第53話 町人Aはエルフの里に到着する

山並みに日が沈むころ、俺たちを乗せたブイトールはエルフの里に作ってもらった空港に着陸した。


「おお、アレンさん! よく来てくれ……た……え? 人間?」

「シェリルラルラ様?」


空港に到着した俺たちを出迎えてくれたエルフたちは、ロープでぐるぐる巻きになったシェリルラルラさん、そして俺と一緒にいるアナの存在を見て困惑した様子だ。


「あはは。色々とあってこうなっちゃった」


俺はシェリルラルラのロープをほどきながらそう言って誤魔化してみる。


「はい、シェリルラルラさん。もう地面ですよ」

「ううー、もう宙吊りはいやー」


ううん、さすがに宙吊りは可哀想だったよなぁ。だからといってアナを宙吊りにするわけにもいかなかったし……。


そんな俺を尻目にシェリルラルラさんはそう言いながらも何とか立ち上がると、里の方へと一人で歩いていった。


「さ、アナ様」


俺はアナに手を貸して立ち上がらせる。


「あ、アレンさん? その人間は?」

「彼女はアナスタシア様、俺の――」

「あー、そうかそうか。アレンさんももうそんな年頃なのか。やっぱり人間はすぐに成長しちゃうなぁ。でも、女王様の許可は取ってもらうよ」


どうやら俺が最後まで言う前に勝手に自己解決したらしい。


「ああ、分かってるって。これから女王様のところに行くところだから」


俺はそう言うと硬い表情のアナの手を取り、そして頷くとそのまま手を引いて里へと案内する。


「あー、アレンだぁ!」

「あれ? 知らない人間がいるよ?」

「大丈夫なのかしら?」

「夏祭りに連れて来たってことは、そう言う事なのかしら?」


もう里のエルフたちとは全員顔見知りなので俺が歩いていても何か言われることはないが、アナはやはりかなり警戒されているようだ。


俺は適当に挨拶をしながら日の落ちた里を女王様の家に向かって歩いていったのだった。


****


「アレン様、どうやらシェリーが随分と強引なお願いをしてしまったそうで、申し訳ありませんでした。しかも助けて頂いたそうで、本当にありがとうございました」

「そんな、こちらこそシェリルラルラさんを宙吊りにして運んでしまい、申し訳ありませんでした」


お互いに謝ったところで女王様がアナに視線を向ける。


「それで、そちらの女性は?」

「はい、紹介します。こちらの女性はアナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様、俺の……大切な女性です」


俺がそう言った瞬間にアナが息を飲んだ音が聞こえた。


「そう、この人がアレン様の……」


女王様は値踏みするような目でアナのことを無遠慮に見る。


「アナ様、こちらがこのエルフの里の女王様です」

「ラムズレット公爵が娘、アナスタシアと申します。女王陛下にお会いできて光栄でございます」


アナは優雅な所作で淑女の礼を取る。


「ふふ。そう。アナスタシアさんは良いところのお嬢さんなのですね。それでは、エルフの里が何故閉じられているかは、理解しているかしら?」

「……はい」

「そう。ではそれを知っていて何故、アナスタシアさんはここにアレン様と一緒に来ようと思ったのですか?」

「そ、それは……その……」


そう言ったきりアナは俯いてしまった。


「アレン様、少し外してくださるかしら?」

「はい。ではアナ様、俺は部屋の外にいます」


そう言われた俺は部屋から退出する。するとすぐに変態とミリィちゃんがやってきた。


「アレンー!」


そう言いながら突進してきたミリィちゃんを俺は受け止めると抱き上げてあげる。ちなみにミリィちゃんは俺が 4 年前に会った時すでに 3 ~ 4 歳くらいの外見だったが、今もほんの少し大きくなったかな、程度でほとんどそのままの外見だ。


普通であればエルフも 10 歳くらいまでは人間と変わらないスピードで大きくなるのだそうだが、ミリィちゃんはほとんど成長していない。そしてその原因こそがこの変態だ。


なんでも、この変態と契約したせいでミリィちゃんの存在はこの変態の存在に近づいた(?) のだそうだ。こうなったことで本来は 500 ~ 1,000 年くらいのエルフの寿命が 10,000 ~ 100,000 年くらいに伸びるのだそうだ。


そんな設定はゲームには無かったのでよく分からないが、エルフ的には嬉しい事らしい。その証拠に、女王様もシェリルラルラさんも、それに里のみんなも大喜びでミリィちゃんをお祝いしていた。


何て酷いことを、とは思ったが人間の価値観でエルフの事をとやかく言うのは良くないと思い、口出しはしていない。


ただ、それだけ寿命が伸びた結果、体の成長もそれだけ遅くなるわけで……。


この変態の目的はつまり最初からそういう事だったのだろう。


光の精霊様がこんな最低の欲まみれでいいのだろうか?


「アレンうじ、久しぶりだおっ!」

「相変わらずの変態っぷりだな」

「アレン氏も相変わらず口が悪いんだお」

「お前ほどじゃない」

「おっおっ」


こんなのが光の精霊とか、世も末だ。


「なんか、アレン氏が嫁を連れてきたって聞いたおっ。どこを好きになったんだお?」

「え? うーん、まあ、性格?」

「アレン氏が認める性格の良い幼女とか楽しみだおっ! 早く見せるんだお?」

「……お前に見せるとアナが穢れそうだ」

「むむむ、そんなにかわいい幼女なのかお? さすがアレン氏、ボクチンの認める同志だお」

「アナは幼女じゃねえ。それにそもそも勝手に同志扱いするな! 俺はお前の趣味を一片たりとも理解できねぇ」

「照れ隠しはいいんだおっ! ボクチンのミリィたんを愛でるその態度はどう考えても同志なんだおっ!」


いや、どう考えても小さい子が甘えてきたら可愛がらないか?


「ねぇー、抱っこぉー」

「あー、はいはい」


一度下ろしたミリィちゃんから再び抱っこをせがまれた俺はもう一度抱き上げてやる。


「ほら、論破だお!」

「お前は相変わらずうぜぇな」


俺はこの変態にニヤニヤされるというこの上ない屈辱を味わったのだった。

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