第77話 町人Aは王都へと向かう
ミリィちゃんに良からぬ事を考えているとぐったりするというのが知れ渡ってからは、使用人たちでその被害に遭う者はいなくなった。
ただ、公爵様とフリードリヒさんはどうしても色々と考えてしまうようで何度か変態のオート防御に引っかかったらしい。
ただ、良からぬことを考えたといっても別に誘拐したりとかそういった話ではなく、貿易やら技術交流、それにエルフとの繋がり利用した公爵家の地位の向上といった話で、どうやら本能的にそういった事を考えてしまうらしい。
ちなみに最初の時はお菓子で釣って公爵邸にまた来たいと言わせようとしていたらしい。
まあ、正直そのぐらいは許してやれよとは思ったが、幼児に対してと考えるとあの変態としては許せないんだろう。
ただ、自分はどうなんだ、とツッコミたい気持ちで一杯にはなるがな。
そうそう。メイドさんに謝られて知ったのだが、俺はメイドさん達に幼児誘拐疑惑と隠し子疑惑を持たれていたらしい。
いやいや、そんな事しないし!
まあ、アナの部屋への入室を許された平民の男がいきなりフードを被った幼児だけを連れて戻ってきたのだから、絵面から勘違いされても仕方ない気もしないでもないが……。
さて。その後 2 日間に
ちなみに、ミリィちゃんは「また来たい」とは言わずに「アナを連れて遊びに来て」と言っていたので公爵様たちの作戦は失敗したようだ。
ああ、そうそう。それとあの変態は対価を何一つ要求してこなかった。
エルフの里まで送った時の別れ際に「結婚して子供ができたら連れてくるんだお」とだけ俺に言い残したのだった。
なんと言うか、変態だが無私の大賢者と呼ばれるだけのことはあるな、とも思った。
もちろん変態であることには変わりはないのだが、もしかしたら単なる子供好きなだけの変態ではないか、とも思った瞬間でもあったのだった。
いや、まあ、どう転んでも変態は変態なのだが。
それと肝心のアナなのだが、手を握ったり、キスをしてみたり、抱きしめてみたりと色々と試してみたがダメだった。
アナを目覚めさせる鍵は未だに分からない。
****
さて、ミリィちゃんをエルフの里に返してから少し時間が経ったので、ここでそろそろ状況を整理してみようと思う。
まず、大軍を率いて攻め込んできたザウス王国は兵力の大半を失って撤退し、ラムズレット公爵領には平和が戻った。
ラムズレット公爵領としては備蓄していた小麦を奪われ、侵略された都市が略奪されたのはかなりの大打撃だった。
だが、しっかりとザウス王国に対して損害賠償請求を行い、ほぼ満額の回答を引き出せたおかげで収支はかなりのプラスになったようだ。
これは終戦交渉に当たったフリードリヒさんの力もあるだろうが、ザウス王国としては看過できないレベルの大敗北だったという事が大きな理由のようだ。
公爵様の話によると攻めてきた軍は 10 万以上で、それはザウス王国が遠征に動員できるほぼ全軍らしい。
それをわずか 1 万のラムズレット公爵軍に散々に打ち破られ、無事に帰国できたのは 2 ~ 3 万くらいと推定されているのだ。
この隙をつかれて逆に攻め込まれれば領土を大きく切り取られるのはザウス王国だ。
ちなみに公爵家としては援軍の要請を行っていたのだが、王家は援軍を一切送って来なかったらしい。
そのため終戦交渉は全てラムズレット公爵家が行った。
この国は封建制度っぽい感じなのでこれで問題が無いらしいが、自国の領土を守るのに援軍を寄越さないというのも不思議な話だ。
やはり、一切の協力を断って王太子の廃嫡を求めたことが原因なのだろうか?
一方のエスト帝国との東の戦線だが、結局俺が抜けた後は膠着状態に陥ったそうだ。
奪い取ったブルゼーニを死守したいセントラーレン王国と、それを奪還したいエスト帝国がじっくりと睨み合っている状態らしい。
ただ、要塞都市カルダチアを攻略してブルゼーニ地方は全て奪い取ったのだから国王の言っていた勝利条件は満たしている。
そう、俺としてはこれで問題ないはずなのだ。
正直、さっさとエスト帝国と和平を結んでおくか、もしくは増派してもう少し押し込んでおくかした方が良いと思うけどな。
まあ、ゲームとは違って戦争はこちらが圧倒的に有利なのだから、王都壊滅の可能性は大分減っていることだろう。
あの国王がよほど馬鹿な決断を下さなければ、ではあるが……。
****
俺は今、公爵様の馬車に同乗して王都へと向かっている。
王都に向かっている理由は公爵様が名指しであの国王に呼び出されたからだ。
俺の褒賞についての交渉に応じるという話だが、公爵様の見立てでは暗殺、もしくは軟禁を狙っている可能性が高いとのことだ。
それに公爵様の密偵によると、国王は俺の事を自分が見出した王家の冒険者と言っているのだそうだ。
はっきり言って意味が分からん。
ただ、そこに諸々の状況を加味して考えると国王はラムズレット公爵家の排除を考えているという結論に至ったのだ。
俺もその考えには全面的に同意する。
そこで、俺たちは様々な可能性について議論を重ね、幾つかのプランを考えた。戦うプランもあれば、頭を下げるプランもあるが、このまま行くと戦うプランになってしまうだろう。
だがもし戦うプランとなれば国は割れ、民に多くの犠牲を強いることになってしまう。
そこで、公爵様は最後の交渉として罠と知りながらあえて王都へと向かうことにしたのだ。
その議論の過程で、俺は自分の加護とスキルの事を教えた。俺はもう公爵様とは義理の家族になるのだから、これ以上は隠し事をする必要もないだろう。
ただ、驚いたことに公爵様は【風魔法】のスキル以外にも俺がスキルか加護を持っている事を見抜いていた。
公爵様の予想では暗殺者関係の加護、もしくは姿を隠蔽するタイプのスキルと何かの暗器の使用に特化したスキル、そして【無詠唱】のスキルを持っていて更に何か持っていそうだという予測を立てていたそうだ。
大部分が正解だ。
ただ、さすがに【風神】の加護は予想外だったらしくやたらと驚かれたがな。
と、まあそんなわけで俺の加護とスキルを知った公爵様は、俺を影の護衛として王都へと連れていくことにしたのだ。
ここで対応を間違えれば国は割れるし、こんなところで公爵様を失うわけにはいかない。
だからこそ、そうならないためにも全力を尽くし、平和に暮らしているだけの民の被害を最小限に抑えられる道を取りたい。
その想いは俺も公爵様も同じだし、それにきっとアナだって同じなはずだ。
こうして俺たちは、一縷の望みをかけて王都へと乗り込んだのだった。
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