
よし、この戦争が終わったら一つワシが指導してやってそんな馬鹿が入学できぬようにしてやろう。
うむ、それがいい。
****
「伝令です。南のザウス王国が攻めて参りました。ラムズレット公爵より救援要請が届いておりますが」
「あやつは今領地に戻っておるのだ。自分達で何とかしろと言っておけ」
「で、ですが敵の数が 10 万と言っておりますし、今まで救援要請など……」
10 万など、ザウス王国が遠征に動員できるほぼ全軍ではないか。そんな事はあり得るはずがない。
これは自軍の被害を少しでも減らしたいがための方便だろう。
そういえばあの男、娘がどうのと面倒なことを言っておったな。
まったく、たかが婚約破棄くらいで目くじらを立ておってからに。
まあ、行方不明となると駒が減って困るというのは理解できる。だが、それとて自分の娘をまともに教育できていないからこうなるのだ。
そもそも、エスト帝国兵の関係する馬車に自分から乗るなど意味が分からん。
どうせ、公爵令嬢の立場に胡坐をかいて男漁りでもしていた結果だろうよ。だから【英雄】の加護を持つ息子に捨てられたのだ。
それをあまつさえ【英雄】の加護を持つ息子が謀ったなどと責任転嫁をするとは言語道断だ。
他にも玉璽がどうのと大騒ぎしおって。次の国王である息子に少し使わせてやっただけだというのに。
ワシが問題ないと言えば問題ないのだ。そんなことも分からぬとはな。
どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
とはいえ現状ではラムズレット公爵家がいなければ困ることも事実だ。あそこは軍も精強で、しかも我が国最大の穀倉地帯だ。
やはり、ここはラムズレット公爵家の力を削ぐことが良いだろう。
「ラムズレット公に伝えよ。援軍は出さぬ。何としてでも我が国の領土を死守せよ、と」
「ははっ」
****
「伝令でございます。ブルゼーニ地方でございますが、戦況が好転しました」
「それは真か!?」
「報告によりますと、陛下の命を受けたラムズレット公爵家の冒険者アレンを名乗る若者の活躍によって破竹の連勝中だそうです。この若者は学生でもあるそうで、陛下のご英断を称賛する声が巻き起こっております」
うむ? そんなことがあったか?
まあ、そうだったかもしれぬな。
良き為政者というものは常に良き決断を下し続けるのだ。この程度のことは日常茶飯事であろう。
「ワシが選んだのだ。故にラムズレット公爵家の冒険者ではなくワシの、王家の冒険者だ。よいな?」
「ははっ!」
ははは。誰だか知らぬが、使えるだけ使い倒させてもらうぞ! 冒険者!
****
「伝令でございます。ブルゼーニ地方の要塞都市カルダチアを奪還いたしました。これにも陛下の派遣なさった冒険者が主導的な役割を果たしたそうです。流石、陛下でございます。一同、そのご慧眼に感服しております」
うむ。そうであろうそうであろう。なんとも今日は気分が良い。
「よし、そなたには褒美をつかわそう」
「ははっ。ありがたき幸せにございます」
良き部下に褒美をやり、やる気を引き出す。これも王の役目だ。
ワシはよく自分の有能ぶりが恐ろしくなる時があるが、今もそうだな。
****
「伝令でございます。ラムズレット公爵より、攻め寄せたザウス王国軍 10 万を退けたとのことです」
「やはりな」
「は?」
公爵軍は 1 万、後先考えずに動員したとしても 2 万くらいのはずだ。それで 10 万の軍で押し返せるはずがない。
ということは、やはり最初の 10 万という数字が嘘だったのだろう。
やはり調子に乗っているラムズレット公にはそろそろ退場して貰った方が良いな。
「いや、こちらの話だ。ラムズレット公には大儀であったと伝えよ」
「ははっ。それと陛下が見出されてブルゼーニ地方の平定に大いに活躍した冒険者の件でございますが……」
「む? それがどうしたのだ?」
「ラムズレット公爵が、褒賞についての交渉を要求してきております」
「なんだと? ワシの冒険者を横取りするとはいい度胸だ。よかろう。ラムズレット公に自ら来るように伝えよ」
「ははっ」
エストは誰だか知らんが冒険者の活躍によって打ち破られたのでこちらの軍はほぼ無傷だ。
だが、ラムズレット公はザウスを押し返したとしても無傷では済んではおるまい。
ということは、やはりそろそろ切り時だな。あのような奸臣はもはや必要ないだろう。
だが、問題は奴を切った後の南部の統治だな。
こうしてワシは今後の計画を考え始めたのだった。
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