第75話 町人Aは変態を連れてくる

翌日、俺はミリィちゃんを連れてエルフの里の空港を離陸した。最初は散々にはしゃいで大変だったが、すぐに俺の背中の上で眠り始めてくれた。


それから起きては興奮するミリィちゃんを何とかなだめすかし、時には着陸してご機嫌を取ったりしつつもどうにか日が暮れる前に公爵邸の庭に帰ってくることができた。


今日か明日には戻ると言っておいたおかげか、俺が着陸するとすぐにメイド長さんと俺のお世話をしてくれたメイドさんが出てきた。


しかし二人は俺がフードをすっぽりと被ったミリィちゃんを抱っこしているのを見てものすごく怪訝そうな表情を浮かべた。


しかもお世話をしてくれたメイドさんはどうも俺を非難するような目で見ているような気がするんだが一体どういうことだ?


「メイド長さん、公爵様に俺が戻ったとお伝えしてください」


そうして俺は半分寝ている状態のミリィちゃんをだっこして公爵邸の中へと入っていく。


『ここに来るのは久しぶりなんだお。確かにリザたんの嫁ぎ先はこんな場所だったお。それとあのメイド長の BBA も昔はかわいかったんだお』


なんと言うか、本当にこの変態は大賢者様のようだ。


中身は本当にアレだが……。


『あ、でもアレンうじを睨んでいた BBA は知らない BBA だお。アレン氏、何かしたのかお?』

「心当たりがさっぱりない。俺が聞きたいくらいだ」


ちなみに、俺は口調をいつも通りに戻している。この変態にいつも通り喋らないと気持ち悪いと言われたのでそれに甘えることにしたのだ。


『アレン氏、ボクチンと同類なのを見透かされているんじゃないのかお? アレン氏、誘拐は犯罪だお? 前科があるなら白状するんだお?』

「いや、ねーから。それから断じてお前と同類じゃねぇ!」


さて、そんな会話をしつつもおねむで船を漕いでいるミリィちゃんを抱っこしながらアナの部屋へと急いで向かう。


だが、ちょっと急ぎすぎてしまったようで、途中でミリィちゃんが目を覚ましてしまった。


それからは、屋敷に飾られている絵を指さしてはあれは何、これは何と質問攻めにあって大変だった。


だがなんと! 変態がその質問に対してミリィちゃんでも分かりやすいようにかみ砕いて答えていったのだ。


『なんて目で見ているんだお? これでも人間だった時は賢者とか言われてたんだお。これくらい一般常識なんだお』

「なんで賢者のくせに美術品まで知ってるんだよ」

『質問にちゃんと答えればロリは凄いって言って喜んでくれるからに決まってるお!』


そう言って変態は胸を張るが動機はアレだ。しかもこいつは光の精霊なる存在になっているせいで見た目はとんでもない美少女なのだ。


そのギャップがなかなかに酷い。


しかもこいつ、ミリィちゃんと俺以外の前では理想的な光の精霊様を演じやがるもんだから誰もこいつの異常性に気付いていない。


流石、変態のくせに変態と思われずに無私の大賢者様をやり続けただけの事はある。


「はあ。なんでお前は俺の前だけでそんなにカミングアウトしてるんだ?」

『んー、なんでかお? ボクチンにもわからないんだお。でもアレン氏はそんなボクチンでも嫌わないんだお?』

「ま、まあな」

『ということは、きっとアレン氏もボクチンと同類ってことなんだお』

「ぜってーちげーから!」

「アレンー、何がちがうのー?」

「ん? 何でもないよ」

「んー」


ミリィちゃんがこの変態の本性に気付いた時に一体どんな反応をするだろうか?


そんな不安を覚えつつも、俺たちはアナの部屋へと辿りついた。


コンコン


「アナ、入るよ」


俺はドアをノックしてから声をかける。


「どうぞ、お入りなさい」


中から返事が帰ってきて一瞬ドキッとしたが、すぐに冷静になる。


そう、これはエリザヴェータさんの声だ。


俺たちがドアを開けて中に入ると、エリザヴェータさんがアナの看病をしてくれているようでベッドサイドに腰かけている。


「失礼します」


俺はミリィちゃんを抱えたまま部屋に入る。


「あら? その子は?」


俺は扉を閉めるとミリィちゃんをエリザヴェータさんの前に連れていく。


「エリザヴェータ様、この方はエルフの里の女王様の末のご息女ミリルレルラ様です。そして、今ミリルレルラ様の右肩の位置に、ミリルレルラ様と契約なさっている光の精霊ロー様がいらっしゃいます」

「まあ、それは! はじめまして。アナスタシアの母でラムズレット公爵が妻、エリザヴェータでございます。ミリルレルラ様、ロー様、本日は娘のためにご足労賜り感謝いたします」


そうしてエリザヴェータさんはそれはそれは優雅で見事な淑女の礼を取って見せた。


「んー、アナのおかあさん? あ、アナだー」


ミリィちゃんはそんなエリザヴェータさんをじっと見つめた後にアナを見つけ、俺の抱っこを振りほどいてそのベッドにダイブした。


「あ、ちょっと、ミリィちゃん! アナは今」

「ねてるー」


そう言いながらもミリィちゃんはアナの頬をぺちぺちと優しく触っている。そんな様子にエリザヴェータさんは苦笑いを浮かべている。


「どうしてこのような幼子一人を連れてきたのですか?」

「女王様に今回の話をしたら、じゃあミリィちゃんも連れて行ってくださいと、拍子抜けするほどあっさりと決まりまして。俺も何が何だかさっぱり」


やや非難めいた視線を向けてくるエリザヴェータさんに何とか答えるが、そこに変態が補足説明を入れてくれた。


『ボクチンはミリィたんと契約しているからミリィたんからは離れられないんだお。だからボクチンがどこかに行くにはミリィたんも一緒に行く必要があるんだお』

「な、なるほど。ええと、ロー様はその契約者であるミリルレルラ様からあまり離れることができないのだそうです」

『しかし、これがリザたんかお? やっぱり老けたんだお』


エリザヴェータさんは俺の説明を聞いて得心している様子だが、その横で変態はさらりととんでもなく失礼なことを口走った。


だが、流石にこんなことは伝えられない。


『さて、じゃあ診るとするんだお』


どう話を続けようかと思案している俺を尻目に、変態はそう言ってアナの枕元へと飛んで行ったのだった。

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