第38話 町人Aはパーティーに参加する
その後、エイミーがアナスタシアに階段から突き落とされる事もなく日常は過ぎていった。
正確には、エイミーがあの手この手を使ってアナスタシアを階段に呼び出そうとしていたのだが、先生や取り巻き令嬢たちを上手く使ってのらりくらりと躱し続けたのだ。
結果として、エイミーには突き落とされた風の自演すらさせずに学期末を迎えたのだ。
もちろん、期末テストもあり、その結果が貼り出された。
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1 位 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット(500)
1 位 アレン(500)
3 位 マーガレット・フォン・アルトムント(491)
4 位 イザベラ・フォン・リュインベルグ(456)
5 位 エイミー・フォン・ブレイエス(451)
6 位 マルクス・フォン・バインツ(441)
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9 位 クロード・ジャスティネ・ドゥ・ウェスタデール(421)
10 位 オスカー・フォン・ウィムレット(419)
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29 位 カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン(396)
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38 位 グレン・ワイトバーグ(379)
39 位 レオナルド・フォン・ジュークス(261)
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ちょっとスカッとした。
いや、訂正する。かなりスカッとした。
ざまあみろ!
ゲームでは精神的に追い詰められたアナスタシアが調子を崩してエイミーに学年一位の座を奪われる。その結果として更に追い詰められ、それが断罪イベントで我を忘れての決闘申し込みにつながるのだが、結果は逆だった。
エイミーは成績を落として学年 5 位、アナスタシアは 1 位に返り咲いてアナスタシアの取り巻き令嬢たちが成績を上げて 3 位と 4 位だ。
しかも偉そうな口をお叩きになられていたカールハインツ王太子殿下様、ついに下から数えたほうが早い成績におなりになられやがったぜ。
さらにさらに! アナスタシアに力ずくで冤罪を認めさせようとした未来の騎士団長レオナルド様、二期連続でぶっちぎりの最下位だ。
ざまぁ! ざまぁ!
そんなことを思いながら掲示を見ていると、後ろからアナスタシアに声を掛けられた。
「アレン。今回は負けなかったぞ」
アナスタシアのその声は心なしか弾んでいる。俺は振り返るとアナスタシアに賛辞を贈る。
「アナスタシア様、おめでとうございます。満点ですね」
「いや、アレンだって満点じゃないか。さすがだな。おめでとう」
「ありがとうございます」
俺は素直にアナスタシアに頭を下げる。
「アレン君、やっぱりさすがよね」
「マーガレット様。3 位、おめでとうございます」
マーガレットの声がして振り返ると、そこには笑顔のマーガレットともう一人のアナスタシアの取り巻き令嬢が並んで立っていた。茶髪に黒い瞳の一見地味なこの人は確か、ゲームだとエイミーに嫌がらせをした実行犯だった気がする。
「ありがとう。でもあとちょっとでアナスタシア様に並べたんだけどなぁ」
そう言って悔しがるも、その表情は満足げだ。
「アレン、彼女はイザベラだ。リュインベルグ子爵の娘だ。イザベラ、知っていると思うが特待生のアレンだ」
「イザベラ様、お目にかかれて光栄です」
「こちらこそよろしくね、アレンさん。きっと来期からはわたしたち同じクラスだから」
「アレン、イザベラは今期までは B クラスだったのだ。だがこの成績であれば間違いなく A クラスに上がれるだろう。仲良くしてやってくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言って挨拶をしたが、このまま断罪イベントが発生すれば残念ながら俺はこの学園から去ることになるだろう。
俺の胸にはもやもやとした気持ちと罪悪感が残ったのだった。
****
そしてその夜、多くの来賓を招いて学園の全生徒が参加する卒業・進級祝賀パーティーが王城にあるダンスホールで開催された。
今は 12 月なのだが、学園はこのまま冬休みに突入し、そのまま次の春まで長い休暇期間となる。領地のある貴族家の者は領地に戻って手伝いをしたり自習したりするそうだが、ゲーム的にはレベルアップのための期間という扱いだ。
さて、ダンスホールには貴族のご令息、ご令嬢たちが既に集まっており、ここぞとばかりに豪華な衣装を身に纏って歓談している。しかしそんな豪華な衣装も歓談も俺には全く縁のない話だ。いつも通りの制服でいつも通り壁際の置き物をしている。
提供される食事も毒味済みの冷めた食べ物ばかりだが、今後はもう二度と食べる機会もないだろうからじっくりと味わって食べておこうと思う。
アナスタシアは取り巻き令嬢たちと一緒にいるし、エイミーはいつも通り王太子たちを侍らせている。この光景も今日で見納めかと思うと少し寂しい気持ちがこみ上げてくる。
そして宴もたけなわ――といってもお酒が提供されているわけではないが――となってきたところで、各学年の最優秀者の発表を行うのだという。
まずは卒業する二年生の生徒が呼ばれた。何でも、学問、魔法、剣術の全てで優秀な成績を修めながらもそれに飽き足らず、研究を重ねて大学の教授と一緒になって新しい魔法石を開発したのだそうだ。
壇上に上がって挨拶をし、そして何故か王太子に礼を言って下がっていった。会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
そして、次に俺たち一年生の番だ。会場にアナウンスが流れる。
「一年生の最優秀賞は、カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン王太子殿下です」
その名が告げられた瞬間、会場は割れんばかりの拍手で包まれる。しかし、拍手をしている人の表情はそれぞれで、心から祝福をしているように見える人、悔しそうな表情をしている人、興味はないが一応拍手している人と様々だ。
だが、誰のルートを進んでいたとしてもここでは必ず王太子が呼ばれ、そして壇上から悪役令嬢を断罪するというのがゲームでのイベントだ。
「王太子は、特に剣術、魔法を中心に優秀な成績を修め、学問においても専門家をしっかりと巻き込んだうえでの多角的な検証、そして社会問題にも深く切り込みとても学生とは思えない活躍をなさいました。それが評価されての受賞となります」
そう説明された王太子殿下が壇上に上がると表彰状を当然のように受け取る。
そしてくるりと壇上からこちらを向いた。
「皆、ありがとう。だが、これは俺一人で成しえたものではない。今から名前を呼ばれた者は壇上に上がってきてくれ。クロード・ジャスティネ・ドゥ・ウェスタデール、お前の卓越した着眼点にはいつも驚かされる。これからも俺の良き友でいてくれ」
「おう」
「マルクス・フォン・バインツ、お前は俺の魔術のライバルでもあるが同時にお前の冷静な判断にいつも助けられている」
「はい」
「レオナルド・フォン・ジュークス、お前は常に俺の剣としてたゆまぬ努力を続けてくれていることに感謝する」
「はっ」
「オスカー・フォン・ウィムレット、お前の物の真価を見抜くその目にはいつも驚かされている。これからも頼りにしているぞ」
「任せてよね」
攻略対象全員が壇上に上がる。そして一呼吸おいて王太子は口を開く。
「エイミー・フォン・ブレイエス、俺はお前に出会い、人として大きく成長することができたと思う。これからもずっと俺の側にいて欲しい」
「っ! はいっ!」
エイミーは嬉しそうに檀上へと駆け上がると王太子の腕の中に収まる。しかし常識では考えられないその行動に眉をしかめる来賓も少なくなかった。
「俺のこの業績は、彼らの助けがあってはじめてできたことだ。俺はこの事を忘れず、民を導く立派な王となるべく研鑽を積んでいくことを約束しよう」
「カール様ぁ」
「そうだ。お前ならできるぜ」
「私も全身全霊でサポートしますよ」
壇上で茶番が行われ、その茶番に会場からは拍手が送られている。
その光景を俺は冷めた目で見つめていた。
「そしてもう一つ、ここで宣言しておくことがある」
王太子は良く通る声でそう宣言すると一呼吸置いた。
「アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット、前へ出ろ」
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