side. エイミー(8)
何だか色々あったけど、もう悪役令嬢は帝国に着いてるはずだし、冬にはラスボスになって襲ってくるはずよね?
それだったら、先に聖なる導きの杖をゲットしておけば良いんじゃないかしら?
なんだかもうシナリオも滅茶苦茶になっているし、これさえあればあたしは聖女様になれるはずだもの。
あの陰キャに祝福イベントは邪魔されちゃったけど、まだゲームオーバーになってないんだから本当はいらないイベントだったってことよね?
そんなことに気付くなんて、あたしって天才だと思わない?
そうよ。そうと決まれば善は急げよ。
あたしはカール様にお願いして廃教会を探してもらったわ。
そこにあたしのための杖があるって。
それで見つかった王都の西の森の中にある廃教会に行ったらあっさりと見つかったわ。
廃教会なんて沢山あるはずなのに、こうして簡単に見つかっちゃうなんてやっぱりあれよね。
そう、あたしがヒロインである証拠に違いないわ。
そして、祭壇に捧げられている杖!
ああ、もう。スチルで見た通りの綺麗な杖ね。
あたしはゲームのイベントを再現するためにちょっと演技をしたわ。
「こ、これは?」
「エイミーのための杖だ。そうだろう?」
「なんだかあまりに綺麗でびっくりしちゃって。これ、あたしが触って本当にいいのかな?」
「良いに決まっている。エイミーはその杖に選ばれているに違いない」
「レオ……。う、うん。わかったわ」
そうしてあたしがその杖を手にした瞬間、頭の中に声が聞こえてきたわ。
『導きを求めし者よ。あなたの強い願いを認め、力を授けましょう』
次の瞬間、あたしの体は光に包まれたわ。
それから光が収まった瞬間、あたしは確信したの。
特別な存在になったってね。
ふふふ、最高の気分ね。
それにカール様たちもびっくりして目を見開いているわ。
「え、エイミー? 今の光は?」
カール様がそう言ってあたしを驚いたような表情で見ているわ。レオもね。
マルクスとオスカーは腰を抜かしてしまっているわ。
それに口をあんぐりと開けて目を見開いちゃって。
ふふ。やっぱり聖女として覚醒したあたしに惚れ直しちゃったのかしら?
「カール様。あたしは今、慈愛の聖女として覚醒したの。ねえ、みんなもそう思うでしょう?」
「ああ、そうだな」
「俺もそう思う」
カール様とレオは二つ返事でそう言ってくれたわ。
「ね? マルクスもオスカーも、そう思うでしょ?」
あたしはびっくりしすぎて返事をしてくれなかった二人に向き直ると、そう言ってニッコリと笑ってあげたわ。
「はい。私もそう思います」
「そうだね。僕もそう思うよ。慈愛の聖女、優しいエイミーにはぴったりだね」
ふふ。やっぱり二人もそう思ってくれているのね。嬉しい!
「みんな、ありがとう!」
ふふ。どうよ! これでもうあたしの勝ちよ!
****
それからのカール様たちは今まで以上に優しくしてくれるようになったわ。やっぱり聖女様になったからなのかしらね?
ただ、ちょっとムカつくこともあって、今まで以上に見られたくもない男からじろじろと見られるのよね。
なんだか元々可愛かったあたしの美貌に更に磨きがかかったみたいなのよ。
でもウザいったらないわね。じろじろ見んなっつーの!
あ、でもイケメンに見られるのは大歓迎よ?
むしろもっと見て欲しいわね。女は見られて美しくなるの。
それにね。なんだか分からないんだけど、慈愛の聖女になってからはあたしの言うことをみんな聞いてくれるようになったの。
ゲームだとウェスタデールに行ってからものすごく苦労していろんな人を一生懸命に説得するはずだったんだけど、ちょっと不思議な感じよね。
そのための選択肢も全部完璧に覚えているのに、もしかして無駄になっちゃったかしら?
でも慈愛の聖女の平和を願う祈りと言葉が人々の心を動したっていう話だったし、シナリオが滅茶苦茶になっちゃってるから色々スキップしてあたしのためにこうなったのかしらね?
うん、きっとそう。
間違いないわ。
これで後は、王都が攻められたらウェスタデールに逃げ出せば良いのよね。それでクロードにお願いして軍を出してもらえばいいのよ。
そう思っていたんだけど、なんかわけわかんないことになったわ。
なんか、エスト帝国と戦って勝っちゃったらしいのよね? どういうことなのかしら?
それにゲームでは処刑されるはずの悪役令嬢一家がまだ生きてるし。
しかもなんかエスト帝国の皇太子の首をあの陰キャが取ってきたんだって。
愛しの悪役令嬢を取り返しに行ったのかしら? 泣けちゃうわぁ。
あれ? となると、悪役令嬢はどうなったのかしら?
でも無事だったなら噂ぐらいは流れてくるはずよね。
そうよね。てことは、きっと手遅れだったに違いないわ。
死んでたか、ぐちゃぐちゃに壊されてもう二目と見られない体になっていたとか?
意外ともう魔剣に魅入られて暗黒騎士になってたのかもしれないわね。
ふふ、残念ね。ふふふ。
ああ、いい気味だわ。
散々あたしの邪魔をした悪役陰キャは悪役令嬢を失い本来のヒロインであるあたしの前に跪くのよ。
あは、あは、あはははは。
****
そう思っていたんだけどね。やっぱり変なのよ。
今度は悪役令嬢一家が王様に反旗を翻して、小麦を売らなくなったそうなのよ。
これって
あたしがそうカール様に尋ねたら、勇ましく討伐に名乗りを上げてくれたわ。
かっこいい!
やっぱりあたしのカール様は最高ね。逆賊の手からセントラーレンの大地を取り戻すんですって。
あれ?
もしかしたら、これで悪役令嬢一家を倒してエンディングかしら?
エスト帝国も倒しちゃったらしいし、もうこれで良いんじゃないかしら?
うん、そうよ。そうに違いないわ!
それでね。あたしはカール様と王様に言ってみたの。
エスト帝国は皇太子が死んだんだから、全力であの逆賊を倒すべきだって。
そうしたら二人ともあたしを褒めてくれたわ。
まさにその通りだって。慈愛の聖女はさすがだって。
ふふふ、これであたしは王様公認の慈愛の聖女様よ。ちょっと王様のあたしを見る目がイヤらしいけど、仕方ないわよね。
やっぱりモテる女には王様だって目が離せなくなるの。
そんなの、当然よね?
あはは。
あー、気持ちいい。
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