第71話 町人Aはザウス王国軍を蹂躙する
夜通し飛び続け、そして夜が白む頃にはラムズレット公爵領に入った。
既に眼下にはまだ小麦の植えられていない秋の畑が広がっている。
地図の縮尺が正しければ、公爵様がいるはずの領都ヴィーヒェンまではあと 1 時間くらいで着くだろう。
山を越え、森を越え、そしてまた山を越え森を越え、そうして人の手の入っていない未開の地を飛び越えて進めたのはブイトール改のおかげだ。
既に飛竜の谷を通り過ぎたというのにジェローム君もメリッサちゃんも一緒に付き添ってくれている。
俺は、本当にいい友達を持った。こいつらには感謝してもしきれない。
そして肝心のアナだが、ブイトール改に乗せて飛び立ってからは安らかな表情で眠っている。
俺の大好きなその美しい寝顔はあの時のまま変わっていない。
「助けに行くのが遅くて……ごめん……」
俺はそっとアナの髪を撫で、額にキスを落としたのだった。
****
視線の先にひと際大きな町が見えてきた。地図と照らし合わせて見ても、やはりあれが領都で間違いないだろう。
あっという間に領都上空へと到達した俺たちだが、その南の方に人がたくさん集まっているのを見つけてしまった。
双眼鏡で確認してみると領都に近い側にはラムズレット公爵家の旗が掲げられ、その反対側にはザウス王国の旗が掲げられている。
エスト帝国の奴らが話していた通り、ザウス王国の奴らはラムズレット公爵領に攻め込んできているようだ。
領都に迫られているという事は、かなり旗色が悪いのだろう。
それにザウス王国の奴らはかなり人数が多い。
いや、待て、あれはちょっと多すぎじゃないか?
こっちは精々一万人とか、そんなものだろう。だが、向こうはその十倍はいる気がする。
よく抜かれずに何とかなっているものだ。
「ちょっと、あれどうなってるの? 人間ってどうしてこうやって争ってばかりいるのかしら?」
「馬鹿だからだよ。でも、守ってる側はアナのお父さんなんだ。だから蹴散らしてくる」
俺の言葉を聞いたメリッサちゃんはやれやれといった表情を浮かべた。
「え、え? な、なら僕たちも……」
「やめときなさい。それにアレンさん一人で大丈夫よ」
ありがたい。さすがはメリッサちゃんだ。
「アナ、ごめんな。もう少し我慢してくれよ」
俺はメリッサちゃんに頷き、そしてそう言って眠り続けるアナの頬をそっと撫でる。
俺の気のせいかもしれないが、アナは少しだけ優しく笑ったような、そんな気がしたのだった。
****
俺は風魔法エンジンを噴かせ、スピードを上げてザウス王国軍の上空へと移動すると爆弾を次々と投下していく。
敵陣を横切る様にして爆撃すれば仲間を誤爆する恐れもない。ブルゼーニの時と同様にやりたい放題だ。
そして落下した爆弾が破裂し、ブルゼーニでのエスト帝国兵と同じ様にザウス兵達が次々と爆発に巻き込まれて戦闘能力を失っていく。
しかしブルゼーニの時とは違い、俺の心が乱れることは一切なかった。
「ま、そりゃそうか。あんだけ色々やればな」
俺は自嘲気味にそう呟くと、ザウス兵たちを殲滅するべく爆撃を続行する。
すると、少し先にザウス王国の旗と更に別の知らない旗を二つ掲げた陣地を発見した。
おそらくここが敵軍の指揮官がいる陣地なのだろう。
当然、その陣地にも大量の爆弾をお見舞いしてやる。
移動する間も爆撃は常に継続しているので、俺の航跡を写したかのように地上にもそっくりそのまま道ができている。
さすがのザウス王国軍もどうやら上に何かがいて、それが何かを落としているという事には気付いていたようだ。
兵士たちが俺に向かって必死に矢を射掛けてくるが、当然届くわけがない。
そうして俺は戦場を縦横無尽に駆け巡り、30 分ほど散々に爆撃を加えてやった。
すると、ラムズレット公爵軍と剣を交えている部隊が徐々に綻びを見せ始めてきた。
これは上空から観察していた俺の感想ではあるが、どうやら兵士一人一人の戦闘能力はラムズレット公爵軍の方が上回っているように見える。
それに対してザウス王国軍はその個人の戦力差を圧倒的な数という利で押しつぶす戦法を取っている。
とはいえラムズレット公爵軍も包囲殲滅を許すような戦いはせずに上手く受け止めたのだろう。
そこで、ザウス王国軍は数を頼みに正面からぶつかってゴリ押す作戦に出たようだ。
最前線の部隊が壊滅する前に下がらせ、後方から別の部隊を押し出す。こうすることでいくら倒しても敵が出てくるという状況に持ち込んでラムズレット公爵軍の士気を徐々に下げ、その人数を減らしていっていたように見える。
そんな状況下で、俺は後詰の軍や指揮官の陣地などを徹底的に爆撃して破壊したのだ。
数の利、そして指揮官による統制を失ったザウス王国軍はその後 10 分と経たぬうちに瓦解し、あっという間に潰走を始めたのだった。
その様子を見届けた俺は軍の中心で馬に乗る公爵様の姿を見つけた。
俺は公爵様と話をするべくゆっくりと降下を始める。
「援護してあげるわよ」
「ありがとう、メリッサちゃん」
そう言うとメリッサちゃんとジェローム君がブイトール改の周りを守るかのように寄り添い、一緒に高度を下げていく。
もちろん、ラムズレット公爵軍だって上に何かいることには気付いていたのだろう。
しかし、ここにドラゴン、しかも空の王者たるスカイドラゴンが二匹もいるとなると話は別だ。
公爵様の周りの騎士は公爵様を守る様に周りを固め、弓矢を、そして盾を構えて俺たちを迎撃しようとしている。
しかし公爵様が止めているのか、それとも下手に手を出すと死ぬことが分かっているからなのか、攻撃まではしてこない。
「ふふっ。なかなか賢明じゃない。流石はアレンさんの
メリッサちゃんが満足そうにそう言って、先に地面に降り立った。そしてジェローム君がその横に降り立ち、そして最後に俺のブイトール改が二匹の間に着陸したのだった。
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