後日談第17話 元町人Aは妻と未来を語る
その日の夕食後、自室に戻ってきた俺はアナに話を切り出した。
「あのさ。俺たちの町、どんな町にしたい?」
「え? ……そうですね。やはり民が笑って暮らせる町がいいですね。アレンは?」
「俺は、やっぱり子供たちが
アナはそれを聞き、ふわりと微笑んだ。
「それはいいですね。平民の子供たちの中にはきっとアレンのように才能を秘めた子がいるはずですもの。そういった子が才能を磨ける場があるというのは大切ですね」
「うん」
「そのためにも、魔物から民を守る騎士団が必要ですね」
「うん。きちんとした街壁も」
「はい」
「あとは衛生面も気をつけなくちゃね。上下水道はしっかり整備しないと」
「そうですね。でも、水源はどうしましょう? 海が近いですから、井戸は難しいかもしれませんね」
「なら上流でダムを作って、そこから引くしかないかな」
「ちょうどいい場所があればいいですけれど」
「ああ、そうか。そうだね……」
「アレン、きっと大丈夫ですよ。川は流れていましたから」
特に根拠はないが、アナにそう肯定してもらえると大丈夫な気がする。
「町が出来たら、ジェロームとメリッサ、それからシエルにも遊びに来てほしいですね」
「ああ、そうだね。月の魔草の件ではお世話になったしなぁ」
「はい」
俺は彼らの姿を思い浮かべる。
きっと今もジェローム君はメリッサちゃんの尻に敷かれ、ジェローム君だけにやんちゃなシエルちゃんの玩具になってあげていることだろう。
「ジェローム君たちも俺たちの町に引っ越してくれたりしないかなぁ」
「ふふっ。それは楽しそうですね。でも……」
「分かってるよ。子育ての真っ最中だもんね」
「はい」
「なら、気軽に会いに行けるようにきちんと空港も整備しないと」
「そうですね」
「できれば横風用の滑走路もあるちゃんとした空港にしたいな」
「横風用? どういうことですか?」
アナは不思議そうに俺のほうを見つめてくる。
ああ、そうか。そういえば横風のことはちゃんと説明してなかったな。
「うん。実はさ。グライダーって、離着陸のときはできるだけ風と正対しているほうが安全なんだ。そうじゃないと風に
「そういうものなのですね」
「そうなんだ。それにさ。いずれグライダーで色んな人が飛べるようになればさ。災害救助とかの役にも立つし、人の交流とかも盛んになるじゃない。もちろん戦争に使われるおそれはあるけどさ」
「はい。でも、それだけじゃないですよね?」
アナは優しげに微笑みながらスッと俺の目を見据えてきた。
……ああ、アナには敵わないな。俺の魂胆など、すべてお見通しのようだ。
「まあ、ね。やっぱり空を飛ぶって楽しいでしょ? だからこの素晴らしい経験をもっと多くの人に体験してもらいたいんだ」
そう本音をさらけ出す俺を、アナは相変わらず優しく見つめてくれている。
「あ! そうだ! グライダーで飛行ツアーとかやったら、観光の目玉にもなるんじゃない?」
「ふふっ、そうですね。いずれはやりたいですね」
アナはくしゃりと大きく破顔した。それからアナがするりと俺のほうへと近寄ってくる。
「アレン」
「アナ……」
女神のように美しいアナの顔が近付いてくる。俺たちはどちらからともなく、気付けば唇を重ねていた。
「アレン、そろそろ」
「うん」
俺たちは寄り添い、ベッドへと向かうのだった。
◆◇◆
翌週、俺たちはやってきた建築家たちと面会することとなった。彼らの中から一人責任者を選び、建築を進めていくことになる。
俺たちが応接室で待っていると、外から扉がノックされた。
「入りなさい」
アナがよく通る声で入室を許可する。するとすぐに扉が開かれ、身なりのいい中肉中背の男が入ってきた。そして俺たちから少し離れた場所で臣下の礼を執る。
「ご苦労様です。楽になさい」
「ははっ!」
アナが威厳に満ちた声でそう言うと、男は礼を解いた。すると、横についてくれている執事がこの男についての説明を始める。
「この者はフィリッポと申す者です。特にドームの建築技術では並ぶ者がいないと言われております」
「そう。ではフィリッポ、お掛けになって」
「ははっ!」
フィリッポは俺たちの正面の席に着くと、何やら資料を取り出し始めた。
「フィリッポと申します。陛下のご威光を賜り、ヴィーヒェンを中心に建築活動を行っております。私めが得意とするのは教会建築で、ドーム建築においては右に並ぶ者がないと自負しております」
「そう。どのような建物を手掛けられたの?」
「はい。こちらをご覧ください」
フィリッポはそう言うと、資料を俺たちに見せてきた。
「たとえばこちらのヴィーヒェン西地区の第三教会の大ドームは私めの手がけた建築の中でも特に規模の大きなものです。大聖堂に勝るとも劣らない高さの天井に多くの彫刻を組み合わせ……」
フィリッポはそれからも自分の手がけた建築物を盛んに説明してくるが、どうやら彼は巨大建築は得意そうだが町をまるごと設計するという経験はないようだ。
「そう。説明ありがとう。アレン、この者に何か質問は?」
俺が首を横に振ると、アナも小さく頷いた。
「フィリッポ、今日は来てくれてありがとう。この資料はいただいてもよろしくて?」
「もちろんでございます! 何卒、よろしくお願いします!」
こうして俺たちはフィリッポが退室していくのを見送ったのだった。
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